Sid.6 ギルド内で勧誘される

「エクスプロシーヴ・ローガ!」


 火炎魔法を放つと広間が一瞬で爆炎に包まれた。まじか。威力が強過ぎないか?

 ゴブリンの断末魔の悲鳴が多数。上位種が居るのか居ないのか、分かりようもなく、炎が鎮まると辺りは熱気に包まれ、焦げ臭さも半端無い状態だ。

 目を凝らして見ると、至る所に焼死したであろう、ゴブリンが多数転がっている。

 今の時点では熱くて中に入れないが、これはあれだ、氷の魔法を放てば冷やせる、ってことで「フリスニング!」と唱えると。


「魔法の威力がバカ過ぎる」


 凍り付いた広場内。氷の魔法を放つ前は、あちこちでブスブス言っていたのに、今は静けさが漂う空間だ。

 足を一歩踏み入れると寒い。良く冷えてるから天然の冷蔵庫だな。

 穀物の保管に良いのではなかろうか。


 広場の奥には扉がある。開けて中を確認すると、居るのか。生き残りが。

 ぎゃーと喚きながら突進してくる。剣を抜き横に薙ぐと、瞬時に事切れたようだ。まあ胴体が真っ二つに分離したからな。

 よく見ると他のゴブリンと違う。一回り以上大きな体躯に、ぼろ布より少しだけ上質な服。手には作ったのか奪ったのか、剣を持っていた。

 これが上位種なのだろうか。まあ群れのボス、と思えば。


 ボス部屋には木箱が複数。それとベッドらしきもの。勿論、ベッドマットなど無く、板が一枚あるだけだが。一応掛け布団らしき布はあるのか。

 暗い室内だが一か所だけ、穴が開いていて外光が差し込む。そこの横に扉がひとつ。開けると外だった。緊急時の逃げ道なのだろう。

 使う暇も与えなかったわけだが。


 ああ、そう言えば剥ぎ取りなんてのも。

 見るとやる気は出ない。日本円で一個五百円。気色悪さを考えると無しだ。


 他に隠し部屋など無いか確認し、全てチェックが済んだところで、ギルドに戻ることに。

 転がる死体の数を数える気もない。広場の奴らは焼死して凍ってるし、洞窟内の犬は感電死して黒焦げだし。


 外に出て空気を目いっぱい吸い込み、臭い空気を全て吐き出す。

 やっと臭さから解放された。


 ゴブリンの巣から少し離れると、何かしら気配を感じ取れる。

 何かが見ている。

 次の瞬間、風切り音とともに矢が飛んできたようだ。音のする方向に体が向き、剣で矢を薙ぐと続いて、二射目三射目が飛んでくるが、それも叩き落とす。

 矢が飛んできた方向から、そこに居るのは分かった。全滅してない。


 一気に走り突き進むと、またもや矢が飛んでくるが、払い落とすと木の上に居るんだよ。黒ずんだ緑色の奴が数匹。

 弓も使うのだな。高所に居ることで油断してるような。

 懐に手を入れスローイングナイフを掴み、予備動作無しで投げつけると、見事に額に刺さり落下してきた。


 地面に叩きつけられて暴れている。やはりこの程度では死なないようだ。

 剣を手にして首を払うと動かなくなった。ごろごろ、勢いよく転がって行くし。


 これで全部か。それともまだどこかに?

 一応、周囲の探索もすることにした。


 結果、犬三匹、ゴブリン五匹。おそらくこれで全滅しただろう。気配を一切感じ取れなくなったからだ。

 この体の主は気配察知もできるのだな。とんでもなく優秀だ。俺のように異世界から来た存在にとって、最初からチートを手にしてるようなもので。お陰で死ぬこと無く生き延びることができる。少々の無茶も問題無いと理解した。


 来た時の道を戻りギルドに着き中へ入る。

 カウンターに立つのはアニタだ。ぱあっと華やいだ笑顔で迎えてくれる。


「もう済んだのですか?」

「済んだ」

「では、ギルド職員のチェックがありますので、一日お待ちください」


 と言うと顔を近付けてきて「今からどうですか?」とか言ってる。何を、なんて聞き返す必要はない。ラブホへ行きませんか、ってことだろう。昨日から誘われているし、今朝もしっかり誘われて勝手に約束した気になってる。


「あ、そう言えばマルギットは?」


 そう言うと悲しそうな表情をする。


「彼女の方がいいのですか?」

「ち、違うぞ。じゃなくて」

「今休憩中です。次は私なので、ご一緒にと思ったのですが」

「ああ、そうなのか」


 少し待って欲しいと言われ、カウンターの前で待つが、その間、依頼書を持って別の部屋に行ったようだ。

 少しして戻ってくると「明日の早朝に調査員が向かいます」だそうで。そこで周囲に一匹も居ないと確認できれば、晴れて依頼達成となる。勿論、巣の中も入念に探索されるらしい。居ないことが前提だが、四人一組でチェックするとかで。

 何かあった場合に対処可能なように。


「トールさんでしたら、ひとりで行っても問題なさそうですね」


 カウンターで話をしていると、後ろから「まだ用は済まないの?」と聞いて来る人が居る。

 振り向くと赤地に黒の線が入ったローブを纏う女子が居る。頭には三角帽を被って、如何にもな魔法使いのような出で立ちだな。


「あ、ああ、すまない」


 俺を見た若い魔法使いの子だが、暫し呆けた表情をしているようだ。


「どうした?」

「あ、え。あ、はい。あの達成書」


 俺に渡そうとしてくるし。ギルド職員じゃないぞ。

 気付いたのか慌てて「あ、間違えました」とか言って、アニタに手渡してるし。

 手続きの最中、俺をちらちら見てる。最初にギルドに来た時も、受付嬢が似たような目で見ていた気がするが。

 脇で待機する俺を見て声を掛けてきた。


「あの、ひとり、ですか?」

「そう、だけど」

「腰に剣。前衛職ですよね」

「一応」


 魔法も使えるから魔法剣士とか。

 胸元のドッグタグを見て目を輝かせてるな。金色ってのは余程興味を引くようだ。まあ元の世界でも金は高価だったし。価値の高いものが金だ。

 少し俯いたかと思ったら顔を上げ「あの、あたしたちのパーティーに」とか言い出した。


「入りませんか?」


 他の面子も分からないのに、ここで答えるわけもないのだが。


「他の」

「あ、そこのテーブルに」


 指で指し示す方向に数人、テーブルを取り囲む連中が居て、何やら談笑している最中のようだ。

 女性三人、男性は、ひとりか。男にとってハーレム状態だな。各々の職業は分からない。声を掛けてきた女子の胸元を見ると銅色。腕の立つ前衛が欲しいってことだな。

 でもなあ。馴染めるかどうかも分からないし。若く見えても中身はおっさん。


「なんで俺を?」

「え。だって」

「ベルタさん。報酬はどうされますか?」

「あ、えっと、受け取ります」


 割り込んできたのは勿論、アニタだ。手続きが済んだのもあるだろうが、横から掻っ攫うなって感じで少々険悪な雰囲気だな。

 金を受け取ると「アヴァンシエラですよね?」と。


「そうだけど」

「前衛が強力でしたら後衛の危険性が」

「ベルタさん。無理に誘わないでくださいね」

「え、でも」


 何の戦いだよ。受付嬢は冒険しないだろ。

 なんて思っていたら。


「駄目ですよ。トールさんを頂こうなんて」

「そ、そんなつもりじゃ」

「何それ?」

「ベルタさんのパーティーのあの男性」


 毎晩のように取っ換え引っ換え愉しまれているらしい。


「目的が性交ですからね」


 願ってもない。じゃない。ベルタと呼ばれた女子を見ると、余計なことをと思ってそうだ。

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