第13話 最下層にたどり着く

 四本腕牛犬猿が一つの門番で、そこから先は魔物のレベルも一段階上がるらしい。

 一度蹴るだけでは処理しきれず、二、三度蹴りを入れて倒していく。




 四階層はライラを背負いつつマップを見つつ進み、最後の階層、五階層にたどり着く。


 無駄に細々した模様が入っている荘厳な扉に出迎えられて、ライラは少し圧倒されている。


 さすがにそろそろ立てるだろうと俺は彼女を下ろすと、



「最下層に来たのは初めてだろ?」


「ええ。二階層までしか潜ったことありませんし、そこが最下層のダンジョンはありませんでした」


 

 俺は頷く。

 二階層が最下層のダンジョンなんて俺も知らない。



「最下層って呼ばれる場所には二種類ある。ただ、うじゃうじゃと凶悪な魔物がいるだけのパターンと、こんな風に荘厳な扉があって、最下層にふさわしく巨大な魔物がいるパターンだな。それは同時に自然発生的なダンジョンなのか、人工的なダンジョンなのかの違いでもあるんだが、この扉があるパターンは、人工的なほうだ」


「人工的? そんなのどうやって」


「世界に【荒れ地】を作り出した世代が作ったんだってのが一説だな。俺も詳しくねえけど」



 全部師匠の受け売りだ。



「で、歴史の話はどうでもよくて、重要なのは、扉のあるパターンはその先に危険な魔物が潜んでるってこと。どうもこの部屋にこのダンジョン特有の魔物が出現するようダンジョンは設計されてるらしい。詳しいことは知らねえけど、魔力が集まるようになってるってのはわかる」


「……さっきの大きな魔物もそうなんですか? あ! だから勝手に扉が閉まったんですね? シオンさんが閉めたんじゃなくて」


「俺が閉めたと思ってたのかよ」



 俺はそこまでバカじゃねえ。



「勝手にしまったのは、そう、人工的だから。道を間違えればこのダンジョンにも即死級の罠があるはずだ」

 


 ちなみにマップの即死級の罠がある道には、イーヴァのメモで「ここで死にかけましたっ」と書いてあるので、罠にはまったんだろう。


 何で死なねえんだあいつ。

 ゴキブリかよ。


 一応今回、俺はまだ罠にはまっていないのでイーヴァはちゃんと仕事をしているらしい。


 いつもこうなら良いんだけどな。



「ってことで、この先は危険だ。入る前に防御魔法をかけるから、入ったら俺の指示にしたがって隠れてろ」


「…………解りました」

 


 俺はライラの肩を抱いて引き寄せると、ちょっと大きめの球体状の防御魔法に身を包む。

 ライラの身体が球体の中に入っているのを確認して、



「行くぞ」



 言って扉を開いた。






「………………………………あれ?」






 意気込んで入ってきたのにその部屋には、魔物がいない。

 上から振ってくるパターンかと思って見上げたけれどただ天井があるだけだ。


 俺の隣でライラがじとっと睨んでくる。



「シオンさん、アタシのこと脅かすだけ脅かしてこれですか?」


「いや、いたはずなんだ! イーヴァのメモにもここには魔物がいるって書いてあるし!」



 ちなみにまた「死にかけましたっ」と書いてある。


 探索者シーカーが最下層の魔物起こしてんじゃねえよ!

 起こしたなら戦え!

 そしてアーティファクトを回収しろ。


 その方がお前の利益になる。



「何でだ? 訳がわからねえ」


 

 俺が首を傾げていると、



「…………そこのお前ら。ボクのことを救う栄誉をあげても良いよ」



 突然そんな声が聞こえてきた。


 だいぶかすれ気味ではあるものの、はっきりと響くその声は、部屋の隅、柱にもたれるようにして存在する女性冒険者から発せられたらしい。


 頬はこけ、目はうつろで隈ができているし、血なのか泥なのか解らない汚れが随所に見られる。


 けれどそれを除いても、いや、それがあるからこそ儚げで、恐ろしく美しい女性だった。


 女性ってか、女の子?

 美人と言うより、美少女の方が近い。


 思ったより小さい。


 身につけている鎧は絶対高価で、彼女のそばに落ちている弓も、『聖遺物』とか『アーティファクト』とか『傑作』とか呼ばれるものに違いない。


 今まで散々回収してきたから俺には解る。


 首から提げているネックレスはミスリル。


 Sランクの証。




 果たして、グウェン・フォーサイスはそこにいた。

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