第48話 あー久しぶりに戦ってるって感じだ。

 それにしても、あの青い目の影、強いな。


 五人いた冒険者パーティを蹴散らして、切り裂いて、完全に切り刻み、全て球体に変えてしまった。


 青い目の影はぐっと背伸びをすると、



「あー久しぶりに戦ってるって感じだ。開放感半端ねー。それもこれも私の天使のおかげだな! 撫でて撫でて!」



 そう言って、ライラの元に駆けより頭を突き出した。



「あの、えっとなんですか? 耳栓しててよく聞こえないんですけど? あ! 額くっつけて話してもらえます?」



 青い目の影は額をくっつけると、



「なーでーてー!」



 ライラは少し引き気味に苦笑して、



「ありがとうございました。本当に助かりました」



 言ってその頭を撫でた。




「うっはぁ。癒やされるぅ。好き! 好き好き! 私が操られて危険な状態なのに、わざわざ戻ってきて解放してくれてありがとう! Dランクなのに勇気を振り絞ってくれてありがとう! 愛してる!」



 青い目の影は女性ライラより身長が高く、抱きしめられたライラは胸の鎧を顔に押しつけられて窮屈そうだ。


 安堵の溜息を漏らす。


 これでライラはしばらく大丈夫だろう。


 あとは、



「お前だな」



 俺はホウキを見た。


 やっとこいつに集中できる。


 ホウキが二本あるってことは、もう一人魔女がいると考えた方が良いのか、それともあの魔女が二本とも操っているのか。


 解らねえ。

 解らねえが今はこいつに集中する。


 さっきまでライラを助けることに必死になって、考えることを放棄していたが、今なら冷静になれる。


 ミスリルの剣でホウキを斬ろうとすると、またもやぐるっと回転して避け、後の先をとって、俺に刺突を繰り出してくる。


 俺がそこで、結構離れた誰もいない場所に防御魔法を使いドームを作り出すと、ホウキは俺がそこに向かったわけでもないのに、一目散に魔法のところに向かい、穂先を向けて払い消し、また戻ってきて刺突を繰り出した。


 次は、ホウキごと囲うように、防御魔法を張る。


 ホウキの攻撃を防御するためではなくまるでホウキごと俺を守るように。


 瞬間、ホウキはピタッと止まると、、柄ではなく、穂の側を向けて払い、俺の防御魔法を消去した。



「やっぱりな」



 もっと早く気づくべきだった。


 このホウキの命令にはがある。


 そもそも俺との戦闘中でありながら何度もライラにかけた防御魔法を消していたのがおかしい。


 ホウキは俺との戦闘で優勢だったはずだ。


 一時は俺を地面に叩きつけすらした。


 であれば、俺を倒してから悠々と防御魔法を消してライラを倒してもよかったはずだ。


 このホウキは、敵にとどめを刺せる状態であろうが、なんであろうが、防御魔法が近くにあれば消去するという命令を下されている。


 魔女のアーティファクトの能力から、そういう命令に特化させたんだろう。

 だって殺さなくても、奴隷にしてしまえばいいんだから。


 ならば、やりようはある。


 俺は剣を振ってホウキに攻撃させる。


 何度もやっている同じ動作だ。


 ホウキは柄を向けて俺を貫こうと刺突を繰り出す。


 そこを掴む。


 当然、ホウキは嫌がるように俺をぶん投げて地面に叩きつけるだろう。


 が、



「ほら、餌だ」



 俺は周囲にいくつも防御魔法を発動した。


 俺を持ち上げようとしていたホウキは、ボールを投げられた犬みたいに、防御魔法の方へと近づき、消そうとする。


 そのわずかな隙があればいい。


 脳筋魔剣術を使い、ミスリルの剣に魔力を流す。


 鉄の剣はこの術でミスリル以下の強度しか保てなかったが、

 元がミスリルなら、強度は当然、それ以上になる。


 俺はホウキに引きずられながら、そのミスリル製の柄に剣を振り下ろした。



「おら!」



 バツン!

 ホウキの柄が穂先と綺麗に分かれる。


 さすがミスリルの剣。


 ほしいなあ。


 手に入れたら売るけど。



「きっ!」



 と悲鳴じみた声が聞こえて、ホウキが地面に落ちて、俺は柄から手を離す。


 穂と柄、どちらかがまた攻撃してくるとも解らない。


 剣を構えたまま二つに分かれた穂と柄を見ていたが、動いているのは穂の方で、ぴょんぴょんと地面を跳ねて飛ぼうとして失敗している。


 穂がなくなり完全に槍と化した柄の方は微動だにしない。


 物を払う部分が本体だったのかこいつ。


 ったく面倒かけやがってよ。


 何はともあれ、



「ホウキの討伐成功!」



 後は魔女をどうにかするだけだな。


 ……ミスリルの柄の部分、これは槍だから、って嘘ついて売れねえかな。

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