第4話 魔力測定と実力測定の違いがわかりません!

「話を戻そっか!魔力測定と実力測定なんだけど、これは一年に一度、新しい学年になった時に受けるものだよ。どちらも似たようなものではあるんだけど、魔力測定は魔力量や質を魔水晶を用いて測定するんだ。


魔水晶に手をかざすと、持ち主の属性に合ったものが、例えば火属性なら火、水属性なら水みたいな感じで魔水晶の中に出るんだよ。ソフィアちゃんなら光かな?


魔力量が多ければ多いほど中の火や水は大きくなるんだ。昔は魔水晶の大きさを超えるほどの魔力量を持った生徒がそれなりにいたらしいんだけど、最近じゃあごく稀でそれこそ王族や貴族、あとソフィアちゃんの様な聖女様くらいなものだよ。


まぁ、全ての聖女様がそうだったって訳じゃないから心配しなくて大丈夫だよ。


魔力の質の方は、火や水の色の鮮やかさで測定できて、鮮やかであるほど質が良いとされているよ」


「魔力の質って何ですか?」


 ソフィアの記憶と照らし合わせながら聞いたおかげでなんとなくではあるけど大体は理解できた。でも、さっきの話の中でちょっとよくわからなかったのが魔力の質という単語だった。


 質と簡単に言うけれど一体どういったものなんだろうか。鮮やかさでわかるということはわかった。そうだとして質を見極めることにどういう利点があるのだろうか?測定するのだからそれなりの理由はあると思うのだけど。


「...魔力の質とは、魔力の純度や変換効率の高さなどを総じて言いますの。質が高ければ高いほど己の魔力を使わずに魔法が使えますわ。同じ量の魔力を使って出した魔法でもこの質の差で威力や規模に差が出てしまうということですわ。


これ以上の詳しい事は魔法基礎学の授業を担当なさってる先生にでもお聞きになって」


 少し呆れた様子のミラさんがそう教えてくれた。その隣でグレースさんの表情がどんどん険しくなっていく気がした。


「それにしても、今の神殿はそんな事も教えられないほどになってしまったのかしら?人数が足りていないのか、単純に神殿の人間の実力不足か...。それとも何か他の原因でもあるのかしら?ルミエール嬢はご存知?」


 険しい表情でこちらを見つめているグレースさんに少し萎縮してしまう。これはゲームでソフィアが怖がってしまうわけだ。他人に睨まれても特に気にしない私でもグレースさんのような美人に凄まれると怖い。


 とはいえ、教わっていないものはいないのだ。それを責められても困る。何より私はソフィアじゃないのだから何故教わっていないんだと言われてもそれすらわからない。ましてや神殿の事情なんて知る由もないのだ。


「ごめんなさい、グレースさん。神殿では私に聖女様について教えてくれていた先生以外の人とはほとんど話したことがなかったので...あまり神殿のことを知らないんです...」


 ソフィアの記憶を頼りにぽつりぽつりと申し訳なさそうに謝る。記憶を見てわかったことだけどソフィアは神殿の中で先生と呼んでいる人以外の人に会ったことがほとんどなかった。


 時折神殿の偉そうなお爺さんが様子を見に来ていたくらいだったみたい。それも、授業を後ろで見たり、先生に話を聞いたりと相手がソフィアを一方的に確認しているだけなのだ。ソフィアがその人と話したことはないようだった。


 もし神殿でソフィアに行われていた授業について何か知っているのならこの人じゃないかなとは思うけど間違ってるかもしれないのでここでは黙っておこう。


「気にしないで大丈夫だよ。平民の子達だと魔法について詳しく知らないのは普通のことだから教えていなかった神殿の方が全面的に悪いさ。


あと、魔力測定についても心配しなくて大丈夫だよ。魔水晶に手をかざすだけの簡単なものだからね。どちらかといえば実力測定の方が時間がかかって面倒なんだ。


測定の仕方としては、それぞれの属性ごとに魔法の課題が与えられてそれを自分のできる最大限で的に向かって放つという簡単なものではあるから心配はいらないよ。


ただ他のクラスも合同で行うから待ち時間がすごいんだよ。することもないのに約40人数分待たないといけないからね。だるいんだよねー」


 そう言ってルーカス王子は目の前の机にだらーっと突っ伏した。その瞬間キッとミラさんに睨まれてすぐ元の体制に戻った。


「...はぁ。他の者の実力を見極める良い機会ですわ。これを機にそろそろご自分の側近をお決めになられては?」


「まぁ、いずれ必要になったらねー」


「そうおっしゃられてからもう5年になりますわ。」


「そうだっけ?よく覚えてるね。んー、でも俺の側近なんてなりたい人間なんていないでしょー。面倒ごとに巻き込まれる未来しか見えないのにさ。俺としても面倒ごとには巻き込みたいかないしね」


