第11話 恋愛イベント?学園祭!

 私がこの世界に来てしまってから、約一ヶ月が経った。その間は特に変わり映えのしない、本当に普通の日常生活だった。


 朝起きて、寮の食堂でご飯を食べる。アメリアと一緒に校舎へ行き、教室の前で別れて授業を受ける。昼食の時間には校舎の食堂で食べて、また午後からの授業を受ける。そして寮に帰り晩御飯と明日の準備や予習を済ませ、アメリアとお話しして眠る。


 毎日その繰り返しである。乙女ゲーム的なイベントはほとんど起きなかった。こんなに何もなかったのか?と思うほどに何起きなかったので私もびっくりだった。


 グレースさん、ミラさんとの会話はあの日以来ほとんどなくて朝たまに挨拶するくらい。ルーカス王子も教室ではあまり話さない。一人で寝ていたり、別クラスの女の子に囲まれていたりしている。


 クラスメイトに関しては、元々一年間一緒に過ごしてるからか結束力が強くて今更私の入る隙間はなかったし、何よりこのクラスの人達は私が平民出身だと知っているから少し距離を置かれている。そのため教室や授業間の移動なんかはずっと一人だ。


 でも、そんな学生生活の中でただ一つだけ他人と関われることがある。それが昼食だ。もちろん、食堂の料理人の人達と話してるなんて寂しいことじゃなくて、ちゃんと学生と話してる。


 誰かって?


 それはウィリアム王子だ。


 初日に案内してもらったついでに一緒に食べて、それ以降は一緒に食べることはないかなと思っていたけど、そこはゲームの修正力が働いたのか何故か今も変わりなく毎日一緒に食事をしている。


 基本的にはウィリアム王子とその側近のエルデ先輩、ルーカス王子の四人で食べることが多かった。


 時折、そこにレオナードくんがまじって五人になる時もあったけど、頻度は低かった。後、ウィリアム王子にはもう一人弟がいてノア王子って言うらしいけどその人は一度も来たことがなかった。


 ウィリアム王子に教えてもらったけど、レオナードくんは婚約者の子が今年一年生で彼女とご飯を食べることが多いのだとか。ノア王子は今年一年生だからクラスメイトと食べているのではないかと言っていた。


 ウィリアム王子はそうじゃないのが不思議だったけど、彼は“それぞれ自分の友人もいるし、これから先何度も顔を合わせて食事する機会があるのだから、学生の時くらい別の人と食べても問題ないだろう?後クラスメイトとは何度か食べたからね、君を優先しても文句は言われないさ”とのことだった。


 ウィリアム王子がそう言うならそうなんだろうななんて思考放棄する。


 私としてはあまり目立たないように過ごしたつもりだったけどウィリアム王子たちと食事を取っているために、どうやら女の子を中心に私はよくない目立ち方をしているようだ。


 ただ、一組以外の子達には私が平民出身だとまだほとんどバレていないと思われるから変に声をかけてくる人はいない。


 時折睨んだり陰口を叩いたりしてくるのは、魔力測定の際に喧嘩を売ってきたあの五人の女生徒くらいなもので、あの後知ったのだがどうやら彼女達も一組じゃないだけでそれなりの身分らしい。だから私が平民だと知っていたのではないかと、そうアメリアが教えてくれた。


 貴族のことなんかは私にはわからないし、ソフィアもあまり興味がなくて知らないことだったから教えてもらえて助かった。


 まぁ、そんな感じで目立ちはしたけど割と平和な日々だった。授業も難しかったけど、元の世界では受けることのできない学問が多くてすごく興味深かった。


 そんな日々を続けてたどり着いた今日から二日間、ついにメインイベントの一つである学園祭が開催される。


 私のクラスである一組は出し物はせず、他のクラスのお店や劇などを見てまわるだけのようだ。お店のリストを配られて自分の行きたいところの場所を把握しておくようにとアシェル先生に言われた。


 軽食だけでなく、キーホルダーやヘアピン、刺繍入りのハンカチなどのような小さな雑貨なども売られているようでちょっとだけ興味がある。後で見に行こうと赤いペンで丸をつける。


 隣の席のルーカス王子が“やっぱり女の子は可愛いものが好きなんだね”みたいな温かい目でこちらを見ているのは気付かないフリをしておいた。


 そういうものに興味なさそうだって元の世界では言われてたけど、結構可愛い物も好きだった。もちろん、綺麗な物やかっこいい物も同じくらい好きだ。意外だなんて慣れっこだった。


 そんな風に人を見るルーカス王子はどこに行くのかな、と彼の持つリストに目を向けると“ここは〇〇ちゃんと”とか“ここでは△△ちゃんに”とか女の子名前が書かれていた。


 女の子用のプレゼントリスト?


 なんて思っていると、ルーカス王子は唇に人差し指を当てて“ミラには内緒ね?”とそれはそれはとても小さな声で言った。


 どうせミラさんと話す機会もないので適当に頷いておいた。そんなことより考えないといけないことが多いのだから。


 今日と明日は一日中学園祭なので授業はなく、また昼食時の食堂もやっていない。そのため、学園祭の出し物で昼食を済ませないといけない決まりになっている。


 学園祭での売り上げは材料費を引いた残りがそのクラスの生徒の取り分となるようで、毎年みんなすごく気合いが入っているようだ。


(後から聞いた話だが、出し物をするクラスそれぞれにそれなりの準備用のお金が学園の方から出されているから売り上げ=取り分で確定らしい。それは頑張るわ)


 また出来次第では、価格より多めに支払ってくれたり、個別に注文されたりすることもあるらしくこの日のために準備を半年前からしてる子もいるとか。


 だからと言っていいのか、この学園祭の店は食べ物をとっても雑貨をとってもどれも高品質な物が多い。


 しかし、価格はどれも良心的なものに設定されており、苦学生でも昼食には困らないくらいにはなっている。儲けのために価格を吊り上げるなんてしないようだった。


 だから個人的なお金はほとんど持っていないソフィアでもゲームのイベントで食べ物の一つや二つは買うことができていた。


 だから私も大丈夫かななんて思った。


 前日にしっかりと確認したら、神殿からもらっていた物であるお財布の中に“学園祭用お小遣い”と書いてある封筒があった。


 しかも、しっかりと中身が残っていた。


 ソフィアぐらいの女の子ならお小遣いだってお金を貰ったら、ぱーっと使ってしまう子も多いだろうに、ソフィアは多分全く手をつけていなかったことが記憶からわかった。彼女にとっては大金の入った封筒を緊張しながら握っている記憶のソフィアがとても可愛かった。


 彼女はこれから通う学園での生活を楽しみにしており、その中でも学園祭をすごく楽しみにしていたようだった。


 “好きなように使うといい”と神殿のお偉い様みたいな人からお金を貰ったソフィアは故郷の村に残してきた両親にプレゼントを贈りたかったようだ。親想いの良い子だ。


 そんなソフィアになってしまったのだから、私が代わりにソフィアの両親に何か贈り物を買おうと思っている。好みはあまり理解していないけど、ソフィアの記憶頼りに何か無難な物を選ぶつもり。


 なので、お金はしっかりと考えて使わないといけない。


 今日買うのは、両親へのプレゼント、私のお昼ご飯だ。明日のお昼ご飯分も残さないといけない。お昼ご飯はとりあえずお店を見て考えようかなって思っている。


 ゲームにはなかったけど、仲良くなれたアメリアと一緒に見てまわったりするかなと思ったけど、アメリアはクラスの友達とまわるらしい。


 昨日の夜にごめんねと言われたので一人でも気にしないので大丈夫だよと返事した。


 学園祭はメインイベントの一つだとさっき言ったからわかる人はわかると思うが、このイベントは一人じゃないと困るのだ。


 だから実際断ってもらえて助かった。断ってもらえてないと私の方から断らないといけなかった。そんな気まずいのは面倒だから嫌だと思ってた。


 さて、なぜ一人じゃないと困るのか。


 この学園祭イベントはその時に一番好感度の高い攻略対象に誘われて一緒に見てまわることになっている。そこでさらに攻略対象との仲を深めるのだ。


 さて、そんな攻略対象の今の好感度は私の記憶だとこんな感じになっている。


ウィリアム王子 高

ルーカス王子  普通

ノア王子    不明(会ったことない)

