第8話 とっても便利な情報を教えてくれるシステム君
ウィリアム王子に連れられて教室から食堂までの道を案内してもらった。道中の教室なんかも軽くて説明してくれた。
そして、たどり着いた食堂は思っていたのとは全然違った。食堂っていうからよくある感じを予想していたけどなんかお高そうなレストランみたいな空間だった。そんな風景に、そういえばここ貴族科だったなと思い出した。
それでも日本人の作ったゲームだから、日本の学食と同じところもあった。それは食事を受け取りに行くところ。こんな高級レストランみたいな見た目をしているけどしっかりみんなトレーをもって順番に並んで食事を受け取って席に歩いて行っている。なんだか不思議な、どこか違和感を感じる光景だった。
ウィリアム王子がいつもの事だと言わんばかりにその列に並びに行く。私もウィリアム王子のあとを追って並んだ。いかにもシェフみたいな人から料理を受け取ってまたウィリアム王子のあとを追う。
ウィリアム王子は一つの席に近寄って行った。そのテーブルには三人の男子生徒がいた。クラスメイトが二人と全く知らない人が一人だった。
「あれ?ソフィアちゃんとウィル兄さんが一緒にいるじゃん!ソフィアちゃんが誰かを待ってるみたいだったから声をかけなかったんだけど、そっかウィル兄さんを待ってたんだねー!」
にっこり笑いながら私に向かって手を振ってくれる。その様子を周囲の人たちは驚いた顔で見ていた。
「はい!今朝お会いした時に編入してきたばかりで不安だろうと誘っていただいたんです!」
「知ってる人も知らない人もいると思うが、しっかり僕の方から紹介するからとりあえず座ろうか。」
「はい!」
「じゃあ、ソフィアちゃんここにどうぞ」
「ありがとうございます!」
ルーカス王子が自分の隣の椅子をひいてくれた。ルーカス王子にお礼をいって椅子に座る。
ルーカス王子の隣に私、その正面にさっき気まずくなったレオナードくんと全く知らない青い髪にメガネをかけた男子生徒が座っている。そして、お誕生日席にウィリアム王子が座った。
「それじゃあ、ソフィア紹介するよ。君の目の前に座ってるのがマーカス・エルデ。エルデ伯爵家の次期当主とされているよ。
そしてその隣が同じクラスだから知ってるかもしれないけど、レオナード・イーリオス。イーリオス伯爵家の次期当主とされてるよ。
そして、最後に仲良さそうだったから知ってると思うけど一応、君の隣に座ってるのが僕の弟でこの国の第二王子のルーカス・セレスティナだよ。
で、こちらが今代の聖女であるソフィア・ルミエール嬢だよ。ぜひ仲良くしてあげてね」
名前:マーカス・エルデ
年齢:17歳 (3年)
エルデ伯爵家次期当主。ウィリアムの側近。
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明
好感度:低
なるほど、この人も攻略対象なのかな?それにしてもこの人だけ好感度が低いなぁ。良くない噂を聞いたとかかな?
「皆様よろしくお願いします!」
そんな感じで自己紹介したあとゆっくり話しながらご飯を食べた。レストランに出てくるような洋食ですごく美味しかった。
ウィリアム王子やルーカス王子が話題を作って率先して話してくれるおかげでさっき気まずくなった相手もいたけどなんとかそれなりに楽しく昼食の時間を過ごせたと思う。
食べ終わってウィリアム王子以外の人が用事があるとかで去って行った上に食堂からほとんど人がいなくなってしまったから、また私はウィリアム王子と二人きりになってしまった。変な噂が流れてしまわないといいけど、なんて考えていると
「まだ時間は大丈夫かい?」
と声がかけられた。時計を探して時間を確認すると13時だった。お客さんが来る時間までまだ一時間ある。
「はい、大丈夫ですよ」
「そうか、ならもう少し話そう。みんながいる時はあまり君について聞けなかったからね。もう少し君の話を聞きたいなと思ったんだ。だめかな?」
【ウィリアムと話しますか?
①はい ②いいえ】
ウィリアム王子関連は本当に選択肢が多い。なんてことない普通の日常会話なら選択肢がないんだけど、こんな感じで意見を問われると選択肢が待ってました!と言わんばかりにどんどん出てくる。
今のところ①ばかり選択していて本当にただのイエスマンになってる気がしなくはないが、拒否るす理由がないから仕方ない。
「いえ、全然大丈夫です!むしろウィリアム王子ともっとお話しできるなんて嬉しいです!何から話しますか?」
「それじゃあとりあえず、今日あったこととか聞いてみようかな。クラスではどうだったかな?クラスメイトとは仲良くなれそうかい?あと魔力測定と実力測定についても気になるね。ふふ、気になる事がいっぱいだ。君がよければこのあたりについて話してくれると嬉しいな」
【ウィリアムに何について詳しく話しますか?
①彼らの婚約者について
②魔力測定、実力測定について
③クラスメイトについて
④その他 】
四択だと?!
いけない、今までなかったことに驚いてしまった。何から話せばいいだろうか。ウィリアム王子は何を聞きたいんだろうか。とりあえず、その他になってる④はなしでいいかな。聞かれてないし、何話していいかわからないし。
となると、残りは三つ。この中でどれが一番色々話せるかというと魔力測定と実力測定の②になる。あとは話しかけてくれたグレースさんやミラさんのことならいくつか話せることがあるかましれない。
それ以外のクラスメイトには様子をうかがわれていただけでお話ししてないし、仲良くなれそうかと言われると微妙なところだと思う。
それに今のところルーカス王子とはそれなりに仲良くなれてるし、このまま誤解されなければグレースさんとミラさんとも仲良くなれるのではないだろうかと内心わくわくしてたりする。
よし、じゃあとりあえず②の魔力測定と実力測定について詳しく話そう。で、①についてはちょっとだけ話すことにしよう。
「クラスメイトの皆さんとはあまりまだお話しできてないんです。多分、私が聖女だけど平民出身だからどうしたらいいかわからないんだと思うんです。時間をかけてゆっくり仲良くしていけたらいいなって思いました!」
「うんうん、仲良くなれるといいね」
「あ、でも!ルーカス王子、グレースさんやミラさんは話しかけてくださったんです!」
「意外だね、グレースはあまり自分から声をかけることはないのだけれど」
「そうなんですか?私はまだ会ったばかりなのでわからないです...」
「あぁ!気にしないで、グレースの意外な一面を知れて驚いているだけさ。それで、三人とは仲良くなれそうかい?」
「はい!」
「それはよかった。」
「魔力測定では....」
そこから私は魔力測定と実力測定であった事についてウィリアム王子に語った。細かに相槌をうってくれ、時折言葉を返してくれた。私の話に時には笑って、時には驚いてとても楽しそうに話を聞く姿にここに来てよかったと思う。
誰もいなくなってしまった食堂で、他の人に邪魔されることのない二人きりでの会話はすごく穏やかな時間だった。そんなひと時は学園長先生との約束の時間が近づくまで続いた。
「......そんな感じで、私この後学園長先生と実力測定なんです」
「そんなことがあったんだね。一人で学園長とそのお客様と対面するなんて不安だろう。僕もついてあげられればいいけれどそうもいかないだろうから、せめて学園長室までは案内させて欲しい。」
学園長室までの道が全くわからないからその申し出はすごく助かる。ただこんなにも王子に気をつかってもらっていいのだろうか?ルーカス王子もだけど平民出身のソフィアに対して優しすぎる気がする。もっとこう、他の人みたいに遠巻きに見るだけみたいな感じでもおかしくないのに。
【ウィリアムが案内してくれるようです。お願いしますか?
①はい ②いいえ】
選択肢システムから早く選びなさいと催促される。全力ではいでお願いします!迷って時間に間に合わない自信しかないので!
「では、お願いしてもいいですか?」
そう返すと嬉しそうにウィリアム王子は笑った。何がそんなに嬉しいのだろうか?人から頼られてるから?でも、王子だし誰かに頼られるなんて多いだろうにほんとに不思議な人だ。
「勿論だよ。僕に任せて欲しい。それじゃあ行こうか。また道中の教室も軽く説明するから気になったところがあればまた教えて」
「はい!」
私の返事を聞いて満足そうに頷いたウィリアム王子が私の方へ手を差し出してくれた。これはもしかしてまたくるのか?
【ウィリアムの手を取りますか?
①はい ②いいえ】
くどい!もう今日だけで何度目?そんなに何度もきかなくていいのに。あって助かる選択肢もあるけど、こんな感じでいらない選択肢も多い。実は二人きりの会話の中でもたまに選択肢が出てきていた。そんなに重要ではなかったけど。
今後、ウィリアム王子から手を出されたらその手を取るので確定されてもいいので、もう聞かないで欲しい。
【ではこの件に関しては今後問うことはありません。本当によろしいですね?】
え?
