第2話 「転生に気付き狂喜乱舞」
むかつくくらい晴れ渡った青空の下、僕と兄上は屋敷の離れにある武器庫の前へと訪れた。
兄上には何か考えがあるみたいで、僕は呼ばれてやって来ただけなんだけど……正直、すでに不安と面倒臭さが勝っている。
「よーし。よく来たな、ノベル!爺はもう帰っていいぞ、ありがとな」
「兄上……何をするつもりですか?武器庫は鍵が掛かってますし、開ける方法は無いでしょう?そもそも、開けたところで危険なだけなのに……」
「俺をなめるなよ?なんたって、誇り高きアルフレッド家の長男だからな!」
「知ってます。それに、僕だって次男ですからね?」
兄上––––––––本名を、ランツェ・サルファー・アルフレッド。
アルフレッド家の長男で、僕よりもふたつ年上。
父上と同じ赤がかった茶髪が特徴の、僕よりも元気で強い自慢の兄……ではあるんだけど、父上が帰ってくる度に怒られている気がする。
「さあて、今日ノベルを呼んだのは他でもない。コレの為だ!」
「……魔道書!?書斎から盗んできたんですか、兄上?」
「いや、父様の仕事部屋から借りてきた。だってお前、
「ありがとうございます、兄上。父上に怒られる時はご一緒しますね!……って、あれ?これが目的なら、なぜ武器庫に?」
「え?せっかく魔術をかけるなら、強そうな武器の方が良いだろ?」
あー……理由がこれとか、まじでこっぴどく叱られるやつだ。
でも、兄上の提案を否定する気にはなれない。
だって、せっかくのエンチャントだよ?
実際に使ってみるのが楽しみすぎて、もう先の事を心配できるような余裕はないからね!
「兄上、武器庫に入る鍵は?扉を吹き飛ばしてしまっては、反省文どころの話では無くなってしまいます」
「お、何だかんだとノベルもやる気あんじゃねーか!安心しろ、鍵も一緒に盗んで来たからな!」
「流石兄上、常習犯なだけはありますね!今は僕も共犯なので、ばれない様に祈りましょう。では……行きますか」
兄上は武器庫のある塔の扉に鍵を差し込み、ゆっくりと、慎重に開ける。
「暗いな。ノベル、明るくする魔法とかは無いか?」
「ありますけど……兄上だって使えるでしょう。まあ、やりますけど」
魔術。
体内にあるマナを使い、大気中のマナと反応させて奇跡を起こす業。
より正確に、実践的な説明をするのなら––––––––詠唱により魔法陣を描き、その魔法陣によってマナを奇跡に変換するもの。
少なくとも、僕はそう教わり、実践している。
(集中しろ。あくまでも詠唱は設計図を作るもので、実際に描くのは僕だ。雑念を払え。感覚をできる限り、体内のマナへと寄せていけ––––––––)
「光神ゾンネの名の下に、ノベル・サルファー・アルフレッドが告げる。照らせ––––––––”ライト”」
空中に魔法陣が描かれ、そこから生み出された光の玉は暗闇に弾けて武器庫の中を隅々まで照らす。
「おお、明るくなった!さっすがノベル、初級魔術でも丁寧に詠唱するんだな。俺、すーぐ詠唱を短縮して失敗するからさあ」
「それは……兄上が雑すぎるだけでしょう?にしても、武器庫の中ってこうなってたんですね。何というか……思っていたより色々ありますね」
多種多様と言えば聞こえは良いのかもしれないけど……これは、流石に保管が雑すぎる気もする。
古い剣や鎧が壁際に積まれている一方で、重要そうな宝飾品も飾られている。
しかも、ここは塔の一階部分。本格的に武具があるのは、これより上の階だろう。
そんな混沌とした武器庫の中でも、僕が一番信じられなかったのは––––––––
「え、これ、碧色火薬じゃない?砕かれる前の原石だから、正確には碧水晶だけど……これ、ここに置いてて大丈夫なのかな……?」
木箱の中にぎっしりと詰められた、危険物。
この水晶が、アルフレッド家の主要産業なのは知っている。
……けど、流石に保管が雑すぎない?
この量なら、うっかり一個起爆しただけで武器庫全体が吹き飛んでしまう。
「この量……一個ぐらい起爆してみてもバレないんじゃねーの?」
「は?いやいや、兄上、流石にそれは……」
「大丈夫だって!流石にここじゃ起爆しないからさ。それに、自分とこで掘ってる火薬の威力も知らないんじゃ、次期当主なんて名乗れないだろ?」
「それはそうかもしれませんが、そもそも碧水晶を砕かず使用するのは危険だと爺やが昔––––––––ああもう、どうなっても知りませんよ!?」
箱から手頃な水晶を取り、いそいそと武器庫から走り出る兄上を追う。
砕かれて粉になっていない碧水晶は、一言で言えば不安定なのだ。
爆発させる為に必要なマナの量、並びに爆発規模が水晶によってまちまちで、故に魔術師でない兵士が扱うのは危険らしい。
だから、粉にした上で起爆用の魔法陣が刻まれた筒に入れて使われるんだけど……この調子だと、多分兄上は忘れてるな。
「見とけよノベル、良い感じに起爆すっからな!」
「……本当、この辺が武器庫以外なくて良かったですね……後、失敗だけはやめて下さいね!?僕はこんな所で死にたくないですから」
「そう言うけど、でも残るんだよなー。やっぱ爆発、気になるんだろ?」
「う……否定は、しませんが」
手のひら程の大きさの青く美しい水晶が、何もない芝生に向かって投げられる。
水晶は光を反射してきらきらと輝き、それが危険なものだという事を忘れさせる。
綺麗な花には棘がある、なんて
待って。
そんな諺、聞いた事がないんだけど?
一体どこで、そんな––––––––
「”イグニッション”!」
––––––––僕の感じた違和感を、兄上が知れる訳もなく。
美しい水晶はマナの青い炎に包まれ、どこか懐かしいような音と共に爆発して芝生を抉る。
爆風によって飛んできた小石が僕の顔に当たる。
この音を聞いたのか、爺やが慌てながらこちらへ走ってくる。
兄上も、いざ爆発を見て驚いている様だ。
「––––––––あ」
けれど、そのどれもが今の僕には些細な問題で。
ついさっき聞いた爆発音と、きっと前世に聞いたのだろう爆発音が鼓膜の中で繰り返される。
「そうか、俺は––––––––」
俺は、死ぬ程馬鹿げた理由で死んだんだ。
なら、こっちでの経験は夢だったのか?
それとも、死後の世界の様な何か?
違う。
俺の短い二つの人生が、どちらも現実だと叫んでいる。
前世は確かに馬鹿げた死因だが、全部をただの嘘にされてたまるか。
今世も確かにつまらない生活だが、良い思い出だってあるんだよ。
つまり、これは間違いなく異世界転生。
え、マジで?
念願の?
やばい、めっちゃ叫びたい。
でも、爺やと兄上がすぐ近くに居るんだよな。
流石に叫ぶわけには––––––––
「––––––––異世界に来たんだーーーーー!!!いやっほーーーう!!!」
はい、我慢できませんでした。
どう考えても気が狂った人だし、この後白い目で見られないかが心配だ。
今は何故かとんでもなく眠いし、まあ。
その辺を考えるのは後でも良いか。
……そんな訳で、俺はさくっと意識を手放した。
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