第51話 魔女の討伐

 魔女は俺たちに牙を剥いていたが、それは鼠が猫に向かって威嚇するくらいの意味合いしか持たない。


 俺がすぐさま魔女に向かって突撃すると、魔女は俺に背を向けて逃げ出した。


 が、

 すぐに立ち止まることになる。


 逃げた先には影。


 青い目の影たちがすでに周囲を取り囲んでいる。


 魔女は、また奴隷にでもしようとしたのだろうか、ブツブツと何かを言って腕を上げたが、俺はその隙に接近して、その上げている腕と、アーティファクトを握っている腕を切り落とした。


 溶けるように腕が消失する。



「キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」



 魔女は悲鳴を上げ、また暴れる。


 俺はアーティファクトを拾い上げると、魔女に剣を向けて言った。



「依存して、支配して生きるお前を助ける奴は誰もいねえな」



 そこがライラとの違いだ。

 魔女と、聖女の違いだ。


 いまや魔女は、支配していた者たちに包囲され、行き場をなくしている。

 ライラは、自分を襲ってきた奴らにすら守られている。


 俺は魔女に突進して、その胸を切った。


 魔女は残った腕で抵抗しようとしたが、ミスリルの剣がその腕ごと切り裂く。


 パン!

 と弾けるように、魔女は消失して、ドロップ。


 ぼとりと落ちたのはカチカチに固まった心臓だった。


 おお、と歓声が上がり、解放された影たちが喜ぶ声がする。


 骸骨野郎が俺に近づいてくると、



「魔女のくせに魔法を使わなかったな。もっと魔法戦争みたいになると思ったのに」


「道具がないと魔法を使えねえんだろ。こいつにできることは奴隷魔法をかけることだけだ。それが魔女の最も強力な武器なんだろうな」



 俺はこのとき状況証拠だけでそういったが、あとでアザリアに聞いたところそれは当たっていた。


 結局のところ魔女とは、「強者を奴隷として使役して身を守る魔物」であり、おとぎ話のように魔法をガンガン使う存在とはまったく別物。


 そのイメージがついたのは、魔女が道具を使って魔法を使ったり、使役された魔法使いの方が魔女だと勘違いされたりしたからだろうというのがアザリアの考えだった。


 実際、今回の魔女も魔法ではなくアーティファクトを使って不死身の影を作り出していたし、防御魔法を消去していたのも魔女自身ではなくホウキだった。


 俺が以前倒した魔女も多分そうだったんだろうが、俺に奴隷の呪いは効かねえし、ホウキだって空飛べるくらいだったから気づかなかった。



「まあそんなものなのかもな」



 骸骨野郎は俺の状況証拠からの類推に頷いて言った。



「あれ? そういえば……」



 と俺は思い出す。


 前の魔女は、魔女自身を討伐したあと、ホウキがボロボロになっていたはずなんだけど。


 ライラの方を見ると、二つのホウキはライラに甘えていて、消える気配がない。



「奴隷契約の呪いから解放したからか?」



 もしそうならライラのやったことはすさまじい。

 魔女からホウキを奪ったやつなんて聞いたことがねえ。


 魔女がホウキをその地位の基準にしているのであればライラは魔女になってしまったのかもしれない。


 聖女にして聖母にして魔女。

 称号が渋滞している。



「ま、これで一件落着だな」



 俺は言って、大きく背伸びをしたあと、



「さて帰るか」



 そう言ってアーティファクトを握りしめた。



「ねえ君」



 とそこに、青い目の影の一人が近づいてくる。


 ライラが奴隷から解放してくれたとは言え、解放できる状況を作り出したのは俺だ。


 いいだろう。感謝の言葉は受け取ろう。



「なんだ?」



 尋ねると、彼は俺の腰にぶら下がるミスリルの剣を指さして、言った。



「俺の剣返せよ」



 はい、すみません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る