第2話
思ったより仕事量が多い、嫌がらせで話を広げるんじゃなかった、そう後悔した氷華は、目の前で氷華の手元をただ見ている皇帝を存分に使おうと思った。
「お茶をいただいてもよろしいでしょうか」
ただ皇帝に命令する勇気はなかったので、お願いする形で。
皇帝は頷くと慣れた手つきでお茶をいれ始めた。なんだか笑いたくなる、何度こうして仕事を引き受けただろう。その数の多さを皇帝のいれたお茶が物語っていた。普通に美味しい。しかし普通だった。何年もお茶をいれてきた女官には勝てないのは、当たり前である。
「礼を言う、何か必要なものはないか。褒美を取らせよう」
仕事を全て片付けた氷華は、体を伸ばしたり、首を曲げたりしながら考えた。このくらいの無礼許されるだろう。皇帝は氷華が自分を愛していると思っている。しかし、皇帝はそれが演技だとは思っておらず、夜伽もしていない。
「でしたら空席の貴妃の座にわたくしを」
皇帝は少し考え始めた。表情的に前向きに検討しているようだ。やがて口を開くと、氷華を少し苛立たせた。
「なにか表立った功績があるといいのだがな」
「この国がわたくしのおかげで成り立っていると、公表なさっては。そもそもわたくしは、このようなことをするためにここへ嫁いだのではありませんし」
そう言ったところで氷華は言い過ぎたことに気付いた。愛しているふりをしなければ。
「しかし陛下のお好きになさいませ。公表したら、わたくしは貴妃どころか皇后の座に着くことも夢ではないでしょうね。陛下の正妻となるのが楽しみで、それがわたくしの今の生き甲斐です」
「皇后な⋯」
皇帝は遠い目をした。
先日皇后、貴妃、淑妃が結託して充媛である、氷華に対し戦を起こした。戦、と言っても女官の小競り合いと言ったもので、数々の戦を乗り越えてきた将軍は、くだらない後処理を残されたと嘆いていた。
※※
「充媛、最近陛下はそなたの宮にばかり行っているように感じます。そなたが他の宮に行くよう勧めるべきではないですか」
三月程前、高位の妃嬪で会議をした際皆の前で咎めてきた。別に夜伽はしていないのだから、と思ったが決して口に出せない。いや、口に出したところで私にはなんの害もないが。
「わたくし如きが陛下に意見するなどできませんわ。私は一介の妃嬪ですもの」
その場にいた賢妃は、皇后と、彼女に同意する貴妃たちを愚かだと思った。明らかに充媛が来てから国が変わった。陛下の書斎に入り浸っていることから真の皇帝は充媛だと確信している。しかし賢妃は充媛を助けるために何かすることはなかった。
賢妃は、自分は賢妃にふさわしくないと思っている。自分は決して賢くない。ただ、賢くないことに気付ける程度には賢かった。だから皇后達に、充媛の殺害の話を持ち込まれた時拒否した。この国は充媛がいて成り立っている。それに気付かないとは愚かなものだ、と思いながら賢妃は呆れた。皇后の手前顔には出せないが。
「わたくしから言っても陛下は変わらないのです。寵妃である充媛が言えば聞き入れるでしょう」
拒否を続けた結果、皇后、貴妃、淑妃による戦が起こされた。皇后の誘いを断った賢妃は、皇后に逆らった罪で殺された。そんなことで、と賢妃自身も思ったがこの国において権力は絶対なのだ。
皇后からすれば、氷華の殺害に失敗し、右腕であった貴妃が自死し、事件の後更に氷華が寵愛されているのだからたまったもんじゃない。実際は労働なのだが。妙な事をするから氷華の仕事が滞ってしまった。貴妃のように自死すればいいのに。
「皇后は家が家だからな。簡単に降格できない上に、罪を帳消しにしようとしている」
皇后は名門の産まれでで、五代前の皇帝の子孫にあたる。村娘の氷華には同じようには太刀打ち出来なかった。
「まあそれも失敗したのですがね」
氷華は高らかに笑った。
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