レオナードくん 普通

エルデ先輩   普通


 つまり、私は初日に立てた計画通りウィリアム王子の好感度を上げられているから、ウィリアム王子と一緒に学園祭を楽しむことができる予定だ。


 問題はどこに行けば会えるのか。ゲームの内容を細かいところまで覚えていなかったから困った。


 なんてことを考えているとまたルーカス王子がこちらを見ていた。


 そして目が合うと手招きされた。秘密の話があるんだよと言われて耳をかすと


「ウィル兄さんが校舎の方の食堂入り口に来て欲しいって言ってたよ。内緒で伝えて欲しいって頼まれたんだ。もしよければ行ってあげて欲しいな」


 とこっそり教えてくれた。


「ありがとうございます」


 私もこっそりとお礼を言う。お礼を聞いたルーカス王子は満足そうに笑って教室から去っていった。


 女の子のところに行くのだろうか?


 私にはあまり関係ないことだけど、女の子好きっていうのは本当なんだなと改めて思った。


***


 お金を入れ替えておいた、ソフィアの小さな財布をポケットに入れて校舎内の食堂へ向かう。


 それにしてもよく考えたものだ。


 今日、食堂は閉まっていてしかも食べ物系のお店のクラスも調理はその場か自分の教室で行うから、その近辺に近寄る人はほとんどいない。


 こっそり待ち合わせをするならうってつけと言ったところだ。


 ウィリアム王子も一人で歩いていればいろんな人に誘われるのだろうか?ルーカス王子のように。


 それにしても婚約者がいる人に対してよくもまぁ声をかけられるものだよね。ゲームをしてた時にもちょっとだけ思ってしまったんだけど、そういうのって良くない気がする。


 今の私がグレースさんから見たらそうなのかもしれないけど、私は元の世界に帰られないといけないし、何よりここはどうせソフィアが主人公の世界。一旦私のことは置いておいても大丈夫だろう。


 そもそも、例えウィリアム王子やルーカス王子に気に入られたとしてグレースさんより身分の低い、何より教養もあまりなさそうだったあの子たちが王妃になれるわけがないのでは?何が望みで声をかけるのだろうか?


 うーん、私にはあまりよくわからないな。


 そんなこと考えながら歩いていると気がついたら食堂の近くになっていた。この廊下の角を曲がると食堂だ。


 本当に待ってくれているのかと少しドキドキしてしまう。


 今までの人生でこんなことは初めてだからどうすればいいのかわからなくてちょっとだけ困っている。


 緊張しながら角を曲がると廊下の壁にもたれて外の景色を眺めているウィリアム王子がいた。ここの廊下の窓なら生徒たちがお店を所狭しと並べている広場が見えるはずだ。


 その光景を微笑ましげに眺めていたウィリアム王子は私に気付くと嬉しそうに笑った。光輝いているのではと錯覚するほどの美しさ。その時、なんとなくわかった気がした。結局のところみんな面食いなのかもね。


 なんてことを私が考えてるなんて知る由もないウィリアム王子に駆け寄りながら声をかける。


「お待たせしました!ウィリアム王子!」


「来てくれたんだね、ソフィア」


「はい!ルーカス王子に教えていただきました。どうかしましたか?」


「今日の学園祭、よければご一緒にどうかな?」


 そう言って私に手を差し出した。あ、と思った時には私は彼の手を取って頷いていた。


「嬉しいです、ウィリアム王子!私で良ければぜひご一緒させてください」


 満面の笑顔を浮かべて私はそう返事していた。その返事に先程よりもさらに嬉しそうにしたウィリアム王子が話し始めた。


「ソフィアは何を見たいんだい?僕はこれで三回目だからね、ソフィアの行きたいところに行こう。それなりに案内できるよ。お店のリストはもらったかい?」


「はい!」


「何か気になる所はあったかな?」


「えっと、ここの小物のお店が気になります」


「この丸をつけてあるところだね。他には...ふむ、では雑貨系のお店を中心にまわってみようか。その後ちょうどいい時間になったらお昼ご飯を食べて、展示品を見に行こうか。毎年面白い魔道具が開発されているんだよ」


 私がリストに丸をつけているほとんどが雑貨系のお店だったからか気を利かせてそう提案してくれた。文句のない提案だった。


「はい!ありがとうございます!」


 元気に返事をして、私はウィリアム王子と一緒にお店を見てまわることになった。


 

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