第12話 異世界の蘭奢待②

秋房あきふさ、サイズ感はどうじゃ?」


「大丈夫だ。特に問題は無い」


 先程まで病院服にスリッパという格好だったのだが、今はとてもシンプルな服装に変わっている。上は黒い長袖の服に、下はグレーの長ズボン。そして靴は茶色いハーフブーツだ。


「うむ、これでようやく準備に入れるな。急いで荷物を纏めなくては」


「荷物か。どんな物が必要なんだ?」


「そうじゃな……水と食糧は必須じゃな。後はマッチとランタン、それに木を切る為の斧も必要じゃ。一応何があってもいいように、荷物はそれぞれ持つべきであろうな」


 今から行くのは敵地であり、テルセル地方の半分を占める広大な森林地帯だ。万が一の事態に備えて荷物はそれぞれ持つ事にする。


「でも俺、荷物持って無いんだけど」


「安心せよ。服を探している時に色々と見つけておいた。食糧は備蓄してある物を適当に持って行くがよい」


「分かった。ありがとう」


 秋房はルーナにお礼を言う。


「礼など要らぬ。それに言ったであろう? 『衣・食・住は全て面倒見てやる』とな』


「住はまだ貰って無いけどな」


「住は全て終わってからじゃ。全く、お主は本当にああ言えばこう言う奴じゃな」


「……そうだな。楽しみにしてるよ」



✳︎✳︎✳︎



「馬だ」


 今、秋房達の目の前には1頭の馬がいる。毛艶も良く、体格も競走馬に引けを取らないくらいたくましい。


「まさか、コレに乗って行くのか?」


「コレでは無い。ラーマちゃんだ! まだ3歳の乙女じゃぞ!」


 ルーナがラーマちゃんを撫でながら言う。


「名前があるのか、悪かったな。……で、ラーマちゃんに乗って行くのか?」


「当たり前じゃ。此処から森林地帯まで約30キロもの距離があるからの」


「30キロ? 随分と遠いな」


「これでも近い方じゃ。もし帝都から森林地帯まで行くとすると、馬で20日以上も掛かるからな」


 馬が1日に走る距離を50キロだとすると、帝都からテルセル地方の森林地帯まで1000キロ以上の距離がある事になる。元の世界ならば飛行機や新幹線、車などの乗り物があるので近く感じるが、この異世界の視点で見ると相当な距離だ。


「では秋房、先にラーマちゃんに乗れ。乗ったら余の手を取って引き上げよ」


 ルーナに言われ、秋房は慣れたような動きでラーマちゃんに騎乗する。


「ほう、馬に乗るのは慣れておるのか?」


「子供の頃に母さんに教わったからな」


 秋房はそう言うと、ルーナの手を取って一気に引き上げる。


「うむ、感謝するぞ」


「別にいい。それよりどっちに行けば良いんだ?」


「このまま真っ直ぐじゃ。暫く行くと大きな川に出るから、後は上流の方へ行くだけじゃ」


「了解。移動中に道がズレていたら教えてくれ」


「うむ、承知した」


 秋房達は馬を走らせ、森林地帯へと移動を開始した。


 目的の物は蘭奢待らんじゃたい。飲めば、と言われる霊薬である。

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