【①はい ②いいえ】
あ、はい。
【では今後“ウィリアムの手を取る”で確定させていただきます】
は?
え、なにこれ、このシステム融通がきくタイプのやつだったの?そんなの知らない。というか勢いで決めちゃったけど大丈夫かな?まぁ、どうせストーリー終わらせれば帰れると思うし大丈夫か。
①を選んだことになったので、私はまたウィリアム王子に微笑みながら、彼の手を取った。
そして、彼に案内してもらいながら学園長室まで向かった。学園長室につくとウィリアム王子はさっと手を離して申し訳なさそうに笑った。
「僕はここまでだ。」
これ以上何もしてあげられなくてごめんね、と顔に書いてある。流石に部屋の前では言えなかったのか、それ以上を口に出すことはなかった。
「いえ!親切にここまで案内していただいてありがとうございます!ウィリアム王子殿下」
学園長室の前なのでいつもより畏まってお礼を言うと、ウィリアム王子は少し残念そうな顔をしたあと、
「それじゃあ、またね」
と言って去って行った。彼の後ろ姿を見送ったあと、少し息を吐いて気持ちを整えて私は目の前の大きく見える扉をたたいた。
「ソフィア・セレスティナです。実力測定のためにお伺いしました!」
「お入り」
学園長室の中から優しい声が聞こえた。少し重い扉をゆっくり押して開ける。奥の机に先程はかけていなかった眼鏡をかけて、資料に目を通している学園長先生がいた。
「無事来ることができたようでよかったわ。親切な人が送ってくれたようね」
「はい!」
返事をしながら少し部屋の中の様子をうかがう。少し広めの部屋の壁には沢山の本棚がありその中にいろんな種類の本が所狭しと並んでいる。
見慣れない道具やトロフィーのようなものも並んでいるけど、私の心を一番引き付けたのは部屋の隅に堂々と飾られている杖だった。
何か大きな木から枝をもらってそのままの形をいかして作りましたと言わんばかりのRPGとかで白魔法使いが使ってそうな杖。
ここの人達はみんな杖なんて使わずに魔法を使っていた。なのにどうしてこんな杖がここにあるのだろうか。
そしてどうして私はこの杖に心惹かれるのだろうか。不思議な力を感じる杖をじっと眺めていると学園長先生は笑った。
「貴女もこの杖が気になるの?」
「あ、はい。」
「この杖はね、何の変哲もない杖なのよ。私がまだ学園の生徒だった頃に、留学にきていたエルフの男の子にもらったの。
“きっとこの杖は貴女を守ってくれます”って言われてね。でも、別にそんなことなかったわ。そもそも、危険な目にあうこともなかったのだけれど」
「そうだったんですね」
学園長先生はこれをただの杖だと言った。私にはただのなんてことない杖になんて見えはしないけど。
まぁ、そんなことは一旦置いておくとしてそれよりもこの世界エルフがいるの?ゲーム内にはそんな表記なかった気がする。ここは学校、図書館くらいあるはずだ、後で調べてみないと。
「それにしてもこの杖が気になるなんてねぇ。普通の子供達ならこの部屋に来ると、珍しい本に興味を示したりトロフィーを見つめたり私の机の資料が気になったりで杖に目を向けることなんてないのよ?
部屋に入るなり飾ってあるこの杖を気にしたのは私の友人だった先代の聖女様だけだったわ。
あの子だけ何故かこの杖を気にしてて、時折遊びに来ては確認してたわ。あの子にこの杖を手放さずに大事にしなさいって言われてなければ私はきっと家に放置してた気がするわ。
あぁ、ごめんなさいね。貴女にはあまり面白くない話だったわよね。」
「いえ、そんなことないです...。」
「あら、優しいのね。まだお客様は来ないと思うからゆっくりしていて。私はまだ書類が残っているから仕事しているけど気にしないでね。
あぁ、そこの本棚の本なら好きに読んでもいいわ」
そう言って私の後ろの本棚を指差した。お礼を言って本棚を物色する。難しそうな内容の本から子供の好きそうな童話などいろんな種類の本があった。その中から適当に“セレスティナ王国誕生秘話”という絵本のようなものを選んで元いたソファーに座った。
仕事を続ける学園長先生を横目に見ながら私はその絵本を読んだ。
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