第3話 七日目 圧倒と三本角

 落ちこぼれだからといって下を向くことに意味はないとわかった。

 だから帰るための『けーかく』を立てようと思った。


「つよい武器と……世界を滅ぼせるようなつよい仲間……あと落ちこぼれでも食べたら強くなれる果実? 食べ物? この状況だから味は不味くてもいいけど……後は傷をかんぺきに治療ちりょーしてくれる泉とか……――」


 ダメだ……生きる希望きぼーがまるで見出せない。

 ただの願望がんぼーの垂れ流しだ。しかも全部『たりきほんがん』だった。


「でも……まずは普通の食べ物を……」


 ぼくは、ぐぅぐぅ鳴り止まないお腹を両腕でおさえていた。



 落ちて来てたぶん一週間は経ってる。

 何をしていたかといえば、生きるために周辺を歩き回ることで情報じょーほーを集めていたんだけど……


 見つけたものは、食べられたのか力尽きたのか分からない一部だけのホネ。

 捨てたのか、それとも落としたのか。ぼろぼろのリュックや荷袋。

 『つる』でぐるぐる巻きになっていたり、泥まみれだったけど、探してみると色々落ちていた。


 手書きの日記のようなものもあり、この崖下のことが書いてあるのでかなりありがたい発見だ。

 この崖下を『ちょーさ』するために来たひとたちの日記なので、ぼくが知りたいことが書き込まれている。


 でも……。

 食料がなかったんだ。

 よく考えてみれば腐っちゃうから当たり前なんだけど……


 果物が実ってる木はある。燃える炎のような形をした果実だ。

 落ちている実を食べてぼくは生きながらえていたんだけど……木にくっついたままの実が採れない。


 木が高すぎるし、上るにも幹が太すぎて手や足を引っかけることができない……。

 石をぶつけて落とそうとしても、ぜんぜん落ちない。

 これが『ぜんとたなん』というやつだ。


 崖の壁からかなり中へ歩いていった先に川が流れていたので、水だけはいつでも飲めるのは助かったけど……


 だから。ぼくは思い切った移動をしないといけない。


 ほんとに動けなくなる前に……


 もう暗いから明日、明るくなったら川沿いに移動しようとそう心に決めていた。


 でも、そうなると……怖いことが一つある。

 今ぼくがへたれ込んでいる場所も、落ちて来た地点からはかなり歩いたはずの場所だ。


 でも、ぼくは落ちてから今まであの大爪おおづめ魔獣まじゅー以外と出会っていない。

 これはきっと……あの大爪おおづめのナワバリだから他の魔獣まじゅーがいないってことだ。ついでに動物もいないけど……


 だから慎重しんちょーに。ナワバリを出ない場所の中で食べ物を採れるようにしたい。

 ――というのがぼくの願いだけど、そう簡単にはいかないだろう。


 でも、他の魔獣まじゅーに出会ったら今のぼくじゃ戦うなんて無理だ。

 崖の上の魔獣まじゅーでも無理なのにここに住み着いてる魔獣まじゅーならなおさらだ。


 ぼくの胸の中は不安しかないけど、泣きじゃくってても誰も助けてくれないことはこの一週間どころか最初の日でよく理解した。

 だからぼくは、明日の不安を忘れようと、長く歩いた疲れから来る眠気のお誘いをことわることをせず、眠りにつくことにした。


 ……――


「……?」


 気のせいかな?


 ……シン――


「…………?」


 気のせいであってほしいな。


 ――違う! 

 考え方を間違っていることにぼくは気が付いた。

 だからこそ、あせりが反動はんどーになって勢いよく跳ね起きることになった。


 すると……


 ズシン――


 と、お尻が浮くぐらいの振動しんどーにゆっくりとぼくは顔を上げた。


 最初の小さな揺れに気が付いた時に隠れるなりするべきだった。

 その後に気のせいだったなら安心すればよかった。

 そんな考えがぐるぐると頭の中を駆け巡った。


 でも、もう遅い。

 なぜなら……

 ぼくが見上げた先に、唯一出会ったあの大爪おおづめと同じくらいでかい、三本の角を持った魔獣まじゅーがいたからだ。

 大爪おおづめと違ってこの魔獣まじゅーは、歩く度にすごい地響きを立てている。


 重厚じゅーこーな赤みがかった輝き、鱗と言ってもいいほど頑強がんきょーな皮膚。

 それは……大爪おおづめと同じくらい……すごい迫力だ。

 そう……『あっとー』されたんだ。


 両手を口に当てて息を殺す。


 でも……

 この三本角さんぼんづのは、大爪おおづめと違っていて……

 ぼくをじろり、とにらむとその足を止めた。

 でもぼくを見るその目は……大爪おおづめと同じようにぼくを『にんしき』していた。


 恐怖で体が動かないってことはない。

 だから。とても慎重に……ゆっくりと……相手を刺激しないように動き始める。


 でも。


『ヴヴォ~ゥ……』


 あくびのような声を三本角さんぼんづのが上げた直後だ。

 ぼくの目に見えない速度で、角が崖に叩き込まれた、と思う。結果から予想しただけだけど。

 静かな夜にどこまで響いてしまう。そんな物凄い爆発にも似た音だ。


 今日飲んだ水が全部あふれてしまったくらいの汗を、一気に噴き出していたと思う。


 恐る恐る崖を見ると奥が見えないくらい深く壁がえぐれている。

 ぼくがその穴を見て固まっていると、また地響きが聞こえた。


 顔を戻すと三本角さんぼんづのは来た道を戻っていくところだった。


「た……助かったぁ……」


 ぼくはわけも分からずへたれ込む。


 しばらくして。


 気持ちも落ち着いてくると、せっかく空いた穴を有効に使おう。なんて考えまで湧いてきた。


 ぼくはそこらへんの草を抱えて穴の奥まで進んでいくと、緊張から解き放たれた反動はんどーなのか、すんなり深い眠りに落ちていった。

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