第4話 八日目 出会いとサラマンダー

 食べ物が採れた。

 ぼくはまだ川沿いの移動を始めていない。

 だけど、採ることができた。


「おいしい……! うまっうまっ!」


 ぼくは今、夢中で芋のような作物を頬張っていた。


 この芋のようなものをどこで手に入れたのか。

 それは昨日、三本角さんぼんづのが開けた穴の中で採れたものだ。


 の中から出て来た芋のような食べ物だ。

 色んな食べ物があるだろうし、ぼくが全部の食べ物を知ってるわけもないけど……最初はかじってみることに、そしてそのまま食べるということに抵抗てーこーもあった。


 でも空腹くーふくとは怖いものだとぼくは改めて思った。

 もうかじってどうなるか、ということばかり考えてしまい他のことが手に付かない状態だったからだ。


 だから……思い切ってかじったところ正解だったというところだ。

 毒を持ってたらと思うともう少し慎重しんちょーになってもよかったかもしれないけど。



「うん……これは岩芋いわいもと呼ぼう」


 一つ丸々食べると今のぼくにはちょっと多すぎる量だ。

 大きさは一つがぼくの顔くらい。

 穴の入口だけで、二十個以上は採れた。

 正直に言えば落ちていた。だけど……

 まだ奥の崩れた岩をどかせば出てきそうな雰囲気に、ぼくはちょっと浮かれ気分だ。


 でも、この岩芋も落ちていた果実と同じだ。

 いつかは食べきってしまう。

 だから、食べ物があるうちに川沿いを進んで他の食べ物を見つけるか、川で魚を獲ったりできるようにしなければならない。


 でも……その前に一つだけ確認したいことがあった。

 ぼくがこの崖下でずっと感じてる視線のようなもの。

 その正体だ。


 今も少しだけ見られてるような気もする。

 外で感じる感覚とはちょっと違う気もするけど見られてる。


 でも、上を向いても穴の天井。

 横を向いても壁。

 やっぱりぼくは心の底では怖がっているということだろうか……怖いからそういう風に感じてしまう。


 ぼくが怖がっている時にとーちゃんが教えてくれたことだ。

 怖がっているから木の模様もよーが顔に見える。とかそういう見えない物、とかを怖いという思いが作り出してしまうって言ってたと思う。


「ねえ……誰か……いる?」


 思い切って声をかけてみる。

 でも、よくよく考えると、ここで返事をされてもぼくは気を失うかもしれない。

 

「いるなら出て来てよ。いないの?」


 今度は穴の奥に向かって声をかける。

 でも……何も返事はない。


 ホッとしているような残念なような気持ち。

 なんていっていいのか分からない。


 でも……当たり前だ。

 だからぼくは今必死であがいてるんだから。誰かいるならもっと早く出てくるだろうし。


 寂しいからって変な期待をしちゃダメだ。

 弱い自分を追い出すように、ぼくは頭を振りまわした。

 『行動こーどー』をしよう。

 何かしていればその間は変な考えをしなくて済む。


 川に向かうため、出口へ振り向いた時だった。


「――うわぁッ!!」


 思わず叫びながら転げまわった。


 転んだわけじゃない。

 振り向いた目の前のモノに驚いたからだ。


 地面に座ったまま、ぼくは浮かんでいるモノを見上げた。

 ぼくの両手に乗るくらいのサイズ。

 ちょっと……かなり……とても? まぬけな顔。

 体中が火事のように燃えている。


 トカゲ……のような。

 サンショウウオ……のような。

 でもやっぱり……間の抜けた顔だ。

 

 でもこれは……『精霊せーれー』だ!


 ぼくがその事実に目を輝かせても、相手は無反応。

 生まれたての精霊せーれーは自我というものがとても薄い。とは聞いたことあるけど、せめて目くらい合わせてほしい。

 ぼくの種族は、自我の芽生え『だけ』は他よりも早いので正反対だ。


「ね……ねえ。きみは火の精霊せーれー……『さらまんだー』だよね……?」


 一切反応がない。

 精霊せーれー契約けーやくすると力がすごい上がる。とも聞いてるけどどうやって友達になればいいのかさっぱり分からない。

 でも――


(とりあえず撫でてみよう……)


 そんな思いから伸ばしたぼくの手が相手に触れた時だった。


 外に向けられた意識が、内側を向く。

 なぜかそのことをはっきりと自覚できた。


 そして『声』が届いた。

 とてもか細くて……でも……とても信頼できる声が。


『ボクト……ハジマリノ……ヒヲ……トモソウ』


 ぼくは、今までずっとアテにならなかった直感を信じてみることにした。


 これが一緒に成長していく相棒あいぼーとの出会いだと。

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