不思議なトートバック
埴輪モナカ
きっかけ
仲の良かった叔父様が亡くなったという報告を聞いた時は、何も思わなかった。というよりも理解ができていなかったのだと思う。会うたびに、訪れた場所や人の話をして、写真と一緒に語ってくれた楽しい時間がもう訪れない事が、腑に落ちていなかったし、そんなことあるはずが無いと、どこかで思っていたのだと思う。
だからだろう。箱の窓から顔をのぞかせる叔父様は動かず、華に囲まれ、多くは無い親族が泣いている空気から、叔父様が亡くなったことを理解した時は、駄々をこねるように泣いていたと思う。どうしてか、泣きながらも穏やかに笑っている人もいた気がするけれど、それは嫌な感じがしなかった。
後日、少し落ち着きつつも喪失感が消えない中、叔父様の姉である私の祖母が、遺品整理を手伝ってほしいと言ってきた。私は母に連れられて一緒に行くことになった。
叔父様の自宅は一軒家で二階建てである。とても広い家ではあるが、当の叔父様は旅をしてばかりだったからか物が少ない。そんな他の部屋とは対照的に、書斎の棚には写真をびっしり収めたファイルが何冊も並べられていた。
そのファイルの中から、祖母が一枚の写真を取り出して私を呼んだ。
呼ばれた声を聴いて傍によると、棚からライターと皿を取り出して、その写真に火をつけた。
燃やした理由と燃やすならなぜ一枚だけなのかという疑問を浮かべて首を傾げていると、写真から昇る煙が答えてくれた。
煙が私たちを囲むように回って、周りの色を変えていく。
暗い夜、星が煌めく素敵な夜。今より幼い私がはしゃいで、景色の下に消えていく、そんな子供を微笑ましく見つめる両親もいる。
この景色は、叔父様の景色。
星空に見惚れていたらあっという間に煙は去って、皿の上には灰も残っていなかった。
祖母は棚の一番下の戸を開いて、大きな肩掛けバックを取り出した。
「これはね、少し不思議なカメラなの。」
祖母が言うように、確かに不思議だ。カメラがくっついているバックなど見たことが無い。
「撮った写真は魔法の写真で、燃やすと煙が思い出を見せてくれるの。」
祖母の説明は抽象的で、具体性のかけらもない。理科の実験でもしたら燃えて消えそうな話だったけれど、きっとそうなのだろうと思うしかなかった。
「それとね、このカメラはあなたにって遺言だから。」
引き渡されたのはその時で、それ以降は練習と称して、手に収まるカメラをもって写真を撮る練習をしていた。素敵な写真の撮り方とか、ただ撮ってみたい写真を撮るだけとか、なんでカメラを常備しているのか忘れるほどに。
偶然その遺品に再会した時に、私は旅を始める決意ができた。
叔父様から渡された不思議なバックは、カメラが繋がっていた。トートバックと同じ薄茶色、砂のような好きでも嫌いでもない色をしていた。
そのバックには、写真がたくさん入ってた。叔父様とお父さんの写真、自分も含めた家族の写真、それらも多かったけれど、それらと同じくらいに、景色の写真と人の写真が溢れていた。
ね、叔父様。貴方はいったい、どの写真が1番だったの?
いつか、誰かが聞いた答えを、私は思い出せないし、聞いてももう答えてくれない。
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