Sid.5 駆除依頼を受ける

 アニタと一緒に風呂をあとにし冒険者ギルドに向かう。

 その間、腕をしっかり絡め寄り添うように歩いてる。先程の風呂での姿態が脳裏に浮かんでしまう。その度に反応しそうで、少し前屈みになってしまうな。

 童貞など、いつまでも保持してる場合では無さそうだ。この世界ではさっさと捨てた方が人生を謳歌できるのだろう。


 ギルドに着くと「あの、着替えてきますので、少々お待ちくださいね」と言って、俺から離れカウンターの奥へと引っ込んだ。またあの今はなきファミレスの服装になるのか。あれはあれで刺激的だよな。

 だが、その中身をしっかり拝謁したわけで。素晴らしい膨らみと尻の形状まで見事だった。

 俺さえその気になれば、あの体を頂けるのか。ここは勇気を出してなどと考えていたら。


「あ、おはようございます! トールさん」


 マルギットが声を掛けてきた。居たのか。


「あ、えっと。おはよう」

「今日は依頼を受けに来たんですか?」

「そう、だけど」

「あ、マルギット。私がお世話するんだからね」


 アニタの着替えが終わったのか、マルギットを押し退け「依頼書ですが」などと言ってる。そうなるとマルギットも負けてはおらず「これなんかがいいと思います」などと言って、依頼書を手に見せてくる。

 二人で奪い合い。日本では無かったことだな。眩暈がしそうだ。


 アニタとマルギットがそれぞれ提示してきた依頼書。

 それぞれ見ると「原則メランニーヴォ、トレィエクラス以上、四人以上のパーティー」と記載がある。条件付きだ。


「これ、四人以上って」

「あ、問題無いです。アヴァンシエラでフェルシュタ・クラスでしたら」

「そうですよ。中級程度の冒険者二十人分以上の力があるはずです」


 そうだったのか。ランクによる力の差は歴然としているようだ。

 依頼書のひとつは荷馬車の護衛。往復四日間で日当ひとり十シルヴェル。条件としては拘束期間がある分、あまり良くないか。だが、ひとりでやれば、総取りできるのか?

 もうひとつは農場を荒らすモンスター駆除。出没モンスターはゴブリン、犬型モンスターがセット。ゴブリンには上位種が混ざっている。近場に巣を作って生息しているらしい。

 報酬は全滅させれば、ひとり二十五シルヴェル。ひとりで対処できれば、条件を良くできるのか。


「この依頼だけど」


 ひとりの場合は報酬がどうなるのか聞いてみると。

 そこは依頼者と交渉してください、だそうだ。多くはひとりであれば増額されるらしい。


「それぞれ期限は?」

「護衛が明後日の出発だそうです」

「駆除はできる限り速やかに、ですね」

「両方って」


 ならばと、まずは駆除を先にやって、間に合えば護衛任務を、だそうだ。


「ただ、ゴブリンの巣に向かうので、危険度は高くなります」


 上位種も居るとの報告がある。末端のゴブリンと異なり知能が高い。単身で向かうと失敗する可能性もあるとか。とは言え、上級一等であれば失敗する可能性は、ほぼ無いのだとも。

 必要であればメンバーを募るのもあり、だそうだ。

 ただなあ。誰かと組むにしても、どんな人物かなど分からないし。そっちの方が不安がある。

 失敗した場合にはペナルティもあるから、引き受けたら完遂することが大前提。


「命の危険を伴うので、トールさんの場合は後衛職が居れば、安定すると思います」


 後衛職ねえ。魔法使いとかか?


「居るの?」

「居ますよ。ただ、フリーの後衛職は殆ど居ません」


 後衛職では冒険に出ることも適わない。だから冒険者になる時点で、前衛職と組んでしまうのだそうで。意味無いなあ。

 仕方ない。リスクはあるが、この体を信じてみよう。


「じゃあゴブリン退治」

「はい。ではこちらにサインを」


 二枚ある依頼書にサインをし、一枚は自分の手元に、もう一枚はギルドで保管となる。

 丸めてバッグに放り込みギルドをあとにする。


「気を付けてくださいね」

「戻りましたら、抱いてください」

「あ、何それ」

「ふふーん。約束したの」


 ずるいだの、寄越せだの、早い者勝ちだの、なんか後ろで喚いているが知らん。


 さて、駆除する場所は町から少し離れた、大規模な農場の近くらしく、徒歩で一時間程度の所にあるようだ。そこを放置していると、いずれは町に近付いて来る。そうなると面倒だから全滅なのだとか。

 巣ごと駆除するには火力が足りないらしい。結果、何人かで行って虱潰し。


 町を出て一時間程歩くと、眼前に広がる広大な農地。今は小麦の生産でもしているのか。それとトウモロコシだろうか。まあ、小麦と言っても、そう見えるだけで実際は知らない。トウモロコシも同様、何となく似てるからそう呼んでる。

 農場主の建物が見えてきて、傍まで行くと、まあここも城壁で覆われている感じだ。

 門の前に立ち呼び出したいが、呼び鈴、無いのか。


「すみません! ギルドからの依頼を受けてきました」


 一回、二回では無反応。三回目でやっと門が開いた。

 中から出てきたのはメイド服を着た女性だ。


「ギルドからの依頼ですか?」

「そうです」

「では、依頼書を見せてください」


 バッグから取り出し見せると「ここから二十分程度の場所に、最近ゴブリンが巣を作ったようなので壊滅させてください」と言われた。

 壊滅、か。まあ一匹でも残ると厄介なのだろう。増えるのかどうか知らんが。

 終わったらギルドのチェックが入り、そのあとに達成書を発行するそうだ。ギルドを通すってことは、今日中に叩かないと護衛の仕事ができない可能性も。

 当日中にチェックしてくれるのか、聞いておけばよかった、って言うか、知らなかったぞ。


 まあ仕方ない。俺の落ち度ってことで。

 ゴブリンの巣を目指し歩くと、少し盛り上がる丘のような地形が目に入る。そこに洞窟への入り口だろうか、穴が空いてる。

 あの場所から湧き出すのか。

 見ても見張りは居ないし、犬もうろついていない。人を舐め切っているのか、それとも誘い込もうとしているのか。

 どうしたものか。偵察してくれる人が居れば、様子を窺ってもらい判断もできるのだが。


 已む無し。突っ込む。この体の主を信じて。

 穴の傍に来ると。


「くっさ」


 鼻が曲がる。臭すぎて。

 鼻栓が欲しい。獣臭が凄まじいんだよな。これだけ臭うのだから居るのは確かだ。寝てるのか活動してるのかは知らん。

 一歩踏み込むと、何かしら足音が聞こえる。しかもこっちに向かってきてるようだ。犬だな。この臭さでも鼻が利くのか、音で反応したのか。

 ぎゃんぎゃん吠え捲る犬が接近してきた。剣を抜いて、いや、魔法があったな。


 手をかざし「ブリクスト」と唱えると、雷光一閃、大気の熱膨張により衝撃音を発し、奥からは断末魔の悲鳴が多数。

 やたらと眩しい。暗がりで放つと、こちらの視界も一時的に阻害される。耳もキーンとなるし。少しして見えるようになり、先へ進むと焦げ臭さも漂う。

 洞窟内を犬の死骸を避けて更に進むと、広間のような場所に待ち構えるゴブリンが居た。

 数が多いな。

 剣を抜き構えるとゴブリンどもも、棍棒やら鉈やらを手に向かってきた。


 わざわざ広い場所に入る必要は無いな。ここで迎え撃つ。

 その前に、火炎魔法を一発。

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