第17話 犯人発覚?と兄弟喧嘩
ソフィアの宝物のペンが粉々にされてしまった日から一週間後、
「放課後に生徒会室に来て欲しい。ソフィアに話したいことがあるんだ」
とウィルに呼び出された。
今まで一度も来たことがなかった部屋に行くということでちょっと緊張したけど、待たせるわけにはいかないので、恐る恐る生徒会室と書かれたその扉を開けるとウィルだけではなく、ルーカス王子とエルデ先輩もその場にいた。
高そうなソファーにウィルとルーカス王子が座っており、エルデ先輩はその後ろで険しい表情をして立っている。ルーカス王子も心なしか悲しそうな顔をしていた。
「よく来てくれたね。さ、そこに座ってくれ」
ウィルとルーカス王子の座るソファーと机を挟んで向かい側の席を指されたので、私は大人しくそこに座った。私が座るとすぐにウィルが真剣な顔をして話し始めた。
「ソフィアに謝らなければならないことがある。」
「なんですか?」
「最近君の周りで起きていることについて調べさせてもらった。物がなくなったり壊されたり、話しかけても無視されたりしていたそうだね。
毎日昼食を共にしていたのに、全くと言っていいほど気付いてあげられなくて本当に申し訳なかったと思っている。
そして、一週間前君の大切にしていたペンを壊したのも含めて全て私の婚約者であるグレースとミラ嬢が行った、もしくは指示してやらせたものだった。
本当にすまない、私がしっかり彼女を見ていればこんなことにはならなかっただろう。少なくともペンが壊される前に止められたはずだ。
本当に申し訳ない」
本来なら私のような平民相手に頭を下げて謝るなんてするはずのない王族が私に対して頭を下げて謝罪している。その光景にすごく申し訳なくなって私はすぐにとめた。
「ウィルが悪いわけではないので顔をあげてください!」
慌ててしまっていたから、二人きりの時にしか呼ばないようにしていた“ウィル”という呼び方で声をかけてしまったが、今はそんなことどうでもよかった。ウィル以外の二人が何か言いたげな顔をしているけど放置だ。
「ウィルは何も悪くありません。例えグレースさんが犯人だとしてもウィルが謝る必要なんてないんです!
それにグレースさんとミラさんの机に入っていただけでお二人が犯人だとは限らないでしょう?」
「その通りです!」
私の言葉に重ねるように今まで全く聞いたことのない声が部屋に響いた。
振り返るといつの間に入ってきたのかわからないけど、扉の前にウィルに似た髪と瞳の色をもつ可愛い感じの男の子が立っていた。
「ノア」
ウィルが驚いた顔をしてその名を呼んだ。ノア、ということはセレスティナ王国第三王子でウィルの弟のノア・セレスティナだろうか?
そう思っていると、システムが彼の情報を表示し始めた。
名前:ノア・セレスティナ
年齢:15歳 (1年)
第三王子であり、王位継承権第二位。ウィリアムとルーカスの弟。体が弱いため激しい運動を医師から禁止されているらしい。
好きなものは甘いもの、かわいいもの
嫌いなものは薬、病気
好感度:普通
なるほど、ウィルの弟で間違いないようだ。前に一度話を聞いた時は、優しくて穏やかな心の持ち主で普段ニコニコしてお兄様!と慕ってくれていると言っていたが、どうやら今の彼はどこか怒っているようだ。
「ルミエール嬢、隣失礼しますね」
私に話しかける時は少しだけ優しい声だった。女の子に好かれそうな甘い感じの声だなぁなんて考えた。
「はい、ノア殿下」
「ありがとうございます、それで兄上先程の話なのですが」
「ノア、君にこの話はしてなかったはずだ。それに今日ここでソフィアに話をするというのも、ルーカスとエルデとソフィア以外には伝えていないはずだが、どこで聞いたのかな?」
「この場に勝手に入っことは謝罪します。ちょうど気になっていた話をしている声が聞こえたものですから。あと、僕の情報網を舐めないでいただきたい。末っ子だからって何もできないわけではありませんので。
いえ、今はそんなことはどうでもいいのです。兄上は本当にグレース嬢とミラ嬢がこのようなことをしたとお思いなんですか?あの聡明なお二人がこのような子供地味た嫌がらせをすると?!
ルーカス兄上はどうですか?他の女性ばかり追いかけて自分の婚約者を蔑ろにし続けてきて今更ミラ嬢はこんな奴だと決めつけるのですか?!貴方はミラ嬢のことを何一つとして見ていなかったのに?」
今日初めて会ったノア王子がそう声を荒げる。私もそれに関しては同意見だ。あのグレースさんとミラさんがそんなことするはずがない。だって私に対して他の人に取る態度と同じ態度でずっと接してくれている珍しい人なんだ。
そもそも、元から私に対する態度や周りに対する態度が少し冷たい人たちだけど本当に人によって態度を変えることがない人達だった。
「ウィル、私もグレースさんとミラさんがそんなことするなんて信じられません。
あの方たちは裏でコソコソなんてしないで、私に対して言いたいことがあるなら面と向かって言いに来るタイプの人達ですよ?きっと何かの間違いです!」
私がそう言うとノア王子が少し驚いた顔をした後、すっと元の怒っている顔に戻ってからため息を吐きながら呆れたように話し始めた。
「どうやら、兄上たちよりも出会って数ヶ月程度しか経っていないはずのルミエール嬢の方がグレース嬢とミラ嬢についてよく理解しているように思えますね」
ノア王子は可愛らしい顔で割とキツめの嫌味を言うんだなと感心しているとその言葉を無視してウィルはこちらに向いて話し始めた。ノア王子より私を丸め込もうとしている?
婚約者より私、実の弟より私?それは流石にちょっとゲームのキャラとはいえどうなんだろうか。
「でも、グレースもミラ嬢も初めからソフィアに対して酷い態度で接していただろう?いつも君のことを冷たい目で睨んでいるそうじゃないか。
教室での君達の会話や君の状況などをルーカスから聞いたんだ。」
「それは、そうですけど、でも」
確かに彼女たちの私に対する態度は良くなった、でもそれは私がしたことを思えば当然のこととも言える。しかし、そんなこと言えない私は言い淀むことしかできなかった。
「ソフィアは優しいんだね。あんな酷いことをされたのに、その犯人かも知れない人間を庇うなんて。私には考えられないよ。」
「兄上!」
「...わかっているさ、ノア。
君から見れば婚約者を捨てて他の女性に現を抜かす最低な男に見えていることだろう。この国王妃となり私を支えんとしてくれていたグレースを裏切ったように見えることだろう。
例え私とソフィアがそのような仲ではないと言っても信じられないだろうことも私はわかっている。
こんなところで言うつもりはなかったけどね、歴代聖女は基本的に王族やそれに準ずる貴族と婚約することが多いのは周知のことだろう。
現状、ソフィアと最も仲が良いのは私だ。ソフィアに対し酷い対応をしていた者に任せるわけにはいかない。ソフィアさえ良ければ第二王妃に迎えようと思っていたのだ。父上も二人の令嬢を王妃として迎えていたからね、この国ではおかしな話でもないだろう?
もちろん、私はグレースにそう伝えた。グレースは第一王妃として、貴族社会に不慣れなソフィアのサポートをしながら二人で国王としての私を支えて欲しいと。そしてグレースもそれを了承したはずだったのだ。
だが、結果はどうなった?
裏切られたのは私の方だったんだよ。
私だってね、信じたくなかったよ。共にこの国のために良き国王と王妃になろうと小さな頃に誓ったはずなのにね。
私もソフィアのペンが粉々になってグレースの机から出てきた時はね驚いたし、信じられなかったさ。
私の婚約者がそんな馬鹿げたことをするはずがないと、彼女が無実である証拠を集めようとすればするほど、彼女が犯人である証拠ばかり出てきたのだ!
この調査には叔父上も手伝ってくれていてね、叔父上の伝手で色々な貴族に聞いて回れたんだ。
その結果色んな生徒が証言してくれた。中にはグレースに命令された、指示されて仕方なくやってしまったと証言する者もいる。
彼らは皆、子爵以下の貴族の子供だった。グレースに言われれば断れないだろう。」
悲しそうに目を細めてそう言ったウィルに対して、ノア王子は信じられないといった様子でまた声を荒げた。
「兄上は十年間婚約者として歩んできたグレース嬢よりその辺の人間の言葉を信用すると言うのですか?!」
「グレースは私の婚約者だ。」
その一言でノア王子は悔しそうな顔をして黙った。
「私があまりにもソフィアと仲良くしているから嫉妬のあまりこのような行動をとってしまったのかもしれない。
もしくは第一王妃としての立場が危うくなっていると勘違いしてソフィアを私から引き離そうとしたのかもしれないな。
しかし、次期王妃だからといってやっていい事と悪い事の区別もつかないようでは、次期王妃としては不相応だと思わないか?」
「だからといって婚約破棄に国外追放は話が飛びすぎでは?!」
「それは彼女が行動を改めなければ、私もそれ相応の行動を取るというだけのことだ。彼女が罪を認め、ソフィアに謝罪するならばこのことは内々に処理し、彼女には第一王妃としていてもらう予定だ。」
その後もいろいろな言葉でノア王子を説得しようとするウィル。しかし、何を話してもノア王子を納得させることはできなかったようだった。それどころか言葉を紡ぐたびに彼の怒りは増していくようだった。
「...兄上とは話しても無駄なようですね。
僕は僕で調べさせていただきます!グレース嬢とミラ嬢が犯人ではないという証拠を見つけさえすればいい話ですからね。
もし、犯人がお二人ではなければ、その時はしっかりと謝罪していただきます」
「好きにすると良い。期限は私が卒業するまでだ。それまでは待とう。しかし、それ以上は待てないよ。」
「構いません。それでは、これ以上は時間の無駄なので失礼します」
ノア王子はそう吐き捨てて去っていった。そんなノア王子を心配してルーカス王子が追いかけていった。
エルデ先輩も用事があるからと去っていった。残されたのは私とウィルの二人だけ。普段なら気まずくないけど、“ソフィアを第二王妃に”なんてウィルが言った後だ、ちょっとどころではないくらいに気まずい。
そんな私の隣まで移動してきたウィルが優しく私の手を握った。
「このような形で伝えることになってしまって本当に申し訳ないと思っている。
先程言った通り、歴代聖女は基本的に王族やそれに準ずる貴族と結婚することが多いんだ。それは、聖女の身の安全を守るという理由をつけて実のところ聖女を他の国に渡さないようにするということだった。
いわゆる政略結婚に近いんだ。だから歴代聖女の中には望まぬ結婚を強いられた者もいたという。
私はソフィアをそんな目に合わせたくなかったのだ。だから君を第二王妃にするために密かに準備をしていた。もちろん君が誰かを好きになってその人と結ばれたいと言うのなら君が幸せになれる道を応援するつもりだった。
少し前までは。」
「今は違うのですか?」
「今はね、君が他の誰かと幸せになるなんて考えたくもない。私が幸せにしてあげたい、私と共に生きて欲しい、そう願ってしまうんだ。気がついたらどうしようもないくらいに君のことを好きになってしまていたんだよ。
ソフィア、どうか私の妃になってくれないだろうか?君のためにも、私のためにも。そしてこの国の未来のためにも」
ウィルは私の目の前に傅いて手を差し出した。あ、と思った時には私は嬉しそうに笑ってその手を取っていた。
「私のために考えてくれていたんですね、ありがとうございます。私を選んでもらえて嬉しいです、ウィル。これからもよろしくお願いしますね!」
「私も嬉しいよ、ソフィア。これからもよろしく頼むよ」
嬉しそうに笑ったウィルが私のことを強く抱きしめた。私も彼の背に腕を回し彼にこたえるように強く抱きしめ返した。
しばらくそうしていた後、互いに少し恥ずかしくなってきて離れた。頬を赤らめる美形はちょっと私には刺激が強すぎるものだったとここに記しておこうと思う。
離れてから少しの間はぎこちなかったけど、割と二人で楽しく話をすることができたと思う。一時間ほど二人で話してウィルが生徒会長としての仕事があるということなので私はこの辺りでお暇することにした。
「それではこの辺で失礼します。また月曜に会いましょうね!ウィル」
「あぁ、またね、ソフィア」
そう言いながらウィルは私のおでこにキスをおとした。生まれてこの方キスなんてされたことのない私は顔を真っ赤にして部屋から逃げ出すことしかできなかった。
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