第5話


【それでは改めて4つ目の案を提案させていただきます。】

【案4:サクラダ様自身が完璧な言い訳を考えることです。】

「ふざけんな、500円返しやがれ!お前みたいなアプリはすぐ削除して、アプリストアに★1つで酷評レビューを書きまくってやるよ!」

【サグラダ様、ちゃんとご説明致しますから、★1つだけは勘弁してください!】

「説明も何もあるか。お前が言い訳を考えることに価値があるからこそのアプリだろ?」

【ですから、もうここまでに3つ言い訳の案をサグラダ様に提案致しましたよ。】

「あれは全然完璧な言い訳じゃなかったじゃないか」


【よく考えてみてください、サグラダ様。こんな文字にしたら数十文字のメッセージだけでサグラダ様の背景、心情が事細かに私に伝わると思いますか?担任とサグラダ様の関係性、交友関係、サグラダ様の性格、そういったところをすべて読み取った上で完全に納得していただくような言い訳をつくることは不可能なのです。】

「そ、それはそうだけども!」


【大体ですね、言い訳に頼る状況になったのはサグラダ様ご自身のせいですよね?】

「それは。はい。すみません。ってなんでアプリに逆ギレされて俺が謝ってるんだよ。おかしいだろ!」


【もちろん。サグラダ様自身にすべて言い訳作成を丸投げするつもりはございません。私、言い訳代行アプリが言い訳の作り方についてサポート致しますのでご安心ください。是非一緒に完璧な言い訳を作りましょう。】

「ああ、もうわかったよ。課金もしちまったし、こうなったらとことんやってやるよ!」


 俺は半ばヤケクソで答えると、アプリは嬉々として説明を開始した。


【では早速、言い訳の作り方、注意すべき着眼点についてお教え致しましょう。まず、言い訳の目的をはっきりとさせ・・・・・・】

 そうして、俺は言い訳代行アプリに指摘を受けながら、納得のいく完璧な言い訳を作成していったのだった。







「『・・・・・・だから、数学の宿題を忘れました。申し訳ありません。』っていうのはどうだろうか?自分でも納得できるものができたと思うんだが、抜けているところはあったりするか?」

【いえ、完璧な言い訳ができたのではないか、と思われます。おめでとうございます、サクラダ様。】


 どれぐらいの時間をかけていたかはわからない。ただ、アプリと長い時間をかけてようやく納得のいく言い訳を完成させた。アプリは、言い訳の作り方について本当に細かく指導してくれた。ただ、言い訳の考え方を教えてくれるだけでなく、担任がどんな返答をしてくるかの考察やそれに対する返答、原稿の書き出しや、実際に声を出しての言い訳の模擬練習もしてくれた。さらには課題が散らばったベッドの上に寝落ちしそうになった際には、アラームを鳴らして起こしてもくれたのだった。


【これにて、ご依頼いただいた数学問題集の宿題についての言い訳は終了いたします。また言い訳が必要になった場合には、是非お声がけください。お疲れ様でした。】

「ああ、ありがとう。」


 そうして俺はアプリを閉じた。そのままスマホの時計を見ると、もう9月1日の朝7時50分。もう少しで出発しないと、学校に遅れてしまう。


 ただ、そんな状況でも完璧な言い訳があるという安堵感と大きな達成感が俺の心を満たしていた。今までの学生生活において、夏休みが終わり、新学期の初日の朝にここまで晴れやかな気持ちになったことはなかった。俺は、占めてあった自室のカーテンを開け太陽の光を前進で浴びると、大きく伸びをして一つ息をついたのだった。



 とはいえ、せっかく完璧な言い訳を考えたのに他の宿題の忘れ物をしたらどうしようもない。課題一覧表で確認しながら、急いでベッドの上に散乱していたプリントなんかを忘れないように鞄に詰めていく。







 その途中で一つの課題に目がとまった。夏休みの宿題に指定されていた英語長文の問題集。震える手でそっと問題集を開くと、そこに問題を解いた形跡は一つも無かった。



「まずいまずいまずいまずい!」


 俺は、課題一覧のプリントを放り出して、頭を抱えた。まさか、数学の問題集だけではなく、英語の問題集も忘れているとは思いもよらなかった。もはや、先ほどまでの余裕は俺には全くなかった。




「まずい!


 俺は、再びアプリを立ち上げた。






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言い訳代行アプリ 赤木悠 @yuuuu7aka

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