第9話 出会い③

「治る? 精神疾患がか?」


 秋房は女の子の話に興味を持った。


 元の世界でも治療が困難な精神的な病気。恐らく完全寛解かんぜんかんかいするのはずっと先になるだろう。だが、此処は異世界だ。自分の常識が全く通用しないこの世界なら、何かしらの治療薬があったとしても不思議では無い。


「あくまで可能性じゃがな。それよりお主の名前、秋房あきふさで合ってるのか? 割と適当に言ったのじゃが?」


「合ってるよ。それより、今の話は本当なのか?」


「気になるか? なら、そこの椅子に座って待ってるがよい」


 女の子はそう言うと、足早に隣の部屋へと向かって行った。


 ――しかし、随分と態度が軟化したな。さっきまでギャーギャー騒いでいたのに。


 秋房は内心そう思いつつ、女の子に言われた通り椅子へと座る。多少グラつきがあるが、ずっと立っているより遥かに楽だ。


 女の子が戻って来るまでの間、秋房はゲームのルールについて考察する事にした。


 ポケットから黒い手帳を取り出し、足を組んでゲームのルールを読み直す。


 ――……成る程。改めて読むと色々と思う所があるな。


 秋房が気になったのは『公爵の爵位を持つ全ての魔族を討伐する事』という文面と、『相良さがら りんを殺害した犯人を全員殺害する事』という文面。そして『1番最初に元の世界へと戻って来た者には、どんな望みも1度だけ叶えられるスキルを与えます』という文面だ。


 まず、『公爵の爵位を持つ全ての魔族を討伐する事』という文面。魔族の存在に関しては今更驚きはしないが、このルールには致命的とも言える不安材料があったのだ。


 ……そう、このルールには明確な『数』が指定されていないのだ。仮に討伐する魔族の数が数万単位だとしたら、5年でクリアするのはまず不可能である。


 そして次に、『相良 凛を殺害した犯人を全員殺害する事』という文面。これはそのままの意味として捉える事が出来るが、逆に考えると『凛を殺害したのは複数人いる』という事だ。


 最後に、『1番最初に元の世界へと戻って来た者には、どんな望みも1度だけ叶えられるスキルを与えます』という文面だ。どんな望みも叶えられるという事は、『死者の蘇生』も可能であるという事だ。


 これは秋房にとって希望の光だ。


 理不尽に幼馴染の命が奪われたのならば、理不尽に幼馴染の命を取り返さなければならない。秋房はそう考えている。


「願いを叶えるのも楽では無いな。難易度は未知数だし、生きて帰れるかも分からない。だけど――……」


 秋房は凛の笑顔を思い浮かべる。


「ピンチはチャンスだよな、


 秋房はそう言うと、黒い手帳を静かに閉じた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る