Sid.2 冒険者ランクとギルド

 ゴブリンの心臓付近。あるとすればだが。

 そこにナイフを突き立て開いて、中に手を突っ込むと、赤く光る石を取り出している。

 同じように犬の心臓付近も同様、開いて石を取り出したようだ。

 石を取り出された異形は、さらさらと崩れ去って行った。不思議な現象だな。


「あんたの分だ」


 そう言って投げ渡される石。全部で十五個。記憶を辿ると魔石とか言う奴らしい。ゴブリンと犬はガーレンフンドと呼ぶようだ。その程度の魔物から採れる石は、価値にして日本円でひとつ五百円程度。こっちの単位では二百五十コッパルだとか。

 千コッパルで一シルヴェルらしい。百シルヴェルで一グルドと理解した。

 ゴブリンや犬の魔石は余禄程度。護衛の仕事で得られる報酬は、一日十五シルヴェルになるらしい。つまり日本円で三万円程か。割がいいのか悪いのか。命が掛かってることを考えると安いかもしれん。


 荷台に腰を下ろすと御者から報酬の話が出た。


「まだここから半日は掛かる。報酬は十シルヴェルでいいか?」


 棚ぼただからな。文句は言わない。

 家が無いから帰る場所も無い。宿屋で過ごすことになるが、一泊朝飯付きで二千五百コッパル掛かるようだ。そうなると今回の報酬で四日分。三食飯を食ってたら三日分にもならんかもしれん。

 何か稼ぐ手段を得ないと。


「護衛の仕事だが紹介してもらえたりは」

「ああ、商人相手ならいつでもあるが」


 ただし、と断りが入る。


「分かってるだろうが、冒険者ギルド経由で受けてくれ」


 今一度記憶を辿ると、冒険者ギルドなるものに登録し、そこから依頼を受ける形になるのか。他には商業ギルドもあるが、冒険者ギルドで経験を積んでいないと、商業ギルドの直接雇用は無いらしい。

 冒険者ギルドにはランク制度があり、初級がニーヴォルヤーレ。中級者でメランニーヴォ。上級者がアヴァンシエラ。最上級になるとスーペラティブになるようだ。

 更に細かくクラス分けされていて、上から一等フェルシュタ・クラス、二等アンドラ・クラス、三等トレィエ・クラスとなるようだな。

 ふと、自分の首に掛かっているドッグタグを見る。

 表面は文様が刻まれていて意味不明。裏を見ると「Avanceradアヴァンシエラ förstaフェルシュタ klassクラス」と記載されていた。ついでに名前だろうか「Thorvaldトールヴァルド Ståhlbergストールベリ」とある。言語体系は元の世界のどこかと同じ? 文字が一緒だ。

 因みに、俺の元の名前がとおるだからなあ。


 上級のアヴァンシエラ、フェルシュタ・クラスのようだ。この上はスーペラティブだから相当なレベルってことのようだな。

 そうなると、冒険者ギルド経由で依頼を受けるか、商業ギルドで直接雇用がいいのか。記憶を辿っても、この男は冒険者ギルド経由しか受けていないようだ。

 商業ギルドの雇用は安い?


 町に到着するまでに一度戦闘があったが、難なく切り抜けて宵になる頃に町に入れた。

 町は城壁の如く石の壁で囲まれ、門を潜る際に門番だろうか、通行証を提示して入る形だ。俺の場合はドッグタグが身分証になっているようだな。見せると「若いのに凄いな」と驚かれていた。若い? 四十だぞ。日本人顔なのか、外国人顔なのか知らんが、日本人顔であれば若く見えるのか。

 あとで外見の確認をしておこう。


 町中を少し進み冒険者ギルドの前で馬車を降りる。

 二人居た冒険者も降りたようで、この場で報酬を手渡しするのではなく、依頼達成書を手渡された。


「また機会があればよろしく頼む」


 そう言って御者は馬車に乗り、どこかへ移動したようだ。

 冒険者二人を見ると「そう言えば、あんたの名前は?」と尋ねられる。


「トールヴァルド。トールでいい」

「俺はニコライで、こいつがヴィルマルだ」

「強いよな。どこで鍛えた?」


 またも記憶を辿るが、どうやら誰かに師事したようだが、その辺は実に曖昧な感じで記憶が定かではない。剣も魔法も習得したのは分かるが。この師匠に相当する存在の名は、分からん。


「覚えてないが、優秀な師匠だった」

「覚えてない?」

「記憶が飛んでる」


 余程過酷な鍛錬を積んだんだろうな、などと勝手に納得してくれたようだ。

 話しは途中で切り上げ冒険者ギルドに、今日の報酬を受け取るために入ることに。

 鎧戸を押し開けると正面にカウンター。女性の受付嬢だろうか、二人並んで立っていてこちらを見ている。右側には椅子とテーブルが並び、冒険者らしき存在が、多数酒を酌み交わしているようだ。

 左側には掲示板のようなものがあり、何やら紙が多数貼り出されている。どうやら依頼書って奴のようだな。


 中へと進みカウンターを前にすると、ニコライが「達成書だ」と言って、受付嬢に手渡している。

 二人居る受付嬢だが、達成書を受け取りながらも、俺をちらちら見てるような気がする。

 何か顔に付いてるのか。もしかして向こうと同じで、とんでもなく不細工過ぎて驚愕してる? いや、分からないけど、大方そんなところか。

 視線を感じつつニコライの手順を見て、同じようにすればいいな。


「護衛任務ですね。報酬は手渡し希望ですか? それとも銀行入金でしょうか」

「手渡しで」

「ではご用意しますので、少々お待ちください」


 続いてヴィルマルも達成書を渡し、手渡しで受け取るようだ。

 ニコライとヴィルマルが報酬を受け取ると「機会があればまた一緒に護衛をやろうぜ」と言って、ギルドをあとにしたようだ。

 カウンターに居る受付嬢に向き合うと「パーティーメンバーではないのですか?」と聞かれた。


「いや、偶然出会った」

「まさかソロですか?」

「あ、まあそうだな」

「そのプレート。アヴァンシエラ」


 ドッグタグを見て驚いてるな。ああ、そう言うことか。ドッグタグはランクで色が違う。俺のは金。さっきの二人は銀。若く見える俺が上級ってことで、驚いたわけか。


「えっと、達成書」

「あ、はい。承ります」


 ひとりが処理している間、もうひとりが声を掛けてくる。


「お名前」

「は?」

「あ。申し訳ありません。よろしければお名前を」

「ああ、トールだ」


 なんだ?

 今まで女性から送られたことのない視線。慈しむような、優し気で、なんて言うかアイドルでも見るかのような。憧れの視線も混ざってそうな。

 生まれてこの方、一度も女性から向けられたことのない視線。なぜだ?


「お若いのに凄いのですね」

「え」

「あ、えっと、二十代では?」

「え」


 二十代? 幾らなんでも四十路が二十代には見えんだろ。


「えっと、鏡」

「左側の壁に」


 鏡のある左側へ進み自分の姿を見て、思わず誰だこいつは、となったのは言うまでもない。

 トールヴァルドって、滅茶苦茶イケメンじゃねえか。前世と呼べばいいのか、日本での俺は不細工で女性から相手にされず。しかし、この顔は整い過ぎだ。

 これで強いとなれば女性にモテる?

 報酬の準備ができたということで、カウンターに戻るが、受付嬢の表情がヤバいな。


「あの、お付き合いしてる方など」

「あ、いや。独り身」

「そうなのですね」


 なんか喜んでないか?


「あの、私はアニタと言います」

「あ、ずるい。あたしはマルギット」


 まさか、二人に好かれたりしてないだろうな。

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