第49話 おい逃げんな!
あたりを見回したがどうやらあらかた影の奴隷は倒せたらしい。
すでにライラが《守護者》スキル持ちの冒険者と一緒に冒険者パーティの影と、骸骨友人、
最初の方に球体にした奴らはそろそろ身体ができあがっているから早めに解放しないといけない。
また攻撃を始められると困る。
そう考えてライラと今まで倒した奴隷たちを解放して回ってはいたのだけど、
「で、なんでお前はそのホウキを大事そうに抱いてるんだ?」
俺は耳栓をしているライラにも解るようにジェスチャーを交えて口を大きく開けて言った。
「だって可愛いじゃないですか。もうきっと襲ってきませんよ。そうですよね? よしよし」
穂先をまるで犬みたいに撫でている。
さっき念のため防御魔法をかけてみたが、こいつはまったく興味を示さなかったから本当にもう大丈夫なんだろう。
穂先はこれまた犬みたいにライラの胸に身体を押しつけるようにして「きゅいきゅい」と鳴いている。
「おい! ホウキのくせにずるいぞ! 私の天使、私のことも撫でてくれ!」
《守護者》の青い目の影が後ろからついてきていてライラに言う。
俺は彼女を見て、
「で、お前はやっぱりもう奴隷じゃなくなったんだな」
「お前って言うな。私はブレアだ。ブレア・スロラだ。お前が私をぶった切ったのを忘れた訳じゃないからな」
「お前って言うな。俺はシオンだ」
「聞いてない。どうでも良い」
「んだとこら! また球体にされてえか。心もきっと丸くなるだろうよ」
一度球体になったのにこの言いようだから、多分これ以上ブレアは丸くはならないと思うけど。
「まあまあ」
とライラは苦笑しつつ、すでに身体を作りかけている影たちを撫でて奴隷から解放していく。
「ライラ、後は任せた。俺は骸骨野郎と一緒に魔女をなんとかする。で、ブレア、ライラを守ってくれ」
「お前に言われなくても守る。私の天使だからな」
もう完全に信者二号になってしまっている。
もちろん一号はSランク冒険者、グウェン・フォーサイス。
「じゃあ、任せた」
俺は言って、骸骨野郎と魔女のところへと向かった。
アイツ大丈夫かな。
死にはしないだろうけど。
近づいて行くと、
骸骨野郎はマンドレイクを両手に握りしめて叫んでいた。
「こっちがドー! こっちがレー! あっちがミー! あー! マンドレイクごとに音程があるんだなあ! これで楽器作れるなあ!」
「何やってんだお前、バカか」
そんな殺人楽器、誰が演奏するんだ。
「バカにもなるわ! どんだけ長い間マンドレイクの叫び声を至近距離で聞いていたと思ってる!」
いや、それは悪かったけどさ。
「で! 終わったのか!? 影の奴らは大体やったんだな!?」
「片付けた。いまライラが奴隷契約の呪いを解いてる」
「ライラたん! あとでぎゅーしてあげよう!」
「嫌われたいんだな? そうなんだな?」
「嫌われたいわけあるか!」
骸骨野郎が八つ当たり的にマンドレイクを魔女に投げつける。
魔女は嫌がるように大きく口を開けてそれを避け、耳を塞いでいない手でスパンとマンドレイクの首を切り裂く。
叫び声が止む。
魔女は目のない顔であたりを見回すようにして、影がほとんど奴隷から解放されてしまっているのを確認すると、ホウキを掴んでまたがり逃げようとした。
「おい逃げんな!」
俺のアーティファクトだぞ!
俺はまた遠くの方に防御魔法を発動したがホウキは反応しない。
命令の優先順位的には、魔女を逃がす方が上か。
まずい。
このままだと逃げられる。
と、そこで俺はあることを思いついた。
ライラがホウキの穂を撫でたとき、穂は甘えるようにライラに身体を擦りつけていた。
つまり、ホウキには意思がある。
感情がある。
多分だけど。
試してみる価値がある。
俺は売れるかと思って背中にくくりつけていたホウキの柄を取り出して空に浮かぶ魔女とホウキに向かって掲げた。
ホウキの残骸を、掲げた。
「オラ! これ見ろ!」
この柄はホウキの本体じゃない。
だから多分、人間で言えば装備品みたいな物で、俺がやっているのは「これはお前の友人の装備品だよなあ? 友人がどうなったか知りたいか?」みたいな行動だと思う。
我ながら悪役的だと思う。
魔女は家のある方向だろうか、遠くを指さして進め進めとホウキを叩いていた。
が、俺が柄を見せて叫んだ瞬間、
ホウキが魔女を乗せたままブルブルと震えだして、
「きーーーーーーーーーーー!!!!」
叫び声を上げ、魔女の命令を無視して突進してきた。
決定だ。
このホウキ、ただ操られてる道具じゃない。
独立して、意思がある。
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