第43話 魔女の顔には目も鼻もない
「んだよ、近所迷惑できねえな。ああ間違った。奇襲できねえな」
俺は魔女の姿を見上げながら呟く。
どうやって魔女は俺たちの存在を知ったのか。
ライラが奴隷契約の呪いを解いたときか?
いやそれなら、ここに来ているのはおかしいから、他に
いま球体にした影の奴隷たちもライラに契約解除してもらおうと思っていたがどうもそれは難しいらしい。
魔女が来たってことは他の影の奴隷たちまで向かってきているだろう。
魔女はすっと降りてきて畑に着地する。
「魔女って……あれですか? あんな見た目なんですか? ああ耳栓してたんだ、聞こえない……」
「魔物だからな。人間じゃねえんだよ」
怯えるライラに俺は大きく口を開けてそう言う。
ライラは唇の動きを読み取って頷いた。
質の良い厚手の布をローブのように仕立てて頭からかぶっている魔女の顔には目も鼻もない。
大きな口だけが歯をむき出しにしてそこにあり、二本の牙が顎まで伸びている。
調べたところによると周囲の知覚は視覚以外で行っているらしく、聴覚とそれから魔力に対する感覚が鋭敏で、その二つで世界を感じているらしい。
骸骨野郎は魔女の身体をじっと観察して、「相変わらずスタイルだけはいいね」と評した。
胸とか尻とか出ているところは出てるけどさ、
「お前あの顔でも身体に目が行くのかよ」
「ああ! これだからイケメンは! 結局は顔か! いいか、いくら顔が悪かろうが他にも良いところはあるはずだ!」
「何で魔女の良いところを探さないといけねえんだ」
そもそも魔女は人じゃねえんだよ。
腕も四本あるし。
「て言うかお前はあの魔女にその体にされたんだろうが。あの杖みてえなアーティファクトで」
ホウキから降りた魔女は四本ある腕の一つに、捻れた金属でできた杖を持っていた。
その先端に大きな球体があって、多分その中にドラゴンの心臓が入っているのだろう。
「あのアーティファクトどうやって使うんだ? 影の体にされないようにするには何に気をつければいい?」
「魔女の身体に見蕩れないことだな」
「……お前まさか身体に目を奪われている間にその体にされた訳じゃねえだろうな」
「半分は違う!」
「なんだ半分はって」
半分は見蕩れてたのが原因かよ。
割合、多過ぎだろ。
「で、どうやって使うか教えろ」
「詠唱があるんだ詠唱が。ほらあんな風に」
魔女がブツブツ言っている。
「おい始まってんじゃねえか!」
「大丈夫だ、まだ。あの詠唱アホ長いからな。詠唱終わりに出てくる魔法陣触れるとアウトだ。ちなみに魔法陣は簡単な防御魔法で防ぐことができる。私だって防げる」
「……じゃあなんでその体になったんだ? そんなに見蕩れてたのか?」
「違う。ヤバいのは……アレだ!」
魔女が手を振る。
彼女に付き従うようにそばに立っていたホウキがギュンと接近してきて、ホウキのホウキたる部分、穂先をこちらに向けて振った。
「あ? これだけか?」
何も起きない。
何も――
「え!!」
ライラが慌てたように言う。
見ると彼女の周りにあったはずの防御魔法が忽然と消えていて、骸骨野郎は唸った。
「あのホウキは防御魔法を消すんだ!」
俺はライラに防御魔法を張り直したが、ホウキが穂先を振るたびにいとも簡単にぱっと消えてしまう。
「ふざけんなよ」
前の魔女はこんな技を使えなかった。
あのアーティファクトを持っているからこそ、防御魔法解除に特化したホウキの使い方か!
この魔女はもしかしたら、前に戦った奴より数段上なのかもしれない。
ふざけんな、マジで!
【荒れ地】を生き抜いた防御魔法なのに!
こんなに簡単に消されてたまるか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます