第6話 どうやら私やらかしてたようです

「皆さん、こちらにご注目ください。ただいま全員分の魔力測定が無事終了致しましたので、これから実力測定を行います。


魔力測定の時と同じで名前を呼びますので呼ばれた人は前へ出てきて課題の魔法を的に向かって唱えてください。


皆さんの実力を加味して、壊れない強度の物を用意してあります。勿論、皆さんの実力をしっかり把握したいので壊すくらいの勢いで魔法を使っていただいて問題ありません。


それでは属性ごとに課題を言います。


火属性 イグニスファエラ

水属性 アクアスファエラ

風属性 ウェントゥスファエラ

土属性 テッラスファエラ


と、なっております。」


 アシェル先生がそう言った時、周りからざわめきが起こった。色んな人が何かを呟いたようであまりよく聞き取れなかったが、なんとなく“どうしてその魔法なの?”みたいな反応を示しているのだろうというのだけはわかった。


 なんでだろう。


 ソフィアの記憶を思い出しても聞いたことない単語しかなくてどうしてみんながそんな反応するのかがわからない。


 きょろきょろ辺りを見回していると、前にいるアシェル先生が手を挙げて静かにするように促した。


「皆さんがそう言う反応になるのもわかります。なぜ、去年と同じスファエラ系統なのかと思っているのでしょう。


えぇ、皆さんの疑問もごもっともです。私たちは一年間ここで精一杯学んできた、もっと他の魔法も使えると。


勿論、一年間あなた方に授業をしてきた私たちもそれはしっかりと理解しております。しかし、皆さん得意不得意があります。魔法を使うことが得意な人もいれば、理論の方が得意な人もいます。課題が難しすぎると不平等ですから、どんな人達も平等にできることをやっていただきます。


ただ、この方法を取るとわかりやすく差が見えてしまいます。素人目で見ても誰が優秀で誰が劣っているなんてことが簡単にわかってしまうことでしょう。


しかし、この中に己より下の者を見つけて満足するものなどいないと私は思っております。自分の実力を知り、周りの実力を認め、共に更なる高みを目指して研鑽しあえると思いますのでこういった形を取らせていただいています。


なにより、私たちもその方がわかりやすいですし、部屋を分けて一人ずつなどとすると時間がかかりすぎてしまいますから。」


 つまり、スファエラ系統と呼ばれる魔法の種類があってそれは魔法全体的に見て簡単な方に分類される、ということで間違いないのかな?


 周りの人達(基本的に一組以外)の反応はもっとできるのにとかもっとすごいのを見てほしいとかそう言う感じだったのかな。もしくは自分を担当してくれてる先生にそのレベルだと思われたのが心外だったとかだろうね。自分の限界を勝手に決められるのは確かに嫌かも。


 スファエラ系統っていうのは、さっきあげられてた四大属性以外の属性にも存在するのかな?


 私が何をすればいいのかが気になって仕方ない。できることなら、ソフィアの記憶の中にある神殿で習った魔法であってほしい。


「では説明の続きをしましょう。

火、水、風、土の順に測定した後にそれ以外の属性の方を測定いたします。


今年は炎属性のミラ・ファンミア嬢、

闇属性のグレース・オスキュリテ嬢、

光属性のソフィア・ルミエール嬢の3名ですね。


長らくお待たせしてしまうことになりますが、どうかご了承くださいませ。3名の課題についてはその時にまた説明しますね。


それでは、説明も終わりましたので火属性から順に始めていきましょう。


まずはレオナード・イーリオス様からどうぞこちらへ。」


 名前を呼ばれた赤毛の短髪に赤い瞳を持った活発そうな男子生徒が大きな声で返事をして前へ出た。


名前:レオナード・イーリオス

年齢:16歳  (2年)

 現在軍務卿イーリオス伯爵家の長男。

好きなものは運動、肉類

嫌いなものは甘いもの、酸っぱいもの

好感度:普通


 これが出てくるってことはこの人も重要人物なんだろう。歩いていく後ろ姿だけで顔が見えなかったから確信は持てないけど、あの髪色と髪型、もしかしたらあの時みさとに見せてもらったパンフレットに描かれていた攻略対象のうちの一人かもしれない。


 彼はアシェル先生がお話をしていた後ろで、他の二人の先生がしっかりと準備しておいてくれた的に向かってしっかりとした足取りで歩いて行った。その後ろ姿は自信に満ち溢れていた。


「では、お好きなタイミングでどうぞ」


「はい!アシェル先生!」


 元気よく返事して、大きく息を吸った。静かな空間にその音だけが響く。目の前の彼の緊張がこちらにも伝わってくるようだ。


「...いきます!」


 気を引き締めて、覚悟を決めた彼がまた声を上げた。元気な脳筋タイプといった感じの人なんだろうか?


 ウィリアム王子ルートで確か彼の側近としてよくそばにいた気がするけど、あまり関わりという関わりはなかったからよくわからないな。そもそも同じクラスだったことさえも忘れていた。


「イグニスファエラ!」


 手のひらを的に向けて突き出しながら、彼はそう唱えた。その瞬間、彼の手から発生した火が球体状に形を変えた。そしてそのまま的に向けて放たれた。


 着弾と同時に大きな音と的の周りに煙が上がった。少しして煙が晴れると何事もなかったかのように立つ的があった。遠くからなのでよくは見えないが、まったく壊れていなさそうに見える。


「くっ!壊せなかったか!!」


 残念そうにレオナードくんは拳を握っている。その様子から彼が本当に壊すつもりで全力で魔法を放っていたことがうかがえる。結構火の玉の大きさは大きかったと思う。比較対象がないからなんとも言えないけど。


 そんなこと考えながらレオナードくんが立ち去って、次の人を呼ぶアシェル先生の声を聞いていると後ろから肩を叩かれた。


 さっきご令嬢たちに囲まれて解放されたのにまた面倒ごとに巻き込まれるのか、嫌だなと思いながら振り返るとルーカス王子がいた。


 この人、私ばっかり構ってるけど暇なんだろうか。もしかして、友達がいないとか?さっき側近もいないって言ってたし...。いや、これ以上はルーカス王子に失礼だから考えるのをやめておこう。


「あ、ルーカス王子。どうかしましたか?」


「ソフィアちゃん、さっきの魔力測定すごかったねー!あんなの今まで見たことないよ。先生達もびっくりしてたし、先生達も見たことなかったんじゃないかな?さっすが、聖女様だね!」


 さっきの魔力測定、私自身何が起こったのかまったくわからないんだけど?!流石聖女様だねって、その聖女様すごく困惑してるんですが?


「えっと、私ちゃんとできるか不安で魔水晶しか見えてなくて...何が起こったのかまったくわかってないんです...さっき何があったんですか?」


「え?あんなに目立つようなことになってたのに?」


「目立つようなことになってたんですか?!」


 ルーカス王子の一言はとても驚くものだっだ。あんなに目立ってたのにだって?困る。こちらはまったく目立ちたくないのに。


「そうだよ。ほんとに何も見てないの?」


「はい、私が顔を上げた時にはもうほとんど何も残ってなくて...唯一残ってたのはきらきらした光の粒だけだったので。皆さんにはなにが見えていたのか教えてもらえますか?」


 知らない、見てないと言い切った私にルーカス王子の顔がなんとも言えない変な顔になってしまった。そんな顔でも相変わらず少しだけ様になってるのがちょっと面白い。そんな私の胸の内を知ることなく、ルーカス王子が少し悩んだ後話し始めてくれた。


「いいよ。俺の順番まで少しだけ時間あるし、呼ばれるまででよければだけど、それでいい?」


「はい!ありがとうございます!」


「...すぐにお礼を言えるのはソフィアちゃんのいいところだと思うな、俺は。


さっきの事だったね。さっきソフィアちゃんは魔水晶しか見てなかったって言ってたけど、魔水晶が金色に変わった時にね、ソフィアちゃんから金色の光が出てたんだ。ソフィアちゃんが見たっていう光の粒がその残りみたいな感じだと思うよ。


それで、その光がソフィアちゃんを中心に波紋のように広がっていったんだよ。すごく広い範囲まで広がったように見えたよ。もしかしたらだけど訓練場を越えて学園全体まで広がったかもしれないね。


ソフィアちゃんがそれを無自覚でやってしまえるぐらいの魔力量の多さだってことだよ。


それだけじゃないんだ。これは先生たちも気づいてるかはわからないけど、少しこっち来て」


 そう言ってルーカス王子は私を他の生徒から少し離した。


「ここなら聞こえないかな。これを見てくれる?」


 そう小さな声で言って左腕の服を捲ってみせた。


 なんか勝手にルーカス王子にはそんなに筋肉なんてないと思ってたけど、しっかりと鍛え上げられた腕が見えた。でも、それだけだった。特になんの変わりもない。


「特に何もなさそうですけど」


「そう、何もないんだよ。」


「??」


 何が言いたいのかわからなくて首を傾げる。何もないのがおかしいのだろうか。


「実はね、これは一部の人間しか知らないんだけど、少し前色々あってここに怪我をしたんだ。」


 そう言って何もない場所をもう片方の手で指した。


「当時、先代の聖女様が亡くなってすぐで治療できる人が水属性で治癒を専門にしてる人しかいなかったんだ。それでその人に治療してもらって治ったんだけど、傷痕が残ってしまった。そして時折痛みがはしる時があったんだ。」


「え、でも傷跡もありませんけど」


「今朝までは確実にあったんだ。ただソフィアちゃんの魔力測定の後痛みがなくなって違和感を感じて少し確認したら傷痕がなくなってたんだ。


そう、傷痕がなくなったんだよ。こんな事できるのは聖女様しかいないんだよ。いくら水属性の治癒を極めても古傷をなくすことはできないんだ。


そして、先生も言っていたけど、魔水晶から溢れ出てるのは魔力が魔水晶の効果で実体化してるだけのものなんだ。攻撃性がないだけじゃなく、治療とかの効果もないんだよ。


聖女だからといってできる芸当じゃないんだ。なんでソフィアちゃんができたのかは俺にはわからないけど、それはとってもすごいことなんだよ!」


 そう言ってルーカス王子はウィンクしてみせた。驚いた顔をしているのであろう私の顔を見てなんだか満足そうなルーカス王子。


「すごいこと...」


「そう。ただこれに気付いてる人はきっと少ないから広まるまでは自分から言いふらすとか、信用してない他人に相談するとかはやめておいたほうがいいね。何を思われるかはわからないから」


「わかりました!」


「素直なのはいいことだね。じゃあ、もう少しで火属性の子達が終わるから俺は前の方で順番がくるのを待ってるよ。ソフィアちゃんの実力測定楽しみにしてるね」


「教えてくれてありがとうございました!ルーカス王子も実力測定頑張ってくださいね!」


「それなりに、こなしてくるよ」


 そう言い残してルーカス王子は生徒の中へ戻って行った。ちょっと経って火属性の最後の子が終わった。水属性の一番初めとしてルーカス王子の名前が呼ばれる。


 呼ばれたルーカス王子が的の正面まで歩いていく。正面に立ったルーカス王子は腕を的に向けて上げた。そして静かに目を閉じた。少しの間そのままでいた後、すっと目を開けて


「アクアスファエラ」


 と唱えた。レオナードくんや他の人の時は火が出てから球体に形を変えてそれから的に向かって飛んでいっていたけど、ルーカス王子は違った。出てきた時にはもう球体状をしていてすぐにでも放てる状態だった。ここでも練度の差があるのかな。


 そんなこと考えてると、ルーカス王子の生成した水の玉が的に向かって放たれていた。今までの誰よりも大きな音が鳴った。


 煙が晴れたあと、出てきた的には傷がついていた。周りからどよめきがおきる。これまで何人も挑戦したけど誰一人として傷をつけられなかった的にひびを入れることができたのだから当然のことだ。


 きらきらした瞳で彼を見る者、うっとりとした目で彼を見つめる者、王子たる者当然でしょうと何事もなかったかのようにいる者と反応は人それぞれだった。


 すごいことなのに純粋に褒められないなんてちょっと悲しいななんて思いながら、周りの反応を観察していると、遠くの方でルーカス王子を険しい表情で睨みつけている人がいた。


 ルーカス王子を睨みつけていたのは、レオナードくんだった。なんで?と思いながら驚いた顔で彼を見ていると目が合ってしまった。彼も驚いた顔になって目を逸らしてしまった。そして何事もなかったかのように、次の人の実力測定を眺めていた。


 なんだったんだろうと疑問には思ったけど、ゲームでもあまり出てこなかったし、特に話したこともない人だから、彼のこれまでのこととか性格とかがまったくわからない。話しかけに行くのも目が合ってしまったから気まずくて難しそうだ。


 目が合って、目を逸らすということは多少なりと彼はよくないことをしたと思っているわけで、そんなところを見られた相手とこれから親しくなれるかというと多分微妙なところではあるだろうな。


 なんて、これからの人付き合いについて私がぼーっも考えているうちにどんどん進んでいって、ついに残すは私たち三人になっていた。

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