過去を繋げる、未来に繋げる
ある宿に泊まったとき、店主がもう動けないという話を聞いた。
「残った子や孫にゃ、もう宿辞めて、静かに暮らせばいいって言われるんじゃが、ここの歴史を、いつか見た、ここの賑わいを忘れられないんだ。また、あんな風に、人が行き交う、活気のあるこの地域を見るために、わしはこの宿を辞める訳には行かないんだけどな。もう、賑わっても見に行くことすら出来なくなってしまったわい。」
脚をさする様子と、車椅子に座っていることから理由は明白だ。
ここに来た理由には、ここの写真があったからである。
即ち、ここの賑わいの様子を撮った写真を、私は持っている。
「店主、夢ではありますが、もう一度だけ、賑わったここを見ることが出来ます。見ますか?」
店主は少し悩みながら、こちらに疑問を投げてきた。
「なあ、もしかして君は、彼の御子孫なのかい?あの、正確に合わない地味なカメラを持った...」
単語を聞いた時には、カメラに手を掛けていた。
取り出したカメラを見た店主は驚いているものの、小さく「やはりか」とぼやいた。
「少し、年寄りの長話に付き合ってくれないか?」
店長と机をはさんで椅子に座ることで、承諾の意を汲み取ってくれた。
「昔、私が君くらい若いときだ。
ここの先代、私の祖父がここの切り盛りをしていた頃に、長男だった私はここを継ぐように言われていたんだ。
だが、私はハイカラな街に出たかった。
お洒落な服装をする知り合いに、綺麗なお客さんたちに置いていかれているような気がして、そんな場所に居続けるなんて嫌だって思った。
だが、そんな時にここの祭りから帰ってきた時のことだ。
君のご先祖が、私の祖父と仲良く話していたのだ。君と同じくらいの青年が、私と同じくらいの祖父と。ありえないと思った。
遠くから見ていると、ふたりが唐突に濃い煙に巻かれて、何も考えずにそこに飛びこんでしまったよ。
そこで見たのは、ここから見えた街に人が沢山いた景色。
祭りでもかなり集まっていたけど、その比にならないくらいに人が沢山いたんだ。
なぜ彼がそんな写真を持っていたのかとかは聞いていないけど、きっと今みたいに先代が撮った物なんだろうね。」
昔話を終えて、一息ついてから再び声を出した。
「本当は、昔の僕みたいに、ここを継いで欲しいんだけどね。
もう昔みたいにやりたいことを全力でやれば何とかなる世界じゃなくなってきてしまった。
だから、せめて、もう一度だけあの思い出を見させて欲しい。
お願いできるかな?」
準備していた写真を取り出し、皿の上に乗せてから写真に火をつける。
叔父様が撮ったであろう、賑わっていた過去のこの地の写真を煙にして、この人と私を煙で囲う。
「あぁ、懐かしいな...」
「こんなに...」
失礼だと思う前に、想像しきれない人の数に圧倒されてしまった。
ガラガラと、勢いよく景色の外で戸が滑る音が聞こえた。
「おじいちゃん!?」
声の主はこの人の孫だった。
「大丈夫だ。今な、この人に夢を見せてもらっているんだよ。」
「夢?この街のお祭りみたいなのが?」
「そうだよ。ここは昔、こんなに盛り上がっていたんだよ。」
「やっぱり、そうだったんだね。」
何かを決意した。
「おじいちゃん。ここ、俺が継いでもいいかな?」
「何を言うかと思えば、こんな寂れた街じゃ、きっと置いて行かれてしまうじゃないか。わしのことは気にせず」
「違うよ。」
家族の話を盗み聞きするのは好きじゃないが、勝手に始めたなら別だろう
「一緒に歩きたいんだ。遅くたって、置いてかれたって、ここに居たいから。」
悩んで、孫の言葉に負けていた。
「...そうか。好きにするといい。この宿も、わしが倒れるまでしかやるはず無かったからな。」
子供の言葉は心で伝わっても、大人の言葉の真意の理解は、まだ難しそうだ。首を傾げている。
「つまりだ、わしが倒れたらお前にこの宿を託す。と言っているのだ。たまに手伝ってくれるか?」
「もちろんだよ!安心して任せて貰えるように頑張るから!!」
昔話を辿るような、似たような跡継ぎ話。
お孫さんの気持ちは知らないけれど、まぁ、なんだっていいか。
最後に、宿の窓から見える街の写真でも撮っていこうかな。
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