第7話 希は愕然としながら説明する
「僕はどうすればユーファネート様に気に入って頂けるショタセバになれるでしょうか?」
「なれてるよ! むしろ最高なショタセバだよ! じゃなくて待って。なんでショタセバなんて言い出したの? ちょっとセバスチャンは落ち着こうか。いや、私が落ち着こう」
希から「最高」と言われ、セバスチャンは満面の笑みを浮かべており、そして身体から良い匂いが漂いだした。
「あれ? サボン系の良い匂いがする。え!? ひょっとして好感度マックスが振り切って、さらに愛情度が発生したときに出る奴じゃないの! んー。ずっと嗅いでいた――じゃなくて!」
「最高と言っていただけて幸せです。私も慈悲深き天使のようなユーファネート様にお仕える事が出来て幸せ――」
「はいはいストップ。ちょっと休憩入れさせて頂戴(なにがあった? セバスチャンの中で何かあったのね!?)」
盲従と言われても仕方ないセバスチャンの台詞に希が頭を抱える。時間稼ぎに紅茶を淹れるよう頼み、希は思考の海に沈んだ。
「セバスチャンは借金の肩代わりをすることで購入された。ゲームだとユーファネートによって性格がゆがめられ腹黒執事になる。そして『君☆(きみほし)』の
これは自分が知る公式情報だ。そしてグッズ展開をするためにメインキャラ達には匂いが指定されている。セバスチャンはサボン系の匂いであてがわれており、当然ながら自分も複数購入している。その匂いが今まさに希の鼻腔をくすぐっていた。
物凄くいい匂いだ。グッズで買ったのとは一味違い、本人から漂ってくる香りは甘美であり、一日中嗅いでいたくなる。
「ひょっとして昨日がセバスチャンの分岐点だった? 紅茶を淹れることに失敗して、いびられる日々が始まったとか? これって間違いなくストーリー改変に影響してるよね。だけど破滅フラグをへし折ったのは
希は昨夜の行動がセバスチャンへ与えた影響を考える。紅茶を淹れるのを失敗しても叱責しなかった。むしろ抱きしめて
「寝る時に手を握らせるのは完全に信頼している証よね」
「ユーファネート様? 紅茶が入りました。昨日よりは上手く淹れられたと思っております。今日は砂時計も忘れずに持ってきました!」
「ありがとう。成長しているのはいいことだわ。さっそく頂こうかしら」
「あ、あの。よろしければ今日もご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
当り前じゃない! と思わず叫びそうになる希だが、なんとか踏みとどまり
「当然じゃない。これからは貴方も一緒に紅茶を飲むの。自分で淹れた味をしっかりと覚えて、さらに精進しないさい」
「ありがとうございます。頑張ってショタセバと言ってもらえるように頑張ります!」
「はいストップ。ショタセバを目指さなくていいの。むしろショタセバから卒業しなさい。ショタは未熟で可愛らしいとの意味よ。今はそれでいいけど、これからセバスチャンは成長しないと駄目。だから身体を鍛え剣術を極めなさい。私を守れる執事を目指すのを目標にしてちょうだい。鍛え上げた筋肉は裏切らないわ」
「そんな……ショタにそんな意味が」
抱きしめ頭を撫でられたセバスチャンは耳を真っ赤にしていたが、希の言葉に身体が震えだす。男の子に『未熟で可愛い』は駄目よね。小さく震えているセバスチャンに希がフォローをしようとする。
「『ショタ』なんて言葉は忘れて仕事に精を出してちょうだ――」
「ユーファネート様から『可愛い』と言って頂けるなんて! これからも可愛らしいショタと言って貰えるように頑張ります! もちろん身体も鍛えてユーファネート様を守ります」
「違う。貴方はなにか違うわ。お願いだから話を聞いて」
「ご安心ください! 僕、頑張ります!」
「そうじゃないの。話を聞いて」
決意新たに宣言するセバスチャンに思わずツッコミを入れる希たが、声が届いていないようであった。諦めた希は頭を撫でるのを止めセバスチャンに席に着くように再度命じ――セバスチャンは少し残念そうにしていたが、命じられるがまま着席する。
「昨日より成長しているわね。一日でこれだけ成長している貴方は大したものよ」
まだ少し渋みがあるが、自分で淹れた紅茶よりも何倍も美味しく、希は素直に褒める。そして男らしくなって欲しい。ショタでなくなることは寂しいが、それがショタの運命であり、大人になって自分を守って欲しいと再度一所懸命に、全力でそれは一所懸命に希は力説する。
「なるほど。慈愛の女神であるユーファネート様に認めて頂く為、執事としての技術を磨き、ショタから卒業し、可愛らしさを捨て、力強さとたくましをもってユーファネート様を守れる執事になれとおっしゃるのですね!」
「その通りよ。ちょっと会話の中に変な単語が入ってるけど合っているわ。あ、そう言えば起こしてくれたのはどうして? お医者様の診察でもあるの?」
「そうでした! 旦那様と奥様より朝食を一緒にと連絡がありました。そろそろお着換えをして頂けますでしょうか」
「あら、そうなのね。分かったわ。服を取ってちょうだい」
希の問い掛けに、セバスチャンが少し慌てたように朝食の時間が近づいている事を伝える。クローゼットから普段着用ドレスを取り出したセバスチャンは、ユーファネートの寝間着に手を掛けた。
「なんで脱がそうとするの!?」
「え? お嬢様の着替えをお手伝いしようかと。メイドのマリーナさんからも手伝うようにと言われております」
「ちょっと待って! すぐにマリーナを呼びなさい!」
いくら10歳とはいえ、同の近い少年に着替えを手伝ってもらうのは恥じらいがある。しかも大のお気に入りのショタセバだ。なんならサボンの香りで鼻息も荒くなりそうである。
「センシティブすぎるわよ!」
希は社会人経験がある女性として、子供に着替えさせてもらうのは羞恥心が勝り出来なかった。手伝えないことを残念そうにしつつ、命令を受けたセバスチャンがマリーナを呼びに行く。
「どうしてくれようか」
そんな事を考えていた希だが、しばらくすると年若い女性がセバスチャンとともにやってきた。彼女がマリーナなのだろう。
「セバスチャンがなにか
「セバスチャンは外で待っていなさい」
「はい。ユーファネート様」
セバスチャンに笑顔で外に待つように伝えマリーナに視線を送る。また面倒事に巻き込まれたとの表情を浮かべているマリーナに、希は無表情で話し掛ける。
「一つ聞くわ。セバスチャンは男性よ。なのに私の着替えを手伝わせるのかしら?」
「い、いえ。そのようなつもりは……」
ユーファネートならセバスチャンを怒鳴りつけていたでしょうね。そう思いながら、セバスチャンには聞こえないよう冷たい声を出す。いつもと違う空気にマリーナは戸惑いながらも、怒りが自分に向いている事に気付いて身体を振るわせ始めた。
「なら貴方が手伝いなさい。お父様達との朝食に遅れていいわけじゃないでしょ?」
「も、申し訳ありません。すぐにお着替えをさせて頂きます」
相手は子供だから大丈夫。自分が怒られるのが嫌だから変わってもらった。そんな軽い思いで行動したマリーナだが希の視線を受けて真っ青な顔になっていた。
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