貴族の誇りは投げ捨てた!〜貴族らしく振る舞おうと努力してたのに、戦闘と魔術が楽しすぎてそれどころではなくなってしまった〜

不明夜

第1章 幼少期編 

第1話 「圧倒的に馬鹿げた死因」

 びっくりして心臓が止まる。

 それは、恐らく誰もが一度は使った事のある、なんて事ない表現である。


 ––––––––ところで。

 そこに、自宅の床で倒れて死んでいる男がいる。


 彼の名前は鈴木爆亮すずきばくすけ

 エナジードリンクを飲みながら過労死寸前まで働き、四トントラックに轢かれかけ、通り魔に殺されかけてもなお生き残ったラッキーマンだ。


 そんな彼はつい先程、電子レンジでゆで卵を作ろうとして死亡した。


 電子レンジで卵を温めると爆発する……という、もはや一般常識になってしまった雑学を知らなかった彼は、哀れな事に卵と己の命を無駄にしたのだ。

 まさか、この世にの前例が出来てしまうとは、お天道サマも思わなかっただろうよ。

 

 * * *


 ––––––––頭が痛い。

 

 ––––––––辺りが、よく見えない。

 

「……産まれました。元気な男の子です」

「よし、魔力計を持って来い。この子もまた、アルフレッド家の未来を担う事となるのだからな」


 ––––––––うるさい。

 、誰かが何かを話している。


 俺は確か……久しぶりの休日に、気持ち良くFPSで手榴弾を撒き散らして……休憩がてら、健康に気を付けてゆで卵でも食べようと……した後の記憶が、何故だか一切存在しない。

 ……人類史に残るレベルの大恥をかいた気もするので、それは一旦置いておくか。


 問題は今、この状況についてだ。


 体は動かず、呼吸も少々下手。

 視界は未だぼやけているが、何人かが俺を取り囲んでいる事は分かる。

 ……が、話している内容までは分からない。

 後、天井がどことなく豪華そうに思えるので、少なくとも俺の部屋ではない。


 以上を踏まえ、考えうる可能性は二つ。

 

 夢のある異世界転生か、夢のない誘拐事件かだ。

 俺がただのFPSで爆弾魔やってる普通の新社会人である以上、金目当てで誘拐する価値は無いだろう。

 できる事なら、前者であって欲しいと祈るばかりだ。


「魔力量は……69。私の子としては及第点だな」


 時間が経てど、言葉が分かるようになる気配はない。

 このまま、俺のバックに大富豪が居ない事がバレて殺される妄想をするのも不毛だろうし……異世界に転生したと仮定して考えるか。

 そうなると、一番の問題は言葉が通じない点だろうな。


 正直なとこ、死ぬほどめんどくさい。

 英語どころか日本語すらも怪しかった人間が、異国の地で一から言語学習を?

 無理無理、考えただけで頭が痛い。


 てか、今の俺って赤子か?

 ……どうしよう。

 言語の壁以前の問題が、目の前に立ち塞がっている気がする。

 俺、まともに動ける様になるまで生き延びられるかな……


 * * *


 それから六年の時が経つ間に、良くも悪くも彼の不安は消え去った。


 ––––––––鈴木爆亮という、一人の人間の記憶と共に。

 

 約20年分の記憶に、赤子のまだ未発達な脳が耐えきれなかったのか。

 それとも、転生がそういう物なのかは定かでは無いが……とにかく、卵が原因で死んだ哀れな男は、前世の記憶をほとんど無くした状態で、今をときめくの次男に生まれ変わったのだ。


 彼の今世における名前は、ノベル・サルファー・アルフレッド。

 彼は、奇しくも前世と同じ黒髪を持って生まれながらも、前世と違って優しく真っ直ぐに育っていた。


「––––––––また、同じ夢。不思議な世界で、よく分からない板に向かって何かして……最後は、なぜか卵に殺される。、何かしたのかな」


 見慣れた部屋の、見慣れた僕には広すぎるベットから起き上がる。

 昨日は僕の誕生日で、確か六歳になったんだっけ。

 だからって、何かが変わるわけでもないけども。


 夢を見る。起きる。朝食を食べて、魔術の勉強をする。

 昼食を食べて、今度は魔術の実技。

 夕食を食べた後は……また座学。

 また寝て、夢を見て、そして起きる。


 産まれてこの方、僕の生活は何も変わらない。

 飢えて死ぬ人が沢山いるこの世界で、きっと僕はとても恵まれているんだろう。

 焦らなくても普通に生きて、普通に死ねるはずなのに––––––––


 何かしないとという焦燥感が、何故だかずっと心に突き刺さっている。


 今日は、その感覚がいつもより強くて。

 なんとなく、書斎へと駆け出した。


 * * *


 アルフレッド家。

 直近百年で一気に貴族階級へと上り詰めた、割とすごい家である。

 ……と、まだ幼いノベルは勘違いしていた。

 そう教育されてきたので仕方が無い事ではあるし、実際すごい事に違いは無いのだが……まあ、大概碌でもない連中だ。


 この世界の戦争は、百年前に変わった。

 才能ある魔術師にしか出来なかった大量殺人、それを可能とする物質が発見された事によって。


 碧色火薬へきしょくかやくと名付けられたソレは、魔術師でなくとも扱えるレベルのごく少量の魔力マナであっても反応し、大気中のマナを燃やしながら爆発する。

 まだまだ剣による白兵戦が主流だった世界に、突如として誰でも使える超高威力な手榴弾が出て来てしまったのだ。


 そして、そんな危険物質を世界中に売り捌いたのが、悪名高きアルフレッド家である。

 それだけなら、精々死の商人と呼ばれる程度で済んだだろうが……その上、売上を伸ばす為だけに戦争を起こしているのだから手に負えない。


「魔道書、魔道書……うーん、すでに習った程度のやつか、下手に読んだら死にそうなのばっかり……」

「やはり。ここにおられましたか、ノベル様」

「爺や……何かありましたか?どうせ、朝食の席には父上も母上も居ないのでしょう?なら、僕一人居なくても問題ない筈です」

「その理屈はどうかと思いますが、今は良いでしょう。ランツェ様に、貴方を呼んでこいと申し付けられまして。この家の武器庫で何かしたいらしく……如何でしょうか」

「兄上が僕を?珍しいですね。それに武器庫だなんて、危険な……いや、そのような企みを諌めるのが爺やの仕事でしょう!?まったく……」


 一切気は乗らないが、わざわざ僕を指名した以上は何か事情があるのだろう。

 何も知らずに断って、後で後悔するのも勿体無い。

 今日は書斎で一日を過ごそうと思っていた矢先の事なので、ほんっとうに気は乗らないけど!


「仕方……ないですね。爺や、案内してください」

「承知しました」


 書斎から出て、爺やと二人で静かな廊下を進む。


 いつもと何も変わらない日常が、せめてほんの少しだけ刺激的になりますように。

 今日の予定を崩されたんだし、そのくらい願ってもばちは当たらない……と、思いたいところだ。



 

   


 

 

 


 


 

 

 


 

 

 




 

 

  

 


 


 


 

 

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