第12話 真実(タイロン視点)

 タイロン・トレッダウェイは余裕をぶっこいていた。




 同郷のAランク冒険者パトリックが死に、その剣をライラ・マリーに買ってやったタイロンではあったが、それは善意ではなく布石。


 元々はパトリックが狙っていた女冒険者だったが、アイツは死んだんだ。

 代わりに自分がもらってやろう。

 後輩の中では一番顔がいいからな。


 ライラはパトリックを尊敬していたし憧れみたいなものを抱いていたようだから、失ったその心は悲しみに暮れているはず。


 そこに遺品の剣を買ってやり、恩を感じさせたんだ。

 コロッと落ちたはずだ。



 ちょっとばかし遊んでやろう。

 具合がよければ嫁にしてもいい。



 そんな軽率な考えなど表に出さず、Aランク冒険者として威厳を保って振る舞い、後輩の面倒をみて、軽率な行動を控えるようにと他人には注意して、漫然と毎日を過ごしていたタイロンではあるが、本来、彼にそんな余裕はないはずだった。


 彼の実力は、Cランク止まりだった。


 であるにもかかわらずどうして彼がAランクとして活動できるのか。


 彼はAランクになる際必要だった素材をしっかりと提出していたし、ノルマの魔石も提出している。


 ただその素材も、魔石も、彼の倒した魔物のものではない。



 タイロンは、シオンの後ろにひっついて、素材や魔石を回収し提出していた。

 それは、ライラの尊敬していた冒険者パトリックも同じ。


 

 シオンの後ろを歩くとは言え、最下層は危険だ。

 だから魔物除けを使って安全を保ちつつ、ついて行っていた。

 最下層にくる冒険者はほとんどいないからバレる心配もない。

 


 その上、あろうことか二人はギルド内でシオンの悪い噂を流し続けていた。


 シオンは魔物を倒していないだとか、

 遺品を漁るだけのクズだとか、

 女をヒドい目に遭わせるだとか。


 あることないこと、虚実を織り交ぜ、巧みにギルド内でのシオンの評価をさげ、近づくのも嫌だと思わせることで、パーティ以外の人間から自分たちの行動を隠してきた。


 シオンが素材を落として歩き、それを自分たちが回収しているとバレないように。




 扇動しすぎたせいで追放しようという動きも少なからずあった。



 シオンは冒険者としておいておけない。

 クズ野郎だ。



 ただ、追放されては困る。


 シオンは金のなる木だ。

 逃がすわけにはいかない。

 自分の評価を守るためにも。


 そのたびにかばい立てをするような行動をして、逆にタイロンたちの評価が上がるようなことが度々あった。



 皆の自分を見る目、尊敬の目が今日も心地良い。



 幸い、「冒険者」という名前にも、その強さにも関わらず、シオンがこの街から離れるつもりはないらしい。


 バカな奴だ。

 利用されていることも知らないで。


 冒険者の一人がシオンをギルドの寄生虫だと言ったが、寄生虫なのは間違いなくタイロンたちの方だった。




 そんなある日パトリックが死んだ。


 はじめはシオンに気づかれて殺されたんだと思ってビクビクしていたが、実際に最下層まで降りてみるとそんなことはなく、パトリックの身体についた傷から魔物にやられたことがはっきりと解った。



 安心した。

 シオンに自分まで殺されるわけではないと解ったから。


 そして、喜んだ。

 パトリックのパーティと山分けしていた魔石や素材の取り分が増えるから。



 同郷であろうとも、死を悲しむほど、タイロンはパトリックを思っていなかった。


 パトリックがへまをしたのは明らかだった。

 シオンを追いかけて、何かの拍子に彼より先行してしまったんだろう。



「お前はずっと俺の心に留めておく」



 お前と同じミスを繰り返さないために。


 タイロンは言って、パトリックの金に光る冒険者証をとり、戒めとして首にぶら下げた。

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