第6話 三か月後 探索と鍛錬

「ぬがァァァァ――ッ!! 無理だァーーーッッ!!」


 あれから三か月が過ぎようとしている今。

 ぼくはヒノの力を借りて全力疾走している真っ最中だ。

 なぜならぼくは今、灰色? 茶色? 灰茶色の大きな犬に追いかけられているからだ。


「くそぉーッ! しつこいやつだ……!」


 ぼくが岩の壁面を駆け上がると、相手も怯むことなく跳躍する。

 さらにぼくは壁を蹴って、大樹へ飛び乗り、さらに足を休ませることなく次々に木を飛び移っていった。


「はっはっ……はぁ……」


 辺りを見回し耳を澄ませる。

 ……

 どうやら逃げ切れたようだ。


「はぁ~……」


 このような状況になったことには理由がある。

 今まで手記を読むことにあてていた時間を精霊の力を使った鍛錬。

 そして帰るための道を探す。そう、探索の時間にあてるようにした結果だ。


「武器は振り回せるようになったけど……当たらないなぁ……」


『……』


 鍛錬と言ってもぼくは今まで戦ったことがない。

 だから、せめて武器に振り回されないようにするためだ。


 折れていない剣とかもあったけど、ぼくには長すぎて扱いずらい。だからぼくはあえて、折れてちょうどいい長さの剣を何本か見つけて、振り回せるように特訓していた。


 一本だけ銀色のキラキラした剣もあって、おとなの人から見れば短剣なんだろうけど、ぼくにぴったりな長さ。でも使うのがもったいないので、使わずにとってある。いわば……『とっておき』だ。


「あいつらいきなり襲ってくるから焦るのもよくないんだろうけど……」


『……』


 そして探索。

 大爪おおづめ三本角さんぼんづののナワバリはとても広い。

 でも、それ以上にこの崖下は広い。

 だからぼくは少しずつナワバリの外に対しても帰路を見つけに出るようになったんだ。

 ナワバリに線が引いてあるわけでもないから、そこは身をもって確かめるしかない。

 そしてナワバリの外で追いかけ回されて、今に至っている。


「やっぱり大爪おおづめ三本角さんぼんづののナワバリに戻れば、なら奥まで追いかけてこないな……」


『……』


 そしてヒノと契約してからこの一カ月の間。

 ナワバリの中でも完全に油断することはできない。という事実もぼくは知った。

 それは大爪おおづめとか三本角さんぼんづの事態を狙いにくる魔獣まじゅーも存在するからだ。


 数は多くないけど少なからずいる。ということがぼくにとって致命的ちめーてきだ。

 大爪おおづめとか三本角さんぼんづのに挑む魔獣まじゅーは二匹に負けないくらい大きくて強い。

 それをねじ伏せる二匹はもっと強いんだけど……

 だから、出会ったら最後だ。


 でも……そんな二匹の戦いは最初に想像した通り――ううん、想像以上に誇り高く、圧倒どころか、思わず見惚れてしまった。


 戦い方を参考にしたいけど、ぼくと獣では動きが違い過ぎた。

 それでもめげずに参考にできる部分だけでも――って必死に見てるけど……いつか役立つ日が来るとうれしい。

 こういうのを『見取り稽古げーこ』というはずだから……。


 そしてもう一つ分かったことがある。

 あの大爪おおづめ三本角さんぼんづのも、いつか同じように戦うことになる、と。

 お互いの存在は気が付いていると感じる。

 だから、万全の状態になったら……きっと……。


「わざわざ戦わなくても仲良く暮らせばいいのにね」


『……』


 肩のヒノをちらちら見ながらぼくは呟いた。

 自我って……一切芽生えないのかな……。薄いと言われてるんだから、濃くなってもいいんじゃないのかな……。

 でもぼくはめげない。肯定こーてーされることはないけど、代わりに否定ひてーもされない。


 言いたい放題なんだから、気が紛れるしね。反応は欲しいけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る