第13話 見学!魔法大会!

 アメリアに声をかけられた後、二人で夕食を食べに行った。ぼーっとしていた私をすごく心配してくれていたが、身体的には何も問題はないので大丈夫だと返しておいた。


 夕食を終えて自室に帰ってきてすぐに私達は明日に備えて寝ようとした。アメリアも明日クラスメイトと大会を見に行くようで早めに寝ると言っていた。


 ベッドに入ったアメリアにおやすみと声をかけて、返事が返ってきたのを確認して灯を消す。


 一瞬で暗くなった部屋に優しい月の光が差し込んだ。月明かりでほんのりと明るくなった部屋で私は一人眠れないでいた。


 頭が覚醒したままで、今日あったことを思い出してしまい顔から火が出るくらいに熱ってる。それもそうだ。だって国宝レベルに美しい人の顔があんなにも近くに来るなんて!


 それだけに留まらず、家族や親しい友人だけが呼んでいい愛称を私にも呼んでほしいだなんて!


 こっちは恋人いない歴=年齢の女で、ゲームやアニメに人生を費やしてきてるタイプの人間だぞ?!


 免疫とか耐性とかあるわけないのに!!


 胸に手を当ててみるとまだ心臓がドキドキしてる。こんなことは生まれて初めてかもしれない。もしかして、これが恋?...なんてね。


 そんな訳ない。


 私は静かに頭を左右に振った。


 だって、ウィリアム王子は私の好みじゃないから。ゲームをしていた時からそうだった。私にとってウィリアム王子というキャラは嫌いではないけど、それほどすっごく好きってわけでもない、ただ親友が好きなキャラにすぎなかった。私はもうちょっとクール系のキャラが好きだったというのもあるけれど。


 だからこの胸のドキドキはきっとソフィアのもの。私のものではない。


 ソフィアにとってこの世界は彼女の生きる世界だけど、私にとってこの世界はゲームの中の世界。現実じゃない夢のような世界なんだ。だから、ずっとここにいるわけではない、いやずっとここにはいられないのほうが正しい。


 例え好きになってもいつか離れ離れになるしかないのだから、私は本気でこの世界の人を好きになるなんてことは絶対にしない。悲しくなるのが目に見えてるから。


 そんなこと考えていないで寝ないと。


 明日も学園祭だ。


 しかも、魔法大会がある。私の所属する一組からはルーカス王子が、三年生はウィルとエルデ先輩が出場するらしい。それ以外にも我こそはと名乗りを上げた魔法が得意な生徒がこぞって参加するようだ。


 ウィルに見に来て欲しいと言われたから見に行かないといけない。トーナメント形式で午前中に準々決勝手前まで行って、午後からは準々決勝以降を行うようだ。


 王族や貴族といえどシード権を優先することはないようでウィルもしっかりと勝ち進まないといけないらしい。これはアメリアから聞いた。


 ウィルは自分たちの分だけでもと言っていたけど、彼らは相当の実力者。そう簡単に負けるはずがないので、おのずと私は多くの試合を見ることになるだろう。


 座って見るだけらしいけど、ずっと座っているのも疲れる。しっかり寝てしっかり食べて明日に備えないといけないのに眠れない。


 寝れない寝れないと考えるとさらに寝れなくなるらしいからとりあえず考えることをやめて目を瞑っていようと思う。


 それでは、おやすみなさい


***


 なんとか昨日の夜は寝ることができて、次の日の朝しっかりと朝起きることができた。


 朝起きて、顔を洗うために鏡を見るとちょっと疲れてそうな私が写った。前髪がアホ毛のようにぴょんっと持ち上がっている。それでもなんだかんだ可愛いのだからソフィアって本当に可愛い女の子ヒロインなんだなとしみじみ思う。


 もし、今日がアメリア以外の人前に出ない日ならそのまま放置でもいいんだけど、今日は魔法大会を観に行かないといけない日。


 ウィルに会うかどうかはわからないけど、もしかしたら会うかもしれないからこんなちょっと疲れが出てる状態じゃなくて可愛い状態にしておかないといけない。


 さぁ可愛くなるぞと気合を込めて、朝の冷たくて気持ちいい水で顔を洗う。


 ソフィアは化粧品なんて便利なものは、ほとんど持っていない。持っているのは神殿から何故か支給された化粧水の様なものだけだった。


 それでも異世界の素材で作られているおかげか効果はすごかった。肌荒れなんてものはないけど、ちょっと調子悪いかな?なんて日の夜に使っておくと次の日には元の調子に戻っているのだから驚きだ。


 しかも、もっと驚きなのがこれがこの世界の化粧品の中では安物に値するいうこと。


 この世界にはもっと高価なものがあって、貴族の女性は高価な化粧品を主に使っているようだ。アメリアの一族はそういったものにお金はかけないようで私が神殿でもらった物と似たような物を使っていた。


