第3話 血で染まるTシャツ

成美は目を開けた。


というより、今なぜ目を開けたことすらわからなかった。




そして、自分の背中に何やら重いものが乗っていることがわかった。


が痛い。




そうか、私は神社にお参りして、そして、慰霊碑にも祈りを捧げていたんだっけ。それがなんで・・・。




ああそうか、慰霊碑が自分の上に乗っているのか。そして、慰霊碑とその台座に頭をはさまれているから頭が圧迫されているのがわかった。




ひとまずこの痛みを脱するため、背中を動かしてみることにした。


慰霊碑はかなり重かったが、渾身の力をこめて腕立ての態勢を取り、右左にゆすってみた。




すると、慰霊碑は成美の左にごろりと転がった。




「ふぅ・・・いたた・・・」




成美はひとまずはさまれていた台座に腰の部分を乗っからせ、背もたれとして座り込んだ。




頭から血は・・・手でずきずきと痛む額をこすってみた。


すると、手のひらにかなりの量の血がついた。よく自分の衣服を確認すると、Tシャツが赤く染まっている。先ほどから額から汗が出ていることは認識していたが、それは汗ではなく血だったようだ。ドバドバと吹き出す血に、成美の心臓がドクドクと音を立てて鳴っているのを感じた。




一方で背中はどうか。背中は痛いが、軽い打撲で済むレベルのようだ。




ひとまず吹き出す血をどうにかしなきゃ・・・。でも何も持っていないで出てきた成美に使える資源は限られている。夏だから上着もないし、Tシャツを脱いだら下着だ。誰もいないとはいえ、流石に外で下着姿になるのは気が引けた。そこは女子としての最低限の羞恥心というべきか。




でも、今はまだ意識がはっきりしているが、このままの状態だと貧血になってしまうことは目に見えている。どうしよう、ひとまず自転車まで戻るしかないか、いや、携帯で救急車を呼ぶべきか。




動揺した成美は、ひとまず立ち上がった。すると、頭がくらりとした。あ、まずい、と本能的に思ってまたしゃがみこんだ。くそ。動けない。




元々貧血気味の成美にとって、外傷で血を失うことは致命的なことであった。




しゃがみこむとまた頭に血が戻ってくる感覚がした。そして頭が猛烈に痛くなってきた。




これはまずいぞ。助けを呼ばなくては。




そう思い、ポケットから携帯電話を探り、急いで起動しようとした。しかし、手は血で汚れており、指紋認証のタッチ部分にも血がついてしまった。成美のスマートフォンは、エラーを吐き出すばかりで、次のホーム画面に移らない。くそっ、じゃあパスワードしかないか、あれ、パスワードなんだったかな。えーと・・・。




スマートフォンには、緊急通報と言って、110番や119番などの急を要する連絡をしたい時は例外的にロックを解除しなくても電話できるようになっている。




しかし、そこにいくには、一度ロック画面で緊急通報を選択し、更に番号を入力する必要がある。




成美も知識として知ってはいたが、今はパニック状態でましてや血も失われて上手い思考ができず、そのことまで頭が回らなかった。




成美はなんとかパスワードを突破すると、ぼやける思考を必死に取り戻しながら、スマホの電話画面を呼び出して、1,1,9を押した。




「これで・・・大丈夫だ・・・」




助けを呼べたという安心感からか、また意識が遠のいていった。




「もしもし!事件ですか?事故ですか?もしもし?聞こえてますか?」


受話器から、消防本部の指令員が何度も呼びかけていたのは、遠ざかる意識の中で認識はしていたのだが、最早応答することは、成美にはできなかった。

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