第2話 学園について知ろう!
先生の後ろについていくと教員室の中の休憩室というところに案内された。
ロココ調?というのだろうか、私が元いたところの中世で貴族が好んでいたとされるインテリアに似た部屋の作りをしている。
豪華絢爛とまではいかないけれど、平民ではお目にかかることのないだろう光景に少し怯んでしまった。
「そちらへどうぞ」
そんな私を知ってか知らずか、先生はなんてことないかのように私を先生の座った席の対面に座るように促した。
そういえば、今みたいななんてことないやりとりには選択肢は用意されてないらしい。選択肢以前にウィリアム王子の時に見たキャラクター説明も吹き出しもなかった。攻略対象以外の人には出ないのだろうか。
それに加えて私が話しているそんな感覚がある。もちろんこれまでのやり取りも全て私、ソフィアの口が喋っているのには違いないのだが、なんだろう上手く説明できないが本当にそういう感覚があるのだ。
「では、改めて私の方から自己紹介させていただきましょう。アシェル・ファンミア、先程通りファンミア先生でも構いませんが、皆様親しみを込めてアシェル先生も呼んでいただいておりますのでソフィア嬢もどうぞそちらでお呼びくださいませ」
「はい、では私もアシェル先生と呼ばせていただきますね」
私のような平民にそう呼ばれるのはきっと嫌なはずだ。だからこそ今できる私からの精一杯の嫌がらせのつもりだったのに、顔色ひとつ変えることなく話を続けた。先程の嫌味のお返しをしたかったのだが、どうやら失敗に終わったようだ。
「あと、私のクラスには私と同じ苗字の生徒がおりますが、その方は私とは違い本家の者ですので無礼のないよう接するようにお願いしますね。」
その生徒とやらが本家の偉い人?で先生は分家の人なんだろうか。本家の方が立場的に上なんだろうということはなんとなく察することができた。日本でもこういうものはあったらしいが、生憎そういったものに関わりのない人生を送って来てるのでそれ以上はよくわからなかった。
「わかりました」
訳がわからないが、丁寧に接すればいいんだろうととりあえず了承すると、なんとも言えない顔で先生がこちらを見ていた。
きっと‘こいつわかってねーな’みたいなこと思われてるんだろうなと思ったがとりあえず笑っておいた。笑顔は色んなことを丸く収めてくれるからね。
先生は一つ息を吐いて机に置いてあった資料を手に話し始めた。
「では、本題に入りましょう。
このクレアフュール学園は出自問わずその門戸を開いております。例え貧しい者でも何かたった一つでも秀でるものがあればこの学園に通う権利が得られるのです。
それは魔法だったり剣術だったり、はたまた植物学や文学だったりします。貴女のように希少な属性の使い手もいます。本当に何でも良いのです。
平等に開かれているとはいえ、貴族と平民を同じ教室にて学ばせることはできません。ですので、貴族科と一般科に分かれているのです。基本的な生活は貴族科のみで行うことができるので、身を守るためにも貴族科のエリアから出ないことをお勧めします。一般科の生徒や教員と会うことがあるとすれば、学園祭くらいのものでしょう。
授業に関してですが、事前にお渡しした日程表に基づいて行なっていくことになります。基礎的な知識を身につけ、己の進みたい道に合わせて専門的な知識を学ぶことになっております。
そうですね、貴女であれば光属性の魔法について極めるといったところでしょうか。残された聖女の魔法についての文献を参考にすると、この属性は治癒も攻撃も防御もできるとか。どれか一つでも極めてみるといいでしょう。
他にも2年生の7月から12月まで職場体験というのも実施されております。詳しくはその時期が来たら説明いたします。職場体験は全て希望制ですのでソフィア嬢もよければご参加くださいませ。
あとは何がありましたか...。あぁ、そうでした。基本的な生活についてもいくつかありました。
食事に関してですが、朝食・夕食は寮の方の食堂で、昼食は学園内の食堂でご用意しておりますのでその様におとりくださいませ。
また寮は基本、一人部屋もしくは二人部屋になっており、本来であればソフィア嬢も一人部屋の予定だったのですが、少々手違いがありまして、二人部屋になってしまったのですが、大丈夫でしょうか?」
二人部屋?ゲームではソフィアは一人部屋だったはずだ。部屋で泣いているシーンがあって部屋全体を見ることができた時があったがベッドや机、椅子なんかは一つだったから間違いないはず。
ただ、拒否する必要もないだろうし、そもそも多分権利もないから今の私にできることといえばとりあえず、どういう子がルームメイトになるのか聞いてみることだけだった。
「問題ないと思います。えっと同室の子はどんな子か教えてもらうことはできますか?」
「気になるのは当然のことですね。もちろんお教えしますよ。聖女様の身の安全のためにもしっかりとした身分の者を選んではおりますが相性というものもありますからね。
彼女の名前は、アリシア・グラシアール。グラシアール家の長女にして次期当主になります。同じ学年ではありますが、クラスは3組で授業が一緒になることはほとんどないでしょう。
大人しく自分の意見をあまり出さない子ではありますが、しっかりと芯のある子ですね。きっと貴女と問題を起こすようなことはないと思われます。
これ以上は先入観を植え付けすぎてしまうので会ってみて話してみてどんな人か知っていくといいでしょう。」
アリシア・グラシアール?知らない子だ。名前どころか家名すら聞き覚えがない気がする。ウィリアム王子にゲーム内のパーティーで何人かの貴族を紹介されたけどその中にはいなかったし、その時来れなかった貴族の名前も聞いたけどその中にもいなかった気がする。貴族って思ったより多いのだろうか。
ちょっと話がずれてしまったので戻そう。大事なのはゲームでいなかった存在がいるということ。私がこの世界に来たことでズレが生まれたのだろうか。もしくはパラレルワールド?わからないことが多いが今、考える時間はない。
とにかく、聞いた限りでは害はなさそうだから了承するしかなさそうだ。
「わかりました。教えていただきありがとうございます。」
「いえ、お気になさらず。」
手に持っていた資料に目を落とした後、何かを確認し問題がなかったのか頷きその資料を裏向きに机に置いた。
「今話しておくべきことはこのくらいでしょう。もし何かわからないことなどがあれば、その都度聞いていただければと思います。」
「わかりました」
「ではちょうどいい時間ですので、教室に向かいましょうか。私の後ろについて来てくださいね。」
先生はそう言って立ち上がりドアの方へ向かって行く。置いていかれないように私も着いて行くことにした。
教員室から歩いて5分くらい離れたところに2年生の教室があった。1組から3組までの教室が並んでいて、私がこれから過ごす1組の教室は一番奥だった。
ここに来るまで廊下には全くと言っていいほど生徒がいなかった。教室に向かってる途中のような生徒はいたけど、それ以外の生徒はいなかった。
日本の中学校や高校だと、授業前や授業の間の自由時間には廊下で話す人や大声で叫んでる人、酷い時には走り回ってる人だっていたのになと少し感心した。やはり流石貴族科といったところだろうか。
それでも教室の前を通れば話し声は聞こえてくるわけで、貴族とはいえちゃんと学生なんだなと少しだけ安堵した。
ゲームの主人公だったソフィアは孤立していたけれど、会話さえできれば私に対する変な誤解もうまずに、それなりにいい人間関係を築けるかもしれないと少しだけ希望が持てた気がした。
私が一呼吸入れて落ち着いたのを悟ったのか、優しくて笑いかけてきた。さっきは嫌味な先生だって思ったけど、優しい先生なんじゃないかと思ってしまった。手のひら返しもいいとこだけど。
「では私と一緒に教室に入りましょうね。
緊張するかもしれませんが、大丈夫ですよ。皆様お優しく寛容な方々ばかりですので、ちょっとしたミスくらいでどうこうということはありませんよ。」
「は、はい!」
先生がドアを開けるとそれまで聞こえていた話し声が聞こえなくなり、その代わり足音や椅子の音が聞こえた。
私は先生に置いていかれないように後ろについて教室に入って先生の隣に立つ。その瞬間、教室中からの視線が全てこちらに向いた気がした。気のせいだといいなと思いながらもそちらを見る勇気はなかった。
「おはようございます。今日から新学期ですが、またこうして皆さんが無事集まれたこと私は嬉しく思っております。
さて、本日から新しい子がクラスの一員になりますよ。さぁ自己紹介をお願いしますね」
いつの間にか下向きになっていた顔を少し上げて今度こそしっかりと前を見た。
すごく緊張する。
人前で発言するなんて高校でもあまりしてこなかった。そういうものは、ほとんどの班活動が一緒だったみさとがしてくれていたから。
その分裏方のことはやっててそちらの方が得意なくらいだ。でもここには頼れる人はいない。自分で全部やりきらないと。大丈夫、私ならできる。そう信じるしかない。
私はヒロイン。
ソフィアは明るくて誰にでも優しい女の子。私とは見た目も性格も全く違うけど、私は
「初めまして!ソフィア・ルミエールです!
