第10話 ルームメイト、アメリアちゃん!
寮に入ると寮母さんと思われる女性に出迎えられた。名前を言うと部屋の説明と荷物の説明をしてくれた。そして迷いやすいからと案内をかって出てくれた。
寮母さんに案内されてこれからの私の部屋に辿り着いた。寮母さん曰く、もうルームメイトのアメリアさんは帰ってきていて、出てきたところを見ていないからきっと部屋にいるだろうとのこと。
魔力測定で私がガン見し過ぎたせいで目が合って、しかも変に周りに人がいたために目を逸らされてしまったという、なんとも気まずい関係になっている相手だ。
さてどうしよう、と部屋の扉の前で立ち尽くす。
とりあえず、仲良くなれるかどうかは話してみないとわからない。つまり、こんなところで突っ立ってる間は、仲良くなれるどころの話ではないのだ。
深く息を吸い、扉を開いた。
そして思い出した。ノックくらいすべきだったと。後悔してももう遅いが。
部屋の中には、魔力測定で見たあの子がベッドに座ってどこか悲しげな表情で、首から下げた青色のペンダントを見つめていた。こちらには気づいてなさそうだった。
なんだかすごく絵になる光景をまだ見ていたい気はするけれど中に入ってソフィアの手荷物以外の荷物や服なんかを確認しないといけないので、とりあえず扉を閉めた。
パタンと音が鳴る。
その瞬間目の前の女の子が驚いた表情のまま顔を上げた。そして私の顔を確認すると慌ててペンダントを服の中に戻し、立ち上がった。
「初めまして!聖女様!今日から聖女様のルームメイトになりました、アメリア・グラシアールと申します!どうぞよろしくお願いします!」
これ以上ないほどにぴんと伸ばされた背筋、少し震えている太腿に添えられた手、不安げに揺れる瞳。そして彼女の隣に出てきた情報。
名前:アメリア・グラシアール
年齢:16歳 (2年)
ソフィアのルームメイト。
好きなもの:祖母、母、かわいいもの
嫌いなもの:親戚、父親
好感度:普通
それらを見るに、多分だけど私のことを自分の知らない結構位の高い貴族だと思っていそうだ。3組だったからそもそも彼女の一族があまり高位の貴族ではないのかもしれない。無礼のないように、機嫌を損なわないようにと、必死になっているように見える。
ここで彼女に対して貴族であるように振る舞うこともできる。貴族じゃない人間に対して酷い態度をとる人もいるからその選択もありだろう。
しかし、この嘘はすぐにバレる。だってどれだけ頑張っても私は貴族としての立ち振る舞いができないからだ。ソフィアの記憶をもってしても当然の如くできないものである。
それにバレた時にルームメイトの彼女と険悪な関係になるのはいただけない。これから二年間も同じ部屋で過ごさないといけない相手なのだ。慎重に良好な関係を築かないといけない。
そんなことを考えた上でできることなら仲良く二年間を終えたいので、素直に話すことにした。
「はじめまして、ソフィア・ルミエールです。
えっと、私そんなに偉い人じゃないのでもっと気楽に接してもらえると嬉しいです!」
「え?でも魔力測定でルーカス王子殿下とお話しされてましたし、オスキュリテ様とファンミア様もルミエール様を気にかける様な目線を送ってらっしゃいましたし...。」
グレースさんとミラさんが?多分彼女の気のせいだと思うけど、もし悪い意味で見ていたわけではなくて、本当に気にかけてくれいたのなら嬉しい。
「私は平民生まれなので、本当の貴族であるグラシアールさんにそういった態度を取られるとすごく申し訳ないです...」
「え、平民生まれなんですか?」
目をまん丸にして驚いた彼女になんだか親近感が湧いた。この子も貴族だけどなんだか普通の人の感覚に近い子なのかななんて思った。
「そうですよ」
「それ言っても大丈夫ですか?私が言うのもなんですけど、貴族の中には平民を見下して関わることを毛嫌いしてる方もいますし...」
学園側が選んだ人なだけあって出身で人を差別することはないようだ。ちょっと安心した。
魔力測定で声をかけてきていたような貴族ならこれからの二年間が地獄のようなものになったかもしれない。
でも...
