第5話 いざ!魔力測定

 アシェル先生に案内してもらって訓練場につくと他のクラスの生徒が優雅に談笑しながら待っていた。私達のクラスが到着するとすぐに話をやめてこちらに向いた。


 談笑していた生徒たちの後ろ、訓練場の中心辺りにいた大人二人もこちらに気がついて近寄ってきた。他のクラスの先生だろうか?アシェル先生も少しだけ彼らの方に歩み寄った。


「クレイ先生、フェルド先生お待たせ致しました。」


 アシェル先生がそう呼びかけたことであの二人が先生であることがわかった。しかし、何故か今まで表示されていた情報が先生二人には表示されない。主要人物じゃないと言うことなのか?


 今まで表示されてた人は、ウィリアム王子とルーカス王子、グレースさんとミラさん、あとアシェル先生の五人。先生には好感度なんてなかったけど他の四人にはあった。何か違いがあるのだろうか?


「いえいえ、お気になさらないでください。私たちも今来たところですから。ね、クレイ先生」


「はい!そうです!私たちも今揃ったところです!」


 なるほど、なんとなくだけどどっちがクレイ先生でフェルド先生なのか今のでわかった。


 背が高く髪を後ろで団子にまとめた厳格そうな女の先生がフェルド先生で、少し背が低くてなんだかすごく元気な男の先生がクレイ先生だった。勝手な印象だけど、相性の悪そうな二人だななんて思ってしまった。


 それにしても、みんな知ってるだろうからわかってよかった。そう何度も質問するのも面倒だし、こいつほんとに何も知らないなんて思われると大変なことになりそうだからね。


「そうでしたか。それは良かった。では三クラスとも集まったとのことなので早速始めましょうか。」


 そう言ったアシェル先生は訓練上の中心にある黒い球体の近くに立った。あれが魔水晶なのだろうか。水晶と言うからなんか透明な球かと思っていたのだが、真っ黒だった。


「では皆さん、こちらにご注目ください。去年とほぼ同じなので特に必要もないと思いますが、一応軽く説明だけしておきますね。


まずは魔力測定から行います。名前を呼ばれた人から順番に前に出てください。魔水晶に手をかざしていただきます。結果はこちらで記録し、必要であればお渡しいたしますので後ほど我々にお伝えください。実力測定はその後行い、詳しい説明などもその際にします。


では名前を呼ばれた人から前にどうぞ。

ルーカス・セレスティナ王子殿下」


「はーい」


 少し気の抜けた声でルーカス王子が返事して前に出た。ルーカス王子は女生徒の多く立っている方に向いてひらひらっと手を振った。その瞬間黄色い声が上がった。やっぱり攻略対象だけあって人気なんだなと他人事のように思った。


 ルーカス王子が魔水晶に手をかざした瞬間、黒かった魔水晶が鮮やかな水色に変わり、その中に留まりきらなかった水が溢れ出てきていくつもの雫が太陽の光を反射して宝石のようにきらめきながら魔水晶のまわりを舞った。その光景に一切の濁りなどなかった。


 先程まで黄色い声をあげていたご令嬢たちも静かになってこの光景を眺めている。彼女たちは去年も見たはずなのに、それでもなお魅了される光景なのだろう。一枚の絵のような洗礼された美しさは見るものを惹きつけるというのは本当だったんだと感じた。


「変わりなく水属性、魔力量、質共に上級クラスですね。では次、グレース・オスキュリテ嬢どうぞ。」


 なんとなく察してきた気がする。これもしかして身分の順だろうか。なら次はグレースさんの隣にずっといるミラさんかな?あまりわからないけどミラさんも充分身分が高そうだな。なんてこと考えながら、グレースさんの魔力測定を見る。


 グレースさんが魔水晶に触れた時はルーカス王子と違って全くもって変化がなかった。やっぱり王族が一番すごいのかなと思ってしまった。


 しかし、それは勘違いだった。彼女と魔水晶を中心に足元に魔法陣のようなものが現れて黒のような紫のような色の炎が彼女と魔水晶の周りを優雅に舞った。それも彼女の体くらいの大きさの炎が。


 “稀だけど魔水晶の大きさを超える時もあるよ”と言ったルーカス王子の言葉を思い出した。ルーカス王子、これは大きさを超えるとかいうレベルのものでしょうか?!彼女の体くらいの大きさの闇の炎みたいなの出てますよ?!


