第3話 豪華すぎるクラスメイト?!
一限目が終わって20分間の休憩の後に二限目があるのだが、この20分間私は何をして待っていればいいのだろうか。周りのみんなはこれまで同じクラスだったらしく仲良くお話ししているが、私にはそんな相手はまだいない。
こういう時、今までだと私は大抵読書やスマホで音楽を聞いたりして時間をつぶすことが多かった。ただこの世界にそんな便利なものなんてないと思う。少なくともソフィアは持っていなかった。
一限目が始まった時に大事そうなことやわからないことをメモできるものはないかと、ソフィアの鞄の中を見させてもらった。
他人の鞄だという思いが拭いきれなくて、すごく申し訳ない気持ちになりながらだったが、しっかりと確認した。
鞄の中にはノートや教科書、筆箱のようなものが入っていた。ノートや教科書の紙はよく知っているような手触りに近く、デザインもよく似たものだった。
筆箱やペンも同様で慣れ親しんだものだったが、ペンの中にインク物は入っておらず、どういう原理で文字が書けるのかは全くの謎だった。こういうゲームだと羽ペンとかでインクをつけながら書くのが普通ではないのかと少しだけ疑問に思ったことは間違いではないはず。
ノートはまっさらだったが、教科書は折り目がついていたり、いくつかの書き込みがあったりとソフィアが使っていたと思われる痕跡があった。
かわいらしい丸文字で『先生に聞く』だとか『ここ大事!』だとか学生らしい書き込みがなされていた。私だとこういうかわいい書体で文字は書けないし、こんなことしないななんて思いながら教科書をめくった。
ノート、教科書、筆箱以外に特に物は入っていなかった。連絡手段のような物は何一つとして入っていなかった。スマホに慣れてしまった私からすると連絡手段どうするんだと思ってしまったが、この世界は魔法が発展しているのだから魔法系の何かあるんだろうなと思う。
そんなこと考えながらぼーっと窓の外を眺めていると突然声がかけられた。
「やぁ、編入生ちゃん」
声と呼び方ですぐわかった。この呼び方をゲーム内でしてたのは一人だけだったから。
振り返ると思っていた通り、少し天然パーマぽい茶髪の彼、ルーカス王子がこちらに笑いかけていた。
「えっと...」
ここで名前を呼ぶか悩んだ。名前は知っていが、自己紹介はされていない。これで名前を呼べば、こう言った小説によくある“なぜ俺の名前を知っている?”とかになるのだろうか。
そうなってしまうとこれまでのソフィアについてあまり知らない私には返答のしようがない。そもそも、なって困るタイプの人間なのだろうか、このルーカス王子という人は。
そんな感じで悩んでいると何か思うところがあったのか自己紹介をしてくれた。助かった。
「あぁ、自己紹介がまだだったよね。俺はルーカス、ルーカス・セレスティナだよ。気軽にルーカスって呼んでくれると嬉しいな〜。
って言っても難しいよね。」
名前:ルーカス・セレスティナ
年齢:16歳 (2年)
セレスティナ王国第二王子。
好きなもの:可愛い女の子、甘いもの
嫌いなもの:気難しい人、規則
好感度:普通
ルーカス王子は何故か少し自嘲気味に笑ってみせた。王子ってやっぱり孤独だったりするのだろうか。ウィリアム王子も親しい友が欲しかったなんて話しがあったし、ルーカス王子も似たようなものだろうか?そんなこと考えてる私を置き去りにルーカス王子の話はどんどん進んでいく。
「実際のところさ、俺はウィルやノア、あー、第一王子殿下と第三王子殿下って言えばわかるよね。この二人と違って王位継承権もないに等しいし、王子ってだけでそんなにすごくも偉くもないんだよね〜」
王子ってだけで偉いし、それだけですごいでしょ?!とツッコミそうになったのはここだけのヒミツだ。
実際のところ、王子というだけでソフィアとの身分の差がとんでもないくらいある。彼のたった一声、不敬罪だとでも言えば最も簡単に私の命を消せるだろう。生まれもった身分で命の価値に差が出てしまうような世界だ。
そんな私の思いや言いたいこともあったけど、目の前でルーカス王子の美しい水色の瞳が寂しげにこちらを見るから私は何も言えなかった。
「ご自分の事を卑下する発言をなさるのはおやめくださいませ。ルーカス王子殿下」
凛とした声が教室に響いた。その瞬間話し声で少しばかり賑わっていた教室がしんと静まりかえった。
「やぁ、グレース嬢、それにミラ嬢まで。今年も同じクラスだなんてまるで運命みたいだね〜」
