第14話 Sランク冒険者クソガキ

「よし、身ぐるみ剥いで、装備品を売りさばこう」


「生きてます! 生きてますよ、シオンさん!」


 

 ライラが俺の腕をひっぱたいて叫んだ。



「見れば解る。よく飲まず食わずで四日間も生きたもんだな。俺なら十日は平気だけど」


「何張り合ってんですか! ほら助けないと!」


 

 俺は防御魔法を外すとグウェンのそばまで近づいていき、腰にぶら下げていた水筒を押しつけた。


 グウェンはがぶがぶと飲み干し水筒はすぐに空になる。



「もっとよこせ」


「お前このクソガキ、それが助けられる人間の言い草か」


「ガキって言うな。ボクは十九だ。それにSランクだぞ。Sランクなんだぞ! もっと敬意を持て」


「よし、やっぱり身ぐるみ剥いで売り払おう」


「ダメですよ、シオンさん」

 


 ライラが呆れたように言う。


 さっきグウェンを儚げな美少女みたいな、深窓の令嬢みたいな言い方をしたけれど撤回する。


 口を開くとクソガキだこいつ。

 やっぱり噂は噂でしかない。


 もしかしたら式典なんかのときだけちゃんとしているという説もある。


 ライラは自分の腰につけたバッグからパンを取り出すと、自分の水筒と共にグウェンの口にもっていった。



「パン!」



 とグウェンが叫び、がぶりと噛んだ瞬間半分くらいが一気に無くなる。


 ライラはまるで凶悪な魔物にでも遭遇したかのように、「ひっ」と悲鳴を上げてパンを手放した。


 残りの半分を吸い込むように口に消したあと、グウェンは叫ぶ。



「水!」



 ライラが怯えているので水筒を受け取って、グウェンの口に注ぎ込む。


 これは比喩じゃない。

 俺はカップに水を注ぐように、グウェンの口に水を流し入れた。


 それでも彼女は溺れること無く、喉をごきゅごきゅ鳴らして飲み干し、



「ふう、生き返った」



 そう呟いた。


 生き返ったと言ってはいるが、両手両足を骨折しているし、結構な血の跡がある。

 どうやって止血したのかは解らない。


 この状況でこの精神状態なのはさすがSランクというところなんだろうな。


 と思っていたら、



「ううう、うううう! 死ぬかと思ったよおおおおおおおお!!」



 グウェンは泣いた。

 決壊した。


 今まで張っていた緊張の糸がいきなり切れたみたいに。


 子供かよ、マジで。

 俺と同い年とは思えない。


 ライラがよしよしと撫でているけれど、ライラの方が年下のはずで、ますますグウェンのがきんちょ感が強くなる。



「よしよし、怖かったね怖かったね。動けなくて食べ物無くて不安だったね。もう大丈夫だよ」


「ううう、怖かった。置いていかれて、死んじゃうんだって思って。うわあああ。ママあああああ」

 


 ついに幼児退行を始めたグウェンは頭をライラの腹にぐりぐりと押しつけるようにした。

 

 腹に戻って生まれなおそうというのか。

 神話の神かてめえは。



「置いていかれたってのは、ヘイグ・なんちゃらとか言うAランク冒険者にか?」



 俺が尋ねると、グウェンはキッとこちらを睨み、



「うるさい。ボクとママの時間を邪魔するな」


「ライラはおめえのママじゃねえだろうが!」


「え、…………違うの? ボクは養子ってこと?」


「お前ら初対面だろうが」

 


 養子も何もあるか。


 俺は溜息をついて、ライラに事情を聞き出してくれと視線を送った。


 ライラは困ったように苦笑して、



「ええと……グウェンさんは……」


「グーちゃんって呼んで!」


「…………グーちゃんは置いてかれたって言ってたけど、ヘイグさんに置いていかれたのかな?」


「違うよ! 皆に置いていかれたんだよ!! エリアボスを倒して、アーティファクトを見つけたからボクのことはもういらないって! ヒドいよね、ヒドいよね!!」



 ライラがばっと顔を上げて、俺は部屋の奥に駆け出す。


 元はここにいたエリアボスのドロップ品だろう、毛皮のようなものを踏んで、魔石のそばを通り過ぎ、壁を抉って作られた台座のようなものに近づいた。


 そこには箱があった。


 イーヴァの言うとおり、抱えて持ち出せるくらいの大きさだったが、

 それは開いていた。


 剣の形にくぼんだ跡だけが残っていて、中身がない。



「持って行かれた!!」

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