「そんなことありませんわ」


 ルーカス王子とミラさんの会話をあまり理解できないまま聞き流す。ふと喋っていないグレースさんの方を見ると彼女もルーカス王子に何か言いたげな様子ではあったけれどミラさんに任せているのか静かに二人のやり取りを見守っているようだった。


 ウィリアム王子も側近がいるんだろうか?今朝会った時にはお一人だったけど。そもそも私の思ってる側近とは違っているのかも。


 側近って聞くと大体ずっと側にいる感じのものを想像した。護衛みたいな感じの仕事だからそばを離れないものなのかなって思ったけどそうじゃないのか、もっと融通のきくものなのかな?


「ソフィアちゃんが話について来れてないみたいだからこの話はこの辺で終わっておこうか。」


「仕方ないので今回はこの辺にしておきますが、側近は必要になる時が必ず来ますのでお早めにお決めくださいね」


 ミラさんが最後に釘を刺したのを確認した後、今までミラさんの方を向いていたグレースさんがこちらを向いた。なんだろうと思っていると、


「では、私の方からルミエール嬢にお聞きしたいことがあるのだけれど、よろしくて?」


 相変わらず厳しい表情のままのグレースさんからそう声がかかった。


「もちろんです!えっと、なんですか?」


「ちょっとした噂を聞きましたの」


「噂、ですか?」


「あー、あの噂かー。その、グレース嬢、そんな気にしなくてもいいんじゃない?」


 なぜか歯切れの悪いルーカス王子がグレース嬢をたしなめてくれている。一体どんな噂が流れているんだろう。


「ルーカス王子殿下、今グレース様はルミエール嬢にお聞きになっておりますの。殿下にではありませんわ。ですので、少々お黙りくださいませ」


「流石にちょっと失礼すぎないかい?ミラ嬢」


「私とルーカス殿下の仲ですわ」


 にっこり笑ったミラさんに何も言えなくなってしまったルーカス王子。どうやらこの怖い顔をしたグレースさんからの質問を止めてくれる人はいなくなってしまったようだ。


 それにしても私に聞くってことは、私に関する噂なんだろうか?まだ学園に来て数時間しか経ってない私に何の噂がたつというのだろうか。


「今日の朝、ウィリアム王子殿下が学園の制服を着た見慣れぬ女子生徒と仲睦まじく歩いているところを見たと言う生徒が大勢おりまして、それについて、婚約者がおりながら他の女に現を抜かすなど次期国王として相応しくないだとか、ウィリアム殿下が他になびくのは私に魅力がないからでそんな女はウィリアム殿下に相応しくないだとか、まぁそういった余計な噂が出回っているようですの」


 それは教員室に案内してもらった時のことを言っているので間違いはないんだろうけど、そうだとしても善意で案内してくれただけなのにこんな傍迷惑な噂が出回るの?!え、なにそれすごく怖いんだが...。


「そして、そのお相手がウィリアム殿下と同じくらいの美しい金色の髪をもっていたようで、先程の噂に加えて国王陛下の隠し子だと言っている無礼者まで出てきましたの。


ところで、ルミエール嬢はとても美しい金色の髪をしていらっしゃるのね。それこそ、ウィリアム殿下とそっくりな程の。


説明していただけますわよね?」


「ウィリアム王子...殿下には門でお会いしました。私が早く来すぎたせいで、迎えに来てくれる予定だったアシェル先生がまだいなくて教員室に行けなくて困っていたところに声をかけていただいたんです。


それで教員室までの道がわからなくて困っていると言ったら案内を申し出てくれて、本当に困っていたのでお願いしたのです。


その際にエスコートしていただいたのが、もしかしたら仲良さそうに見えたのかもしれないです...。」


 私がそう返すと、目の前にいる三人だけでなく教室中が静かになった。


「えっと...私、何かおかしなこと言いましたか?」


「...ウィリアム殿下がグレース様以外を


「ミラ」


すみません。グレース様」


 今にも人を目線だけで射殺せそうな顔をしたミラさんをグレースさんが嗜めた。さっともとの表情に戻せる辺り流石貴族といったところだろうか。


「では、ルミエール嬢は国王陛下の隠し子だということはないのですね?」


「はい!私はちゃんと、今まで私を育ててくれた両親の子供です!この髪だってちょっと明るい色だけどずっと両親ゆずりのものだと思って...。そんな急に両親が私のほんとの親じゃないかもしれないなんてっ!!どなたか知りませんけどっ、たとえお貴族様だとしてもそんな噂を流すなんて酷すぎます!!」


 私じゃない。記憶の中の、心の奥底のソフィアが今にも泣きそうな思いで訴えてくる。ソフィアの感情とリンクして私まで泣きそうになってしまった。涙を堪えようと目をきつく閉じ下を向く。


「...すみません、とりみだしてしまって...。」


 息を整えて謝罪した私の肩に優しく誰かの手が乗せられた。顔を上げると、心配ですと顔が訴えてくるくらいに不安そうな表情のルーカス王子がそこにいた。


 私と目が合うと安心させるように笑ってみせてくれた。女の子好きっていうけどやっぱり普通にいい人なんだなって思う。


「大丈夫だよ、ソフィアちゃん。そんな失礼な噂を流した人には俺の方からちゃんと“お話し”しておくから。グレース嬢もそれでいいね?」


「かまいませんわ」


 ルーカス王子にああいう風に言われてしまうと流石のグレースさんでもそれ以上は言えないみたいだった。


 もしかしたら彼女としてもこれ以上この話をする気はないのかもしれないけど。


「よし、じゃあこの話もこれでおしまい!もっと楽しい話をしよう...と思ったけどそろそろ二限目だ、二人は席に戻った方が良さそうだよ」


「そうですわね。では私たちは失礼しますわ。ルミエール嬢の測定結果楽しみにしています、きっと素晴らしいものでしょうから。席に戻りましょう、ミラ」


「はい、グレース様」


 二人はルーカス王子に軽くお辞儀をして元の席に戻っていった。それと同時にこれまでこちらの様子をうかがっていた他の生徒の視線もなくなった。


「今までの話はあまり気にしなくていいからね。学園に寮生活としていると閉鎖的になりがちで、男女のゴシップとかの噂は尾鰭がついて流されるんだ。でも、噂もそのうちなくなるよ、きっとね。


あと、あの二人はちょっとだけきつい物言いをするけど、まぁそこまで気にしないのが一番だよ。俺はいつもそうしてるから」


 他には聞こえないようにルーカス王子はこっそりと私に言った。その姿がなんだか寂しそうに見えて


「大丈夫ですか?」


 私はそう聞いてしまった。少し驚いた顔をした後、何かを言おうとしたルーカス王子だったが丁度先生が教室に入ってきたことで彼の言いたかったことを聞くことはできなかった。


 教卓のそばに立ったアシェル先生は教室中を見て生徒がみんな自分の席にしっかりと座っているのを確認して満足そうに頷いた。


「二限目は魔力測定と実力測定です。魔法用訓練場に測定の準備をしてきましたので、そちらまで移動しましょうか。他のクラスがこれから移動を始めるので、私たちは少し後から行きましょうね」


 どうして先に行かないのだろう。10分前行動とかこの世界の人はしないのだろうか。先に先にと行動するのが良いわけではないということなのかな?やっぱりこの辺りついてはわかないことの方が多い。


 それにしても次期王妃であるグレース嬢や次期国王のウィリアム王子に対する失礼な噂に加えて、国王陛下に対してまであんな失礼な噂を流すなんて流石に貴族の人間としてどうなんだろう。


 そんなこと考えながらぼーっとしてると、きこえてた足音が聞こえなくなっていたらしい。私がそれに気づいたのは、


「それでは行きましょうか」


 とアシェル先生がそう声をかけてみんなが椅子を引く音が聞こえてからだった。

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