先程までの寂しげな様子はなく、少しおちゃらけたようにルーカス王子はその声の主に話しかけた。
「この1組は貴族の中でも上流の貴族または王族しか選ばれぬクラスですのよ?私やグレース様、殿下が今年も同じクラスになるのは当然の結果ですわ」
ルーカス王子を諌めた声とはまた違う声がした。少し呆れたような色を含んだ声だった。
声のする方に向くと二人の女子生徒が立っていた。一人はウィリアム王子ルートで敵対した悪役令嬢だった。もう片方は取り巻きとして少し出ていた気がする。
悪役令嬢の方の女子生徒は、銀色のロングヘアーを少し靡かせながら、するどい目つきで紫色の瞳がこちらを見すえていた。
もう一人の女子生徒の方は悪役令嬢の隣に立ち艶のある黒髪を姫カットにした女の子で冷めきった様子の赤い瞳がこちらを見ていた。
「殿下、貴方様は王子です。王位継承権がなかったもしても、その身分は揺らぎません。生まれもってして王子であり人の上に立つ者なのです。そのような世迷い言今後おっしゃらないようにお気をつけてくださいませ。」
「グレース嬢は相変わらずお堅いね〜。もっとさ、気楽に行こうよ。ここでは身分関係なく皆学生なんだからさ〜。」
そう言ったルーカス王子に対してグレース嬢と呼ばれた彼女は一つ息を吐いてこちらに向き直った。とりあえずルーカス王子に対するお小言は終わったようだ。
「ソフィア・ルミエールと言いましたか」
「あ、はい」
「私はグレース・オスキュリテ。オスキュリテ家の長女にして第一王子殿下の婚約者ですわ。」
名前:グレース・オスキュリテ
年齢:16歳 (2年)
ウィリアム王子の婚約者。次期王妃。
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明
好感度:低
注意!好感度が低いため表示できない項目があります!
グレースさんが隣の女子生徒に目配せすると先程までルーカス王子を見つめていた黒髪の女子生徒もこちらに向き直り笑顔をみせた。
「私はミラ・ファンミアですわ。一応第二王子殿下の婚約者ですの。」
名前:ミラ・ファンミア
年齢:16歳 (2年)
ファンミア家の後継。また、ルーカス王子の婚約者。
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明
好感度:低
注意!好感度が低いため表示できない項目があります!
その声には先ほどまで込められていた呆れも怒りもなくなっていて、可愛らしいがどこか中毒性のありそうな声になっていた。ただ少しだけ一応の部分の語気が強くなっていた気がした。
表示されてる情報に気になることは多いけど、それに関しては自室に戻ってからゆっくり考えるとしよう。今それ以外で気になることといえば彼女が名乗ったファンミアという家名。
「ファンミアって先生の...?」
私の口から思ったことがするっと出てしまった。普段なら思っても口に出さないことくらいできるのに、なぜか今はそれが出来なかった。
「あぁ、私達のクラスの担当の先生は私の一族の者ですから同じ家名になりますがそれがどうかしまして?」
それがなんなのだとグレースさんとミラさんは私のことを静かに見つめている。なんと返せばいいのかわからなかった。
そもそも尋ねるつもりがないのに、勝手にこの口が喋ってしまうのだ。ここから先のことを考えて話してないから悩んでしまう。
「二人ともそんな目で見つめないであげて?ソフィアちゃんが怖がってるよ〜」
困っている私のことを察してくれたのか、ルーカス王子が助け舟を出してくれた。
「まぁ、怖がらせるなんてそんなつもりありませんわ。私たちはソフィア嬢と仲良くしたいだけですわよ。ねぇ?グレース様?」
心外だと言わんばかりの表情でミラさんはそう言った。
「えぇ。ソフィア嬢は次期聖女ですから私達も仲良くできればと思い、自己紹介させていただいただけですわ。」
グレースさんもそれに同意したけれど彼女の瞳は以前冷たく厳しいまま私のことを見据えていた。
「それならよかった。ソフィアちゃん、この二人こんな感じでちょっとキツい物言いをすることがあるけど、ホントは優しい女の子だから仲良くしてあげてね」
冷たい瞳だと思っているのはどうやら私だけのようで、ミラさんだけでなくルーカス王子も特に気にした素振りはなく、そもそもこういう人なのだとルーカス王子は言った。それどころか、ホントは優しい女の子だと言いきった。
ミラさんはゲームであまり出てこなかったからあまり知らないけれど、グレースさんはまさに悪役令嬢といった感じの女の子だった気がする。
ウィリアム王子も彼女はいつも他人に対して厳しい人で、笑ったところなど久しく見ていないとゲームの中で言っていたし、彼の友人の一人も何も悪いことをしていないのに、いつも怒られていてうんざりしているのだと言っていた。そんな彼女を優しいと言いきるなんてなんだか変わった人だなと思ってしまった。
さて、そんなこと考えている場合ではなかった。ルーカス王子は二人と仲良くしてあげてねと言った。それに対しての返答をしなければいけないのだ。
「はい!ミラさん、グレースさんよろしくお願いしますね!」
ソフィアならこう返事するのではないだろうか。誰にでも優しく誰にでも愛される女の子であるソフィアならば。例えそれが失礼にあたったとしても。
「ええ、よろしくお願いしますわ」
特に表情も変えることなくグレースさんはそう言った。隣ではミラさんが少しだけなんとも言いがたい表情になっている。しかし、彼女も貴族令嬢。私と目が合うとそんなことなかったかのように笑っている。感情コントロールもできないとだめなのかこの世界はと少し絶望した。なんてったってこの体、本当に素直なのである。思ったことは気がついたときには口をついて出ているし、想像以上に感情も豊かでそれにつられてか表情もあかりだった頃より豊かになっている気がする。
「こちらこそよろしくお願いしますわ。是非とも仲良くしましょうね」
少し失礼であったとしても、こちらはまだこの世界に来たばかり。頼りの綱はソフィアの記憶だけ。そのソフィアの記憶にも家族に対する正しい対応の仕方なんてものはなかった。ソフィアは平民だから知らなくてもしょうがないことだと私は思う。2人の記憶・経験を持ってしても正しい方がわからないのだ。正しい作法を学び、慣れるまで許してほしいところではある。
少し不満はありそうな2人だったけれど、仲良くしてくれそうな感じではあったから私はほっと胸を撫で下ろした。それを察したのかルーカス王子も嬉しそうに笑っている。
「仲良くなれそうでよかったよ。この調子で俺のこともルーカスって呼べるくらい仲良くなろうね、ソフィアちゃん!」
「ルーカス王子もよろしくお願いしますっ!」
目一杯の笑顔を3人に向けた。私の一言に3人はそれぞれ別の表情を浮かべながら私の方を見ていた。
「次の授業は魔力測定と実力測定なんだけど、ソフィアちゃんは神殿にいたときに受けたことはあるのかな?」
魔力測定と実力測定って何が違うんだろうとすごく思うけど、ここで聞いても大丈夫なんだろうか?とりあえず、ソフィアの記憶的に受けたことはなさそうだったから素直に受けてませんと答えておこう。
「いえ、受けたことないです。神殿では、歴代聖女様の使っていた魔法と歴史を中心に学んでいたので・・・。」
「じゃあ、まだ二限目までに時間が少しあるから軽く説明してあげるよ」
「いいんですか?」
「うん、いいよ。そのくらい手間でもなんでもないからね、気にせず訪ねてくれてもいいからね」
「...ルーカス王子って優しいんですねっ!ありがとうございます!」
ゲームしてた時はルーカス王子って女の子好きというイメージが強かったけど、こうして実際に会ってみるとなんか普通のいい人だなって思える。グレースさんもミラさんもまだゲーム内の事しか知らないから怖いだけなのかもしれないな。それにしても、席のお隣さんが優しい人でよかった。
「やっぱりかわいい子に、ありがとうって言ってもらえるのっていいよね〜!」
...前言撤回。優しいのは優しいんだろうけど、女の子好きはちょっとごめんなさいって感じだな。
「ルーカス王子殿下...」
少し頬を膨らませたミラさんがルーカス王子の名前を呼んだ。その声色は呆れと含んでいた。
「はいはいわかってますよー、ミラ嬢。冗談だって」
「殿下が言うと冗談に聞こえないのですが?」
「えー?君と俺との仲じゃない。少しくらい信じてくれても」
「日頃の行いですわ」
やれやれといった様子で手をひらひらさせたルーカス王子に対して、更に冷たい空気を纏わせた二人のご令嬢。一般市民の私からすると少し怖い空気だなと思っているとルーカス王子と目が合った。
ルーカス王子は私に向けて何故か軽くウィンクをしてみせた。本当に様になるんだから不思議なものである。これが王子クオリティなのかなんて馬鹿な事を考えてるとルーカス王子はまた話始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます