第19話 人生初の大ピンチ?!
ウィルにお礼を言うために二人で生徒会室に向かっていると人通りの少ないところで何人かの男子生徒に囲まれた。制服を着ているけど、どこか大人のような顔立ちをしていた。先輩だろうか見覚えのない顔だった。
とりあえず邪魔で通れなかったので、退いてくださいと声をかけたが、男子生徒たちにニヤニヤされた挙句無視された。
急いでいるのにそんなことをされて腹が立ったので、私たちもあちらの存在を無視して通り過ぎてやろうと思って前を歩いていくと私だけ腕を掴まれた。
「何の用ですか?私この後予定あるんですけど」
冷たく突き放すように言った私に対して、男は品定めするように頭から足の先まで舐めるように見た後、満足そうににやりと笑った。
「お前があの方の言ってた聖女様かァ。へぇ、結構可愛い顔してるじゃん。オレ好みだわ。聖女様にちょっと用事あるからこっちおいでよ」
そう言って私の腕を強く引いた。
なんとか逃げ出そうと強く腕を振ったが男性の力に敵わなかった。それでも抵抗を続けているとアメリアも私を助けようと男子生徒が握っているところを解こうとした。
しかし、全く歯が立たずアメリアは突き飛ばされて転けてしまった。足を捻ってしまったようで立ち上がれなくなってもアメリアは必死で私を助けようとしてくれた。
「誰だよ、この女。たいして可愛くもないのに俺に触んじゃねぇよ。ウザいんだけど」
そう言ってまた突き飛ばされたアメリア。
「じゃまなヤツは好きにしていいって言われてたっけ。お前にキョーミないし、痛めつけておけば追ってこないでしょ」
この集団のボスのような男がナイフのような刃物をアメリアに向ける。このままじゃアメリアが殺されるかもしれない!と思って私は声を上げた。
「やめて!アメリアに手を出さないで!」
「じゃあ、大人しくしてな」
そんな声を聞いてすぐに私の首に痛みが走って私の意識はそこで途絶えてしまった。
***
意識を取り戻すとそこはどこかの倉庫のようなところだった。元の世界の体育倉庫に似ている気がした。
私は腕を後ろで縛られているだけで、口を塞がれたり足を縛られたりなどはされていなかった。逃げようと思えば、頑張り次第ではできそうだ。
しかし、この空間には人がいる。今のところはどうやらさっきのボスのような男だけがいるようだ。他の数人はどうやら見張りをしているようで、部屋の外から話し声が聞こえてきた。
なんとか男に起きていると気付かれないように情報を集めようとしていると、私が意識を取り戻したことに気がついた男がニヤニヤしながらこちらに話しかけてきた。
「おー、起きたのか」
「ここはどこ?」
「ここか?ここはな、学園内の倉庫だ。お前たちが過ごす貴族科とは逆方向の一般科の倉庫。まぁ、知ったところでお前には何もできないがな。
にしても、かぁわいそうなお嬢さんだよなァ。目立たずに生きてりゃあ、あの方に目をつけられることもなく、今から辛い目に遭うこともなかったのになぁ。」
「私に何をする気なの?」
そう尋ねると気味の悪い笑みを浮かべて私の頬を撫でた。ゾクゾクっとしてる私を見て更に笑みを深くする。
「なぁに、ちょっと傷モノになってもらうだけさ。王子殿下のもとに嫁げないようにね。
大丈夫、怖がらなくていい、なるべく痛くないようにするさ。おにぃさんが目一杯可愛がってあげるからね。
ホントは寝てる時でもよかったんだけどさ、どうせなら嫌がってる声が聞きたいじゃん?イイ声聞かせろよ」
そう言った男がニヤニヤしながら私に近寄ってきて、手に持っていたナイフで私の制服のボタンを一つ一つ時間をかけて切っていった。
「やめて!触らないで!...だれか、たすけっ...むぐっ」
身の危険を感じて助けを呼ぶために叫ぼうとすると手で口を塞がれた。
「おっと、叫ぶのはナシだぜ?折角のオタノシミの時間を他の誰かに邪魔されたらたまったモノじゃねぇからな。
恨むなら、この国の第一王子に手を出した自分を恨むんだなァ」
このままだと襲われる!
なんで勝手に連れてこられた世界でこんな目に遭わないといけないの?!確かにソフィアも色々と酷い目にあってはいたけどここまで酷い目にはあってなかった!
私はただ元の世界に帰りたかったそれだけだったのに。
それの何がいけないっていうの?!家族や友達の待つ世界に帰りたいって思って行動したことの何がダメなの?!
こんな展開ゲームにはなかったのに!!
怖い
怖いよ
誰か、助けて
誰でもいいから...
助けて
.
.
.
.
.
助けてぇっ、ウィル!!
心の中でそう叫んだ瞬間だった。
私たちのいる倉庫?の外からものすごい爆発音が響いた。そして、大きな音を立てながら扉が蹴破られた。
蹴破られた扉が宙に舞っていることに男が気を取られている隙にウィルが素早く私に近寄って抱きしめてくれた。
「ソフィア!」
その声に安心して涙がこぼれ出てきた。震えながらウィルに抱きつき彼の名を呼んだ。
「ウィルぅ...」
我ながら情けない声だった。そんな私の声に被せるようにエルデ先輩の声が倉庫に響く。
「ウィリアム殿下!後ろです!!」
その声を聞いたウィルが振り向いた先にはナイフを振りかざしている男がいた。
「この国にお前のような王はいらない!この国のために散れ!」
大きな声で叫んだ男のナイフがウィルに触れそうになった瞬間だった。ぶわっと私たちを守るように周りに風がおこり男が吹き飛ばされた。
男はその勢いのまま倉庫の壁に打ち付けられて気絶したようだった。
私を抱きしめながら怒っているウィルの周りに私たちを護るように風が舞っている。
ウィルはそちらを一瞥し「連れてけ」とエルデ先輩に指示した後、こちらを見て私の制服のボタンが切られて前の方がはだけているのを確認するとちょっと顔を赤くして自分の制服のジャケットをかけてくれた。
そしてまた強く抱きしめられた。
「もう大丈夫だ。間に合ってよかった。」
「助けにぃっ、来てくれ、て、ありがと、ございますぅっ、えぐっ」
嗚咽混じりにウィルにお礼を言う。本当に助けに来てくれて良かった。もし間に合ってなかったらと思うと震えが止まらない。
「ど、して...ここが?...アメリアはっ、ぶじ...うぅっ...ですか?」
「あぁ、グラシアール嬢は無事だよ。彼女は今、保健室で足の捻挫を治療してもらっているところのはずだよ。
グラシアール嬢がソフィアが連れ去られたと、助けて欲しいと言いに来たんだ。男たちの見た目や話し方から貴族ではない、多分一般科の生徒だと重要な情報も教えてくれたおかげでソフィアを見つけることができたんだ。
グラシアール嬢は制服を砂や土まみれになっても、怪我をしても自分のことよりもソフィアを救おうと必死になっていたよ。
治癒師に止められなければ痛む足を引きずってでもソフィアを助けに乗り込むつもりだったようだよ。
いい友達をもったね、ソフィア」
「はいっ!アメリアはっ、わたしの、じまんのともだちですぅっ!」
ウィルの話を聞いて更に涙が止まらなくなってしまった私を優しくお姫様抱っこしてウィルは倉庫を後にした。
泣きじゃくる私を抱き抱えているウィルというなんとも異質な光景だったがすれ違う者誰一人としてそれに対して何も言うことはできなかった。
普段なら隣を歩くだけで睨みつけてくる人たちが何も言わないどころか、流石にその異常な光景に少し心配そうな表情をしてこちらを見ていた。
ウィルによって連れて行かれたのはアメリアがいるらしい保健室だった。しかし、アメリアはそこには居らずいたのは保健室に常駐しているおばちゃんの治癒師さんだけだった。
「ルミエール嬢も診てもらえますか」
「かしこまりました。では、ウィリアム王子殿下少し後ろを向いていてくださいませ。」
「わかりました」
ウィルが後ろに向くと、治癒師の人が近寄ってきて私の体の調子を軽く診てさっとウィルが貸してくれているジャケットのボタンをしめた。
「もう大丈夫ですよルミエール嬢は特に怪我もありませんでしたし、魔力の流れも異常なしでしたよ。」
あの一瞬で魔力の流れまで見れるなんて流石ベテランの治癒師さんなんだなと感心していると、安堵した様子のウィルが話出した。
「そうでしたか。ではグラシアール嬢の方はいかがでしょう?ルミエール嬢が友人ことを気にしておりまして」
アメリアがいなかったので大丈夫か心配だったからウィルが聞いてくれて助かった。
「グラシアール嬢は右足を捻挫していましたが、治癒魔法で治しましたので今は普通に歩けるはずですよ。
友人が目の前で連れ去られたことによるショックでここに来てすぐは少々魔力の流れが乱れてはいましたが、一旦落ち着いたので大丈夫でしょう。
ルーカス王子殿下と共に生徒会室でウィリアム王子殿下の帰りを待つと言っておりましたのでなるべく早く向かってあげてくださいませ」
「そうですか。では私達は待ってくれている者のもとへ向かおうと思います。無理を言って保健室を開けていただいた上、治癒まで引き受けてくださりありがとうございました。」
「いえいえ、お礼だなんて。私は当然のことをしたまでですので。」
そう言って治癒師の人は恭しく礼をした。それを確認したウィルがまた私をお姫様抱っこして生徒会室に向かった。
私は足を怪我したわけではないので、実際のところ歩けるのだが、ウィルがとても心配してくれているのでとりあえずこのままでいいかとだっこされたままでいる。
あと、実はすれ違う学園の制服を着た男子生徒がちょっと怖いので、ウィル以外を見ないで済むこの状態はとても都合がいい。それに何よりすごく心が落ち着く。
ウィルの綺麗な顔を間近で見ながらそんなこと考えていると生徒会室に着いたようで、エルデ先輩によって開けられた扉から中に入るとルーカス王子とノア王子の前で萎縮してるアメリアがいた。
アメリアは私を見るなり立ち上がってこちらに来ようとした。それをウィルに制されて元のソファーに座りなおした。
その隣に私は降ろされたので、アメリアの隣に座った。隣にいるガチガチに緊張したアメリアを見るとなんだかほっとした。
アメリアが無事でよかったと思っていると、かしこまった感じでウィルが話し始めた。
「グラシアール嬢、改めてお礼を。ソフィアの危機を教えてくれてありがとう。君のおかげでソフィアを助けることができた。」
「い、いえ!私の方こそ大事な友人のソフィアを助けてくれてありがとうございます!」
「いや、当然のことをしたまでだ。
さて、二人にここに来てもらったのは今回の件について一応君たちの話を聞いておきたかったからなんだ。聞かせてもらえるかい?」
「はい」
私とアメリアは、私が攫われた時のことを目の前の四人に話した。
人通りの少ない道で学園の制服を着た見知らぬ男子生徒数人に絡まれたこと。
私が気絶させられて連れ去られたこと。
あの集団のボスらしき男から目立たなければ、ウィルに近寄らなければ“あの方”に目をつけられてこんな目にあうこともなかったのに、と言われたこと。
「なるほど...話してくれてありがとう。怖い出来事を思い出させてすまないね。君たちから話してもらった情報と捕らえた者から聞き出した情報でこのようなことを企んだ不届き者を特定するつもりだ。
捕らえた者たちは別の場所に閉じ込めてある。マーカスがここにいるということは彼らは素直に話したのかな?」
あの男が言っていた“あの方”というのが一体誰なのか気になっていたのでちょうどいい。話を聞いておこうとエルデ先輩の方を向いた。
私が立ち去らないことを悟ったのか、エルデ先輩はすごく言いづらそうに話し始めた。
「まず、あの男たちはクレアフュール学園の生徒ではありませんでした。現在の生徒名簿を先生に確認してもらいましたが彼らのものはなく、またここ数年の名簿にもありませんでした。」
「だが、彼らは学園の制服を着ていたように見えたが、生徒以外は手に入らないはずだが?」
ルーカス王子が疑問を投げかける。
「えぇ、そうです。学園の生徒以外購入できない決まりになっています。」
学園の制服は学園への入学が決まった時に指定された店に入学証明の書類を見せると無料でもらえるという物なので他の人が手に入れられなくなっているそうだ。
「ということは、男子生徒の卒業生から奪ったか、身近にいるか、最悪の場合今学園に通っている生徒に協力者がいるかですね。」
ノア王子も口元に手を当てて考え込んでいる。ウィルも考える時に同じような素振りを見せるのでやっぱり兄弟だななんて思った。
「それを前提に捕らえた男に聞き取りを学園長と行ったところ、言いたいことを言い切った後自害しまして...」
「何と言ったんだ」
「男が語った内容はこうでした。」
エルデ先輩が水晶を前に出した。後から聞いたが、魔道具には映像や音声を記録できる水晶があるらしくエルデ先輩が出した水晶はその中でもこういった調査に有用される物のようだ。
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