 そんな意味を込めて女生徒に囲まれていたルーカス王子を盗み見る。ぱっと目があったルーカス王子はすっと私から目を逸らし遠くの空を見つめた。どうやら王族であるルーカス王子から見てもグレースさんは規格外らしい。


「...闇属性、最上級クラスですね。流石グレース様」


 いつの間にか近くにいたミラさんが頬に手を当てうっとりとした様子で呟いた。前でアシェル先生が同じ結果を告げている。


「次、ミラ・ファンミア嬢どうぞ」


 グレースさんと入れ替わりでミラさんが前に出た。やっぱり身分の順なんだな。じゃあ私は一番最後、目立ちたくないけれど頑張るしかない。ゲームのソフィアもきっと頑張ったのだから。


 ミラさんも手をかざした瞬間、彼女の瞳と同じくらい否、それ以上に深く赤い炎が魔水晶から舞い上がった。これは火じゃない。火なんて可愛いものではない。触れるものを焦がすどころか塵一つ残さず焼き尽くす勢いの炎だった。


「彼女は生まれもっての炎使いなんだ。」


 いつの間にかご令嬢たちを振り切ったのかルーカス王子が私の隣に立っていた。


「ご令嬢たちはいいんですか?」


「ん?あぁ、大丈夫だよ。次は彼女たちの番だからね。頑張っておいでって言っておいたから」


「そうなんですね!」


 睨まれている気がしなくもないけど、まぁ特に気にしなくても大丈夫かな。でも生まれもっての炎使いってなんだろう。火属性がいるのだからその上位はいて当然なのでは?ファンタジーの世界なんだから。


「生まれもってのというのはなんですか?」


「うーん、どこから説明したらわかりやすいかな?


そもそもの魔法の属性として火、水、風、土っていう四大属性と特異的な闇と光があるのは知っていると思うけど、そのさらに上位の魔法属性として炎、氷、雷属性っていうのがあるんだよ。


そして、そういう上位のものは魔導士の中でも覚醒しないと使えないとされている。


ただ例外というものもあってね、一族によっては上位魔法を覚醒なしで使える人が必ず一人は生まれる所があるんだ。女神に愛された一族と呼ばれてるよ。


それが、彼女のファンミア侯爵家、あと、ジーヴィルド公爵家とかだったかな。


そして、そういった一族は他のどの一族よりも魔法に優れるんだよ。他の貴族や平民出身の学者が覚醒してたどり着く境地に元々いて、しかもそこから更に覚醒することが可能なんだ。昔は生まれもっての炎や氷使いは覚醒しないと思われていたんだけど、100年くらい前にいたある研究者が覚醒は魔法が使える者なら誰にでも起こり得る現象だと証明したんだ。


そして、それ以降必ず覚醒した炎使いを輩出できているのがファンミア侯爵家なんだ。だからこそ、王家に重宝されるし、こうして王子の婚約者にも選ばれやすいってわけ」


「ミラさんの一族ってとってもすごいんですね!」


「一族がすごいのは勿論なんだけど、それ以上に彼女も努力家だからね。そうでもないと王子の婚約者なんて務まらないからさ」


「...グレースさんもミラさんもすごいです」


 ルーカス王子が説明してくれている間にもどんどん順番がまわっていく。身分の高い人しかいないと言われていた1組はとっくに終わっていて今は2組の終わりくらいだった。


「私も覚醒できるでしょうか?」


 ゲームの中でソフィアが覚醒するところは描かれていなかった。ウィリアム王子ストーリーでは覚醒しないだけなのかもしれないけれど、そもそも私はソフィアではない。体はソフィアのものだけど魂の部分が違う。そんな私に覚醒はできるのだろうか。


「人によって覚醒する条件は違うからね。誰かに聞いたところで参考程度にもならない可能性が高いし、己より優秀な人間なんていらないとか考える人間もいるからそもそも教えてもらえないかもしれない。


絶対に大丈夫だよなんて無責任な事は言えないけど、俺は君なら大丈夫だと思うな」


 なんて根拠のない自信なんだろう。それでもなんだか安心することができた。


「それに「次、アメリア・グラシアール嬢」...」


「何か言いましたか?」


「なんでもないよ」


 アメリア・グラシアール...この子が私のルームメイト。ルーカス王子には悪いけど私はゲームに出ていなかった彼女の存在が気になっている。


 黒に近いグレーの髪をかた三つ編みにしていて、少し薄い青色の瞳を持っている。大人しそうな女の子だった。彼女との場所が遠いせいなのか、それとも彼女も重要人物ではないのか彼女の情報リストも見えなかった。


 測定結果の方は、魔水晶の中に魔水晶と比べて半分くらいの大きさの水の玉ができたと言う感じだった。ルーカス王子と比べれば見劣りする、でも他の令嬢よりは良い成績と取れそうである。


「水属性、中級クラスですね。」


 アシェル先生の評価が聞こえた。失礼かもしれないけど、なんてことない平凡な女の子と言った感想を抱いた。元の世界の私のような女の子。勿論、本人に言うことはないが。


 私がじっと彼女を見つめていたからか彼女と目が合った。隣にいるルーカス王子や私の後ろの奥にいる1組のクラスメイトに驚いてさっと目を逸らしてしまった。なんか、申し訳ない気持ちになった。


「彼女が気になるのかしら?」


 考え事をしすぎていたせいか、何処からか来た知らない女生徒に囲まれている。ルーカス王子は?と思い周りを見るとまた別の女生徒に囲まれていた。大変そうだななんて考えながら彼女達の問いに答える。


「えっと、アシェル先生にルームメイトだと言われていたので...」


「まぁ!聖女様は一人部屋をいただいてないのかしら?」


「なんてお可哀想な聖女様!よろしければ私達が先生に口添え致しますわよ?平民の貴女にはないツテがありましてよ」


 グレースさんにもミラさんにも敵いそうにない、それどころかアメリアさんにさえ敵わなさそうな見た目をしていて、なんだか可哀想だけどモブって感じの子たちだなーなんて思ってしまった。だってこの子達も情報リストが出てこないのだ。モブで間違いないだろう。


 こういう事を言ってくるような子がルームメイトじゃなくてよかったとしみじみ思う。学園側がしっかりと配慮してくれた結果なんだろう。


「何か答えたらどうなの?貴女のような平民に高貴なる私達が折角話しかけて差し上げているというのに!」


「そうですわ!!」


「えーっと、私、ルームメイトがいることには特に困っていませんので大丈夫です。どなたか存じませんがお気遣いありがとうございます。」


 この人達は知らないな、ゲームにも出てなかったしなんて思いながら話していたら言わなくてもいいことまでするっと口をついて出ていた。


 さっき、ミラさんに対して余計なことを聞いてしまった時はやってしまった!と少し後悔したしおしゃべりな口めと少し恨んだけど今回だけは後悔しなさそうではある。


「なっ!貴女!私のことを知らないと言うの?!これだから学のない平民出身の者は困るわ!」


 どちらこと言えば貴女は品がないようですね、なんてのは流石のこのお口も言えはしないのだけど。教室でグレースさんやミラさんと会話した後だからなんだか拍子抜けしてしまう。あの二人の様な貴族の方が稀なのかな?


「私は「最後、ソフィア・ルミエール嬢どうぞ」...」


「先生に呼ばれたので失礼します」


 私はそう言い残してその場を去った。なんだか後ろがうるさかった気がするけど気にしないことにした。


「私を敵に回したこと後悔するといいわ」


 なんてことを言ってるなんてその時の私は夢にも思っていなかった。


 




 魔水晶まで近寄った私にアシェル先生が声をかけてくれた。


「ルミエール嬢は魔水晶は初めてですか?」


「祝福の儀式で使ったのが魔水晶?でなければ初めてだと思います。」


「では初めてですね。前の人が使っていたのを見ていたので大丈夫だとは思いますが、軽く説明だけしますね。」


「ありがとうございます」


「魔力測定は手をかざすだけで終わります。落ち着いて、ゆっくりと魔水晶に手をかざし、私が許可を出すまでそのままでいてください。火や水が出ている人が問題なかった様に、魔水晶から出るものに攻撃性はありません。魔力が少し実体として見えるようになっているだけなので心配はいりませんよ。安心してそのままでいてください。


こんな感じで大丈夫でしょう。では、ルミエール嬢どうぞ。」


 魔水晶の上にそっと手を出した。触れていないのになんだか手のひらが暖かい。これが魔力なんだろうか?元の世界にはないものだから確証は持てないけど。


 どうしよう、特に何も起こらないんだけど?!やっぱり私のような異物が入ってしまったからダメだったのか?!ゲームだと確か...目も開けてられないくらい眩しい光がぴかーってなって悪役令嬢をも超えるほどの逸材だなんて!ってなってた気がするのに!!


 ゲームと違うイベントに焦りながら、“とりあえず金色には変わってやったぞ?満足か?”と言わんばかりの魔水晶を見つめていると何故か周りが静かなことに気がついた。なんだろうと思いながら顔を上げて前を見るとみんなが驚いた顔でこちらを見ていた。


 それだけじゃない。なんだかこの学園周りだけきらきらした光の粒みたいなものが舞っている気がする。なんだこれと思いながら手を出して触れてみようとすると触れると同時に消え去ってしまった。


「ルミエール嬢、もう大丈夫ですよ」


「あ、えっと、わかりました」


「ルミエール嬢、光属性、最上級です。さあ、皆さんのところに戻りなさい」


 何がなんだかわからないまま元の場所に戻った。あの舞ってた光の粒は私に関係あるのかな?でも、光って聖女だけの属性みたいだったし関係ないはずはないのか。


 それにしても何が起こったのかわからないのに加えて、周りからの視線が刺さりまくってて居心地が悪い!!アシェル先生早く実力測定始めてください!!


 そんな気持ちを込めに込めた目線をアシェル先生に送ると、気づいてくれたのか少し息を吐いた後、話し始めてくれた。




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