 さて化粧品についてこの辺にしておこう。今の私の疲れてる顔はこの化粧水でなんとか誤魔化して、髪もいつも通りに可愛くツインテール。アホ毛になってた前髪もしっかり戻して、これでOK!あとは笑顔を忘れないこと。


 そして、強く信じる。私はソフィア、大丈夫上手くできる、と。


 私の準備が整った時にはアメリアも準備を終えていて、私達はふたりで朝食を食べに食堂に向かった。


 珍しく人の多い食堂でなんとか空いている席を探して座って食べた。


 今日の朝食のメニューはロールパンみたいなパンにチーズオムレツ、サラダにスープだった。


 元の世界ではトースト一枚とかおにぎり一つとか朝食少なめだった私からすると、このあまり馴染みのない量と種類の朝食に、初めの頃は戸惑ったけど今では結構馴染んできていて、最近は毎日美味しく食べることができている。


 朝ごはんをしっかり食べ終わると、私達は一度部屋に戻り別々に部屋を出た。


 アメリアはクラスメイトが部屋の前まで迎えにきてくれたようで、仲良さそうにクラスメイトと三人で出かけて行った。


 私は誰かと一緒に行くみたいな約束はしていないのでさっとお店で飲み物を買って良さそうな席に座っておこうと思う。


 急いで部屋を出て、お店に並んだが同じ考えの人がいっぱいいたらしくしっかりと混んでいたので結局は他の人たちと同じくらい、下手したら遅いまであるぐらいの時間に大会の会場に入ることになった。


 そのせいで前の方の席に座ることはできなかった。仕方なく諦めて私は後ろの方の席に座った。


 九時スタートだったので早速司会の先生が大会のルールなどを説明している。


簡単にまとめると、

・実戦形式のバトル

・誰が相手でも正々堂々戦う

・戦闘不能状態になったと審判が判断するもしくは降参するまで戦い続けること


こんな感じかな。


 席が遠いのでマイクかなにかを使っているような先生の声は聞こえるけど、多分戦っている生徒の声は聞こえないと思う。


 残念だけど、間に合わなかったのだから仕方ない。来年は飲み物を買わずに先に席を取ることにしよう。これも一つの学びだな。


 さて、大会だが入り口でもらったトーナメント表によると、ルーカス王子は三戦目、ウィルは五戦目だった。


(エルデ先輩には今のところほとんど興味ないのでスルーさせていただく)


 それまではぼーっと試合を眺めておくとこにする。


 全く知らない人たちの戦いが始まった。ゲームをしてた時にも思ったけど、このゲーム当然の如く恋愛パートにも力を入れているけれどそれと同じくらい戦闘にも力を入れて制作しているように感じた。


 特にこの魔法大会、魔法のエフェクトは豪華だったし、なにより攻略対象のかっこいいシーンの詰め合わせみたいな感じだった。


 ストーリー攻略後にアルバムというところからスチルが見れるらしかったんだけどその前にここに来てしまったから私は見ていない。


 でも、もし見れていたら魔法大会のスチルは異常に豪華で多かったんだろうなと勝手に思っていた。


 私の遊んだウィルルートにおいて魔法大会に攻略対象で出場していなかったのはノア王子だけで他の四人はしっかりと出場していた。


 だから今回ウィルやルーカス王子、エルデ先輩が出場するのは想定内なんだけど、レオナード君が出場しないのはちょっと想定外だったりする。


 まぁ、彼とは微妙な関係だし、今攻略中なのはウィルだから問題はないと言えばないので放置しておこう。


 そんなことを考えながらぼーっと観ているとルーカス王子までの試合が終わっていた。


 ウィルが言っていたけど、ルーカス王子は戦闘があまり得意ではないようで試合も積極的に攻めることはほとんどなく、防御や相手の攻撃を受け流すことの方が多かった。


 それでも的確に相手の隙を見抜いては攻撃を仕掛けていた。その結果魔力の尽きた相手が降参して、ルーカス王子の勝利に終わった。


 一組分知らない人たちの試合を見た後、ついにウィルの試合になった。マイクを持った先生がウィルの名前を呼び、ウィルが試合会場に立った瞬間あちこちから黄色い声援が上がった。


 その声援を背中で受ける、少し居心地の悪そうな背中をした対戦相手が私側の試合会場にいる。なんだかちょっと可哀想に思えてしまった。


 そんな中、この歓声を一身に浴びる本人は優雅に女の子たちに手を振っていた。私の周りの子達も手を振っているから、私も手を振っていても何も問題はないかなと思い手を振ってみることにした。


 気付かれなくても大丈夫だけど、もし気付いてもらえたら観にきたよというアピールになるし、応援してるようにも見えるはずだ。ウィルへのアピールはしすぎても損はしないだろうからね。


 そんな下心満載の私を目敏く見つけたウィルが少し嬉しそうな顔をしてこちらに向かって長めに手を振った。目があった気がしたけどそれは私の都合のいい思い込みだろうか。


「きゃー!今ウィリアム様と目があったわ!」


「いいえ!私と目があったのよ!」


「ウィリアム様が私に手を振ってくださったわ!」


「何を言っているのかしら?私に手を振ってくださったのよ!貴女みたいな身分の低い人にウィリアム様がそんなことするわけないでしょう?」


 ......こうはなりたくないな。面倒ごとには関わりたくないし、私は特に気にしないことにしておこうかな。


 周りの女の子達から目を逸らして、私は試合が始まろうとしているウィルの方を見た。


 今まで試合に出ていた誰よりも堂々としていて勝つのは自分だと自信に満ち溢れているようだった。


 ウィルはルーカス王子とは違い結構自分から攻めていくタイプなようで相手に行動する隙すら与えずに勝ちきってしまった。


 王子だからと相手が手加減したわけではない。相手も全力で初手の魔法を放っているように見えた。しかし、その後ウィルが連続で放った魔法は相手が全力で放っていた初手の魔法より高い威力のものでそれを必死でガードするも努力虚しく散っていった感じだった。


 ウィルの圧勝。まさにこの一言に尽きる。


 そんなウィルの第一戦目を見て、これは私の応援必要だったかな?なんて思いながらこれ以降の試合も応援し続けた。


 そして、午後の部に勝ち進んだのはウィル、エルデ先輩、そしてあともう六人の強そうな先輩だった。3年生ばかりが勝ち残った事からやっぱり経験の差はあるなと思った。


 ルーカス王子は三戦目でウィルにあたって善戦したものの流石に勝てないと悟ったのか一通り魔法を放った後降参していた。惜しむ声は多かったがそれ以上に讃える声も多かった印象だ。


 そして午後の部。


 結果としては予想していた通りにウィルの圧勝だった。この世界にもタイプ相性というものは多少あるみたいだけど、そんなのお構いなしと言ったようにどんな属性の相手でも圧勝していった。


 二位は遠くて見えなかったけど黒髪の先輩で、三位がエルデ先輩だった。知ってる人が二人も入賞したというだけでちょっと嬉しくなるのは私だけかな?


 表彰式では優勝トロフィーを受け取ったウィルが誇らしげに掲げたトロフィーをこちらに見せながら微笑んでいた。


 また黄色い声援が周りの女の子達から上がってそして再び自分に向けられているのだと主張しあっていた。その中で小さく手を振って私は会場を後にした。


 夕食まで時間が経っても魔法大会の熱が冷めやらぬままになった生徒達が、食堂で話をしながら食事をしていた。貴族の子供が多いおかげで普段は静かな食堂が今日だけあまりにも賑やかだったので落ち着かなくなって私は早々に食事を済ませて食堂から出た。


 なんとなく部屋に戻るのは早い気がして、私は一人で寮内を歩いてまわった。普段はこんなに見てまわらないから少しだけ新鮮で探検してる気分だった。


 いろんなところを見てまわって最後に談話室に辿り着いた。するとそこには盛り上がりの主役であるウィルがいた。


 魔法大会優勝のお祝いと軽く挨拶をして去ろうとすると少し話そうと呼び止められた。あまり二人きりでいるのはどうかと思ったが今更だなと諦めて彼の隣に座った。


「もう少ししたら寝る時間だから、少しだけ話を聞いてくれるかい?お礼を言っておきたかったんだ。


今日は大会を見に来てくれてありがとう。昨日の夜に急に無理を言ったからもしかしたら来てもらえないかと思っていた。


でも、大会が始まった時に君を観客席に見つけてね、観に来てくれたんだと思ったらすごく嬉しかったんだ。それに手を振ってくれただろう?それを見てなぜかわからないがすごく力が湧いてきた気がしたんだ。


だから、今日勝てたのは君のおかげなんだよ。本当にありがとう、ソフィア」


「今日の大会で優勝できたのは、ウィルの日頃の努力の賜物ですよ。それでも、私の応援がウィルの力になれたならとっても嬉しいです!」


 嬉しげに笑うウィルに私も微笑み返す。その後も少しだけ二人で話をした。十五分くらい経っただろうか。二人とも満足したので今日は解散することにした。


「そろそろ寝る時間だね。本当に今日はありがとう。こうやって君と話せてよかったよ」


「私もです!」


「それじゃあ、おやすみ、ソフィア」


「はい!おやすみなさい、ウィル」


 私たちはそう挨拶を交わして別れ、お互いの部屋へ向けて歩き出した。まさかその場面を誰かに見られていたなんてその時は知る由もなかった。


***


「なんで、あの子がウィリアム様と一緒にいるの?それに勝手に“ウィル”という無礼な呼び方をしてるなんて。


これはあの方に報告しないといけないわ」


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