第26話 俺は相変わらず嫌われている
ライラが本当にタイロンに剣を返したと知ったのは、タイロンが殊勝にも俺に謝りに来たからだった。
今まさに俺がギルドに入ろうとしていたところを、タイロンは呼び止めて、
「すまなかった。全て謝る」
そう言って詳細を語った。
話によればタイロンたちが俺を嫌うように噂を立てて色々と画策していたらしく、それは俺から他の冒険者を遠ざけることで、俺が魔石やら素材やらを落として歩いていることを知られないようにするためだったようだ。
ぶん殴った。
何してくれてんだ、てめえ。
俺がタイロンをぶん殴ったのはギリギリギルドの外だったので一ヶ月の謹慎を受けることはなかったけれど、ギルドの中から未だにタイロンを慕うDランクやらCランクやらの冒険者が飛びだしてきて、俺を罵倒した。
「更生しようとしてる人になにするんだ!」
「この悪魔!」
「遺品あさりのゴブリンが!」
何で嘘がばれたタイロンより俺の方が嫌われてるんだ?
タイロンが頬を押さえながら、
「いや、シオンは悪い奴じゃない」
「そう言えってこの悪魔に言われたんでしょう、タイロンさん!」
数日前に俺に突っかかってきた若い冒険者が言う。
そのあとごちゃごちゃと俺が言われた文句から類推するに、どうやらタイロンがダンジョンで跡をつけていた冒険者とは俺ではなく、別の見知らぬ凄腕冒険者だったと言うことになっているようだった。
そしてその存在は秘密裏にされていると言うことにもなっていた。
俺が嫌われすぎて真実がねじ曲がっている。
「そ、そうじゃないんだ、シオンは……」
タイロンは訂正しようとしたが若い冒険者たちは聞く耳を持たない。
はあ。
もういい。
いままでだって嫌われていた分、依頼も受けずに自由にやってきたんだ。
これからも嫌われて自由にやってやる。
俺は若い冒険者に向かって言った。
「ガキ、早くこいつを連れてけ。また俺の正義のパンチが繰り出される前にな」
「何が正義だ、悪の権化が、死ね!!」
ついに「死ね」が出ました。
タイロンは俺をチラチラと振り返ってはいたが後輩たちに連れられてギルドの中に入っていった。
その口が「ありがとう」の動きをしていたが、別にいい。
俺は俺の利益のために動くだけだ。
どうも俺の噂がある程度の常識になってしまっていて、ただマジで嫌われているだけになってしまっているようだから。
もういい。
いやよくないけど。
良くも悪くもいつも通り、俺はゴブリン十体分の魔石を嫌な顔をされながら提出して、今日も今日とて教会に向かう。
向かおうとする。
「あ、シオンさん。さっきの見てましたよ」
ギルドの前でライラが一人待っていた。
「見てたなら解るだろ。俺と一緒にいたらいろんなことに支障が出るんだよ。呼び止めるな」
「良いじゃないですか。周りの目なんて気にしませんよ、アタシ。そもそもグーちゃんにママと呼ばれ初めてから好奇の目にさらされているんですから」
それはそう。
グウェンのがプラスなら俺のがマイナスで差し引きゼロってところなんだろうか。
「あれからグウェンから連絡あったか? 最後に会ったのはタイロンのあの時だろ」
「毎日のように手紙が来てましたよ。しかも最重要機密文書で最速で。さすがに止めさせましたけど」
「アイツ……職権乱用してやがるな」
一体どれだけの人に迷惑をかければ気が済むんだ。
明らかにタイロンよりやべえことしてねえか?
「『笑う頭蓋骨の穴』でパーティは見つかったんだろ。その後どうなったんだ?」
「今は回復したみたいですけど、一緒のパーティには戻らなかったみたいですね。クソガキって言われたことが堪えているみたいです」
……俺は言い続けるけどな。
「ま、アイツはSランク冒険者で、ノルマだって平気でこなしてんだろうから、当然のように引く手あまただろ。性格はあれでも人気みたいだしな」
「面接してるって言ってました。ほとんど不採用みたいですけど」
「調子乗りやがって」
選考基準を知りたい。
ママであること、とか?
「お前は誘われなかったのか?」
「誘われたんですけど、断りました。そしたら帰ってきた手紙に涙の跡があって滲んでました」
「アイツお前のこと好きすぎるだろ」
泣くなよそんなことで。
「ヘイグについては何か言ってなかったか? こんなこと話したとかさ」
「いえ……何も」
「ふうん」
ま、そっちに関してはアザリアたちに任せているから、グウェンからの情報はあまり期待していない。
ああ、アザリアで思い出した。
「そうだ、ライラ。アザリアがお前を呼んでたんだった」
「う……ついにですか」
ライラは俺から数歩後退った。
「借金返すために何させられるんでしょう? 怖いんですけど」
「ちょっとした手伝いみたいなことを言っていたからな。秘密文書をどっかに運ぶとかじゃないか? わかんないけど」
「そうだと、いいんですけど。はあ……」
ライラが重い溜息を吐くのを隣で聞きながら、
俺たちは教会に向かった。
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