第50話 君は悪役か!
意思を持ったホウキたちがどうして魔女のそばにいて使われているのか。
それは、俺が倒したホウキをライラが撫でたあと、まわりに防御魔法を張ってもホウキが消さなくなったことから明らかに解る。
ホウキも、奴隷契約の呪いにかかっている。
ライラが撫でることで、一本目のホウキはその契約から逃れた。
そして、もう一本のホウキは俺が柄を持ってきたことでホウキが殺されたのだと勘違いして俺を襲ってきている。
魔女はなんとかホウキの動きを止めて支配下に戻そうとしているが、どうもホウキの力が強すぎて拮抗しているみたいだった。
そう、ホウキは強い。
思えば、俺が以前倒した魔女も、魔女を倒すのに苦戦したと言うよりはホウキをどうにかして攻略するのに苦戦したという方が正しい。
当時は当然、魔女がホウキを道具として操っていると思っていたから、魔女が恐ろしく強いのだと勘違いしていたけれど。
一説によれば、「どれほど強力なホウキを作り出し、それを支配下に置くか」と言うのが魔女たちの位を決める指標になっているようで、防御魔法を打ち消し、槍術を使えるこんな強力なホウキを二本も従えているこの魔女はおそらく上位に食い込んでいるのではないかと思う。
奴隷契約の呪いを使っているにもかかわらず、ホウキがこちらに向かってきている以上、その支配はギリギリみたいだが。
骸骨野郎は何が起きたのか解っていないようで、
「おい、なんだその棒は? 槍?」
「ホウキがもう一本あったんだよ。さっきなんとか倒すのに成功して、これはその残骸」
「君は悪役か! まるで友人の首をさらすようなものじゃないか!」
「いや、これホウキの本体じゃねえって」
そしてホウキを殺した訳でもない。
上空では魔女がホウキをなんとか押さえ込もうとしてアーティファクトを持っていない三つの腕で柄を掴みぐいぐいと振っているが、ホウキは魔女を振り落とさんとするばかりに暴れ回って、縦横無尽に動き回る。
そして、ついに、魔女が地面落ちた。
奴隷契約が本当にあるのかと疑問に思ってしまうくらいの反抗だ。
ホウキはそのまま怒りにまかせ俺に突進してくる。
魔女は基本【荒れ地】生まれ【荒れ地】育ちだ。
と言うことはこのホウキも【荒れ地】の中で切磋琢磨してきた存在のはずで、強敵なのも納得。
俺と同じ環境で育ち、俺よりもリーチの長い武器を使う。
あれ?
勝てるかなこれ?
さっきは防御魔法で気をそらして戦ったから勝てたけど、今は……。
俺がさっきつくりだした防御魔法には目もくれず、ホウキは俺に向かって突進してきている。
勢いそのままの刺突を剣を交えながら避ける。
重すぎる!
後ろに飛んで衝撃を緩和したが、すでにホウキは次の攻撃に繰り出している。
ホウキは俺の周囲を旋回しながら刺突を繰り出し、上段下段を自由に動いて、アイアンメイデンのごとく俺を蜂の巣にしようする。
さすがに全ては避けきれない!
剣で弾き、刹那で避けることに集中しているが、徐々に身体に傷がついているのは感じていた。
掴むことも考えたが、結局投げられて地面に叩きつけられ、身動きがとれないところを串刺しにされるのがオチだ。
では、どうするか。
こんなときも師匠の言葉が頭に浮かぶ。
――リーチが長いなら、切り落として短くすればいい by師匠。
「厳しいことを言うよ、ほんと」
そして脳筋。
頭使えよ。
俺は剣に魔力を流して、次の刺突を受ける。
スパンと、槍の先端が地面に落ちる。
「やっと落ちた。攻撃速すぎて、切り落とすのも一苦労だな」
ホウキは常に急所を狙ってきているので、切り落としても勢いそのままに、貫かれる可能性がある。
だから、俺がやらなければならないのは、刺突から避けて、その上で柄を切り落とすという二つの動作。
「きっついな」
柄を切り落としてもなお、その先端は尖っていて、ホウキは怒りにまかせた刺突を繰り返す。
俺は身体の傷を最小限にするように動いて、柄を切り落としていき、ついに長さを半分にするところまで来た。
ここまで来れば、根元を狙える!
俺は剣を構え待ち受ける。
ホウキが渾身の力で俺を貫こうと一瞬距離をとった。
が、
そのまま動かず、半分になった柄で、遠くを見るかのように浮かんでいる。
なんだ?
どうした?
ホウキはしばらくそうしていたが、突然ふらふらと不安定な飛行で、俺の頭上を越えて飛んでいく。
逃げた、訳じゃないよな?
「きーーーーーー!」
ホウキの声が遠くから聞こえる。
見ると、ライラの腕のなかでホウキの穂先がぴょんぴょん跳ねているのが見える。
どうやら他の影を奴隷から解放する作業は完了して、こちらに戻ってきたらしい。
折れたホウキはそれを見つけたんだ。
ホウキがふらふらと近づくと、ライラの胸の中から穂先がぴょんと跳びだして、ズリズリと地面を進みながら折れたホウキの方へと進んでいく。
二つのホウキが感動の再会を果たした。
俺の隣で骸骨野郎がグズグズと鼻を鳴らす。
鼻ないけど。
「よかったなぁ。イケメン野郎に殺されたとおもったのにちゃんと生きてたんだなぁ」
「おい! 俺悪役かよ!」
「悪役だろうが!」
悪役だった。
地面を転がる穂先はライラを示すようにぴょんぴょんと跳びはねている。
半分になったホウキは半信半疑なようにしばらくふらふらしていたが、意を決したようにライラに近づいていった。
ライラが、その穂先に触れる。
半分のホウキはその瞬間、いままでふらふらと飛んでいたのが嘘であるかのようにびゅーんと空高く舞い上がって、天井にぶつかって落ちてきた。
そこに空はないんだ、考えればわかるだろ。
バカだった。
二つのホウキが「きゅいきゅい」と鳴いてライラに近づき、喜びを分かち合っている。
俺の隣で骸骨野郎が「ううう」と唸って泣いて、
「めでたしめでたしだな」
そう呟いた、まさにその時、
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
と叫び声が聞こえて振り返ると、魔女が立って、四本の腕を掲げ暴れていた。
……コイツの存在、忘れてた。
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