第6話 幕間 天井の2人

「さて、今回はどうなるかな?」


 丸い眼鏡を掛けた男性が言った。


「分からないわ」


 長い赤髪の女性が言う。


「相変わらず淡白だなー、メラクは」


「うっさいわね。今から結果を予想したって仕方ないでしょ! てか、何よその眼鏡! 全くもって似合ってないわ!」


「何って、変装だよ。彼に気付かれない為のね。……これ、似合ってないんだ」


「特定監視対象、アルコル。ミザールの血筋の子孫であり、そして『奴等やつら』の血も入った奇跡の子……だったかしら?」


「そうだよ。本来なら絶対に交わることの無い2つの遺伝子。だけど、彼は2つの遺伝子をその身体に宿している」


「……聞く度に異常な子ね。戦力になると思う?」


「戦力にはなると思うよ。彼の『個人スキル』は母親譲りで強力だし」


「でも、彼の身体は普通の人間と変わらないんでしょ? 本当に大丈夫なの?」


「いやー、メラクさんは痛い所を突くね」


 眼鏡を掛けた男性が苦笑いを浮かべる。


「確かに彼の身体は普通だ。血液、細胞に至るまで全部普通。まあ、ミザールの因子はあるけどね。精神の方も精神科の医師に変装して調べたけど、壊れてて分からなかった」


「なにそれ、完全に駄目じゃない!」


「そう、駄目だ。だけど僕達としては覚醒してもらわないと困るだろ? だから今回の参加者を弄ったんだ。少しでも彼の覚醒を促す為にね」


「弄った? もしかして貴方……『基盤』に触れたの!?」


「うん、触れたよ。お陰で僕の概念はボロボロだ。多分、もって後5年くらいだろうね」


「貴方、馬鹿じゃないの!? 今回が駄目でも、また次回に賭ければいいじゃない!」


 長い赤髪の女性が声を荒げながら言った。 


「……次回があれば、僕だってそうしたさ」


「ッ! まさか……!」


「うん。『基盤』に触れた時に調べたんだ。次回は無い。今回で最後だ。もこれが原因だよ」


「そんな……じゃあ、今回の戦いで『奴等』を全て排除しないと……」


「世界は『奴等』の物だね。そして、確実に僕達の存在は無かった事にされる。完全な概念の消滅さ」


「くっ……ベネトナシュ! 何か手は無いの!? このままじゃ私達、魂すらも消されてしまうわ!」


 長い赤髪の女性が焦りの表情を浮かべる。


「メラク、だからこそ彼に賭けるしかないんだ。いや、彼だけじゃない。今回参加する全参加者達にね」



✳︎✳︎✳︎



 かつて、『奴等』と対立する『勢力』があった。『勢力』は必死になって『奴等』と戦ったが、その力の差は歴然だった。


『勢力』の首都以外の都市は全て破壊し尽くされ、『勢力』の首都も風前の灯だった。


 そこで、敗北寸前の『勢力』は動ける者をかき集め、最後の作戦を敢行した。


 作戦の内容……それは、疑似的に異世界を創造し、その異世界に『奴等』を強制転移させるという内容だった。


 『勢力』の軍が『奴等』の軍とぶつかり、最後の戦いが始まると、8人の大神官の内、6人が儀式を始める。


 大神官、ポラリス。彼は異世界の土台を作って消えた。


 大神官、アリオト。彼女は『奴等』を異世界へ落として消えた。


 大神官、メグレス。彼は『奴等』を異世界に閉じ込める結界を作って消えた。


 大神官、フェグタ。大神官、ドゥーべの2人は、『奴等』を異世界で完全排除する為の『基盤』を作って消えた。


 そして大神官、ミザール。彼女は『基盤』が行う戦いの参加者を守る為に、『スキル』となって消えた。

 

 残された大神官は2人……メラクとベネトナシュ。


 彼等の使命は『奴等』の完全排除を見届ける事だ。

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