みんなと仲良くしたいと思ってます!今日からよろしくお願いします!」
軽く頭を下げる。しんと静まりかえった教室に拍手がおきた。顔を上げて教室全体を軽く見渡してみたが不満そうな顔をしている人はいなかった。
あまり表情のない人や困惑している人もちらほらいるがほとんどの人が笑顔を浮かべてくれていた。どうやら拒絶はされないらしい。ほっと胸を撫で下ろした。
「ソフィア嬢は今代の聖女様であります。平民出身ですのでわからないことが多いとは思いますが、彼女がここでの生活になれていけるように皆さんで支え合っていきましょうね。」
その言葉にみんなが頷いてくれていた気がする。
「ではソフィア嬢、貴女の席は窓側の席の一番後ろになります。」
先生が言った席を見ると隣にゲームの表紙で見たウィリアム王子の弟であるルーカス王子がいた。前の席の赤みがかった茶髪の男子生徒も確か攻略対象の一人だった気がする。
なんだか、こちら側の列は男子生徒が多いというか男子生徒しかいない。逆に反対の入り口側の列は女子生徒ばかりだった。席が余ってないとはいえ、ちょっとよろしくない席のような気がする。しかし、そこに座るしか選択肢のない私は頷くしかなかった。
「わかりました。」
そう言って自分の席の方に向かうとルーカス王子がこっちだよーと笑顔でひらひらと手を振っていた。ありがとうの意味を込めて軽く会釈をしておく。
席につき、前を見ると問題なさそうだなと頷く先生がいた。
「それではこのまま一限目のオリエンテーションをしましょう。基本的な学園生活の説明と5月に行われる学園祭の打ち合わせをしましょうね。」
先生から学園生活についての説明がなされた。基本的には私がさっき教員休憩室で聞いた話がほとんどで、それに加えて一般科には用がない時は絶対に近づかないようにと強く言われた。
後は時間割について。
一限目9:00〜10:20
二限目10:40〜12:00
昼休憩12:00〜13:00
三限目13:00〜14:20
四限目14:40〜16:00
時間についてはこんな感じだった。
午前中は全員が同じ授業を受ける。主に魔法学や魔法倫理学、魔法史、社会学などがあるらしい。どれも当然の如く日本にはない科目なので今からとても楽しみだ。
午後からは選択制の授業だったり男女別の授業だったりした。
例えば帝王学(王子や貴族の次期当主が受ける科目らしい)とか基礎薬学とか魔法科学(なんか魔道具を作ることを学ぶための科目だと聞いた)とか私にはあまり関係なさそうな科目から、治癒学(水属性適性者の中からさらに治癒に適性のある者を探すための授業らしい)とか魔法言語学(基本的には平民だけが受ける授業らしい)とか私にすごく関係のある授業までたくさんの種類の授業があった。
通常の授業に加えて、私は週に2回ほど礼義作法についての授業を一人で受けることになっているらしい。
平民出身の私が貴族社会でも生きていけるようにという学園側からの計らいだと先生から聞いた。
手厚いサポートがあるものだと手紙に同封されていた時間割を見た時にソフィアが感動していた記憶が少しだけある。
ソフィアは学園でしっかり学んで、その力で安定した生活を両親がおくれるようにしたかったようだ。私がソフィアになってしまったのだから、そういったソフィアの希望も叶えられるようにしてあげたい。いつ私が元の世界に帰ってもいいように。
私がソフィアの記憶を受け継げているのだから、きっとこの体で私が学んだこと知ったことを戻ってきたソフィアにも受け継げるはずだと信じている。
学園祭の方の打ち合わせも問題なく進んでいった。貴族科はそもそもの人数が少なく、一クラス16人しかいないので出し物は生徒の強い希望がなければしないと説明を受けた。
その分、一般科の生徒や先生が出し物をするらしい。食べ物や飲み物などから短めの演劇や歌劇など。貴族科はそれを食べたり見たりするらしい。一応食べ物系はしっかりと学園側でチェックされているので問題なく食べれるのだと言っていた。
学園祭の後半では学生大会なるものが開催されるらしい。剣術部門、魔術部門をはじめとした戦闘系の大会から薬学部門、魔道具部門などの非戦闘系の大会までさまざまな大会が一気に開かれる。
2年生以降に参加権があるため今年から参加できると説明を受けた。また魔術部門は各クラス一名は参加しないといけないためその代表として第二王子のルーカス王子が選ばれて今日の一限目は終わった。
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