「はじめは黙っててもいつかわかることだし、学園の選んだ人だから大丈夫だろうなんて気楽に考えて話してしまってちょっとダメだったかなって思いました。
でも話したのがグラシアールさんで良かったなって思ってます!会ったばかりの私のこと心配してくれる人が悪い人なわけないですもん!
だから私はグラシアールさんがルームメイトでとっても嬉しいです!できたら仲良くしてほしいなって思うんですけど、ダメですか?」
我ながら気持ち悪いぶりっ子さ加減だ。ただ今の自分の顔はゲームの主人公ソフィアなのだ。可愛いのは保証されている。
(ナルシストではない。私とソフィアは別人だ。)
だから私はこう思う。
かわい子ぶってるわけじゃない可愛いんだ!
と。
ほらその証拠(?)にグラシアールさんも少し見惚れている。そんなグラシアールさんをじーっと見つめ返した。
「はっ!
ダメではないです!むしろ、その、私も仲良くなれないかなって思ってたんです!
それで、魔力測定の時にどんな人なのかなって探してたら周りにすごく高貴な人ばかりいて、びっくりして目を逸らしてしまってすみませんでした!」
「私もどんな人か気になって不躾にじーっと見つめてすみませんでした!」
二人揃って頭を下げる。しばらくそうしていた後、顔を上げると同タイミングで彼女も上げていた。
ぱっと目が合ってしまって、なんだか面白くなったので二人で笑った。貴族らしくなくて他に人がいたら軽蔑の目で見られそうだったけど、少しだけ声を出して笑ってしまった。
「私、ルミエール様と仲良くなれそうな気がします!」
いい笑顔でそう言ったアメリアに私も笑って頷いた。
「私もグラシアールさんとは仲良くなれそうな気がしてます!
それじゃあ仲良くなるためにそのルミエール“様”っていうのやめませんか?あと敬語も!」
「では私のこともアメリアって呼んで!敬語は二人の時だけしかやめられないと思うけど、そもそも多分部屋でしか話さないと思うから大丈夫かな?」
「うん、残念だけどあまり部屋以外ではアメリアと話す機会はなさそうだね。クラスも違うし。それでも部屋で過ごす時間もあるからいっぱいお話しして仲良くなっていこうね!」
「そうだね!」
そんな話をして私とアメリアは笑い合った。アメリアとは結構気が合うんじゃないかって思った。
私にとって一番の親友はみさとであるということは変わらないけど、この世界での親友に近い存在にはなりそうだなって感じた。なんの根拠もないけど。
色々と話していると楽しくて時間の経過がとても早く感じた。気がつくと夕食の時間を結構過ぎていて、私達は急いで寮内の食堂に行って二人で食べて帰ってきた。どうやら食堂は全学年男女共通らしく、全ての貴族科の生徒が集まるので結構な人がいた。
それでも、その時間にはウィリアム王子やルーカス王子、グレースさんやミラさんには合わなかった。
帰ってからアメリアにどうしていない人がいるのかときくと、一人部屋の人は自室で食べたり、一人部屋の部屋に集まって数人で食べたりすることもあるらしいと教えてくれた。特に高位の貴族ほど自室で食べる人が多いようだ。
また、決められた時間内(18時から20時)であれば好きな時に食べることができるので、さらに会える確率が減るのだとか。
だから夕食の時間は会える方が珍しく、確実に会えるのは昼食だけで婚約者のいない高貴な人に見初められるためにその時間を狙って話しかけようとしている人もいるそうだ。
帰ってきてからはお互いに明日の準備やお風呂なんかを済ませて眠ることにした。色々話したいことはあったけど、これから先は長いからいつだって話せると今日はこれで終わっておいた。
そして、ベッドに入って目を閉じる。
眠らなければいけないわけだけど、一人になれる時間はここしかないので少しだけ考え事をしようと思う。
何から考えようか。
まずはこれまでのことについて考えをまとめよう。
ここに来る前は元の世界の自分の部屋でみさとから借りた『真実の愛に魅せられて』というゲームをして、ウィリアム王子ルートを終わらせて眠った。
そして気がついたらクレアフュール学園の門の前に立っていた。ウィリアム王子に話しかけられて自分がゲームの主人公であるソフィアになっていることに気がついた。
その後の学園ではウィリアム王子以外にもルーカス王子、グレースさん、ミラさん、アメリアといろんな人に出会って、いろんなことを話した。ゲームでは見れなかったことを見て、知らなかったことを知った。
これは夢かもしれないとは 考えない訳ではなかった。ただ己の知り得ない情報が夢で出てくるはずがないからその可能性は早々に消した。
もしかしたら今ここで眠ったら元の世界に戻れるかもしれない。目が覚めたら元の世界だったとなったらどれだけ嬉しいか。
でも、現状戻れない可能性が限りなく高い。
そんな私が何を考えるべきか。
答えは一つだ。
“どうすれば元の世界に戻れるか”
である。
どうしたら戻れるのか考えて、候補をあげてみよう。これまで読んできた異世界ものの漫画や小説の知識を使ってなんとか考えてみよう。
1、ゲームの通りにストーリーを終わらせる
私が覚えているのはプレイしたウィリアム王子ルートだけだから、ストーリー通りに進めるにはウィリアム王子と結ばれなきゃいけないことになる。
2、使命を成し遂げる
私がよく読んでた異世界転移系の小説や漫画は神様とか女神様みたいな世界の創造主から使命を与えられていたり、過ごしているうちに何か己がこの世界ですべきことを見つけたりすることがあった。そして、使命を成し遂げることで元いた世界に戻ることができていた。
3、死ぬ
これは本当に最終手段だ。戻れる可能性は限りなく低いし、この世界での死が元の世界での死に繋がらないという確証もない。だからこんなことはしたくないし、考えたくもないので3はなし。
神様的な人には会ってないから、自分で使命を見つけないといけないけど、使命が見つかるかはわからないから今のところは1に向けて頑張るって感じかな。
幸いにもウィリアム王子との関係は良好だと思われる。ゲーム通りの出会いも果たしたし、昼食もご一緒した。このままいけばウィリアム王子と結ばれるルートには簡単に進められそうだ。
少しだけ気になることがあるとすれば、選択肢の中の一つを固定してしまったこと。今後どうしてもその選択肢以外の行動を取りたいと思う時に邪魔をしそうではあるが、ウィリアム王子ルートだから問題ないと言えばないのかもしれない。
となると、今のところは問題なくウィリアム王子ルートに進められるだろう。
ただ、もう今日の時点で既にゲームとは違うことが起きているので確実にゲーム通りに進めることは難しい。大体の流れやウィリアム王子関連のイベントだけはなんとかなりそうではあるけれど、その他特にクラスメイトは諦めるしかなさそう。
ゲームであまり描かれていなかった人達(例えばアシェル先生や学園長先生とか)との関わりも興味深いものがあるけれど、それよりも気になるのがゲームではいなかったはずの存在である二人だ。
アメリア・グラシアール。
仲良くなれそうだったから良かったけどゲームになかった存在がルームメイトなんて恐怖以外の何者でもなかった。
あとキースさん。
家名も年齢もあやふや。情報はバグっているのか全く読めない。一番よくわからない人物だけど、彼には嫌われてなさそうなので今のところは大丈夫そうかな。そもそも、彼と会う機会はなさそうだから気にしなくても大丈夫だろう。
今のところは考えられるのはこれくらいだろうか。それでも、今後の行動についてや出会った人についてある程度考えることができた。少しだけ寝る時間が減ったけど有意義な時間だったと思う。
考えがまとまって少し落ち着いたので、なんとなく隣のベッドを見た。
隣のベッドにはすーすーと寝息を立てるアメリアがいる。彼女の方を見るとやっぱり情報が見える。好感度が高くなっている。
男女年齢関係なく、私に対する好感度を表示してくれるのはすごく助かる。誰が味方で誰が敵かっていうのが好感度からなんとなくわかるようになっている。好感度が高いなら敵対する可能性も低いだろうから。
色々なシステムが助けてくれるだろうから頑張っていこう!
さて、明日も早いから私も寝ないといけない。アメリアの方を見るのをやめて、体の向きを上向きに戻して再び目を閉じた。
この時の私は一番重要なことを考えられていなかった。ウィリアム王子ルートに進む際に誰と敵対するかということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます