第20話 これは全て二人のためだ


「ソレイユは、無理をしてないかしら。やっぱり、あの男・・・を信用してはいけないと思うの」

 バーバラは、小さくなりもう見えないソレイユの背中を見つめがら、自分の旦那にそう言葉をかける。しかし、言葉を掛けられた店長は、ただただ静かに黙ることしかできなかった。




 そんな二人の心配をよそに、ソレイユは四駆車を限界速度で飛ばしていた。四駆車の後ろには、ドラゴン運搬用荷台がジョイントで繋がっている。白い煙はその箱にそうように天へと登っていく。

 ガタガタと揺れる山道を下り、森を走り抜けた先は、広大な草原。そこには、朽ち果てた線路と、苔や植物に覆われた列車の残骸が散らばっていた。

 ここは、三年前にソレイユが襲撃された場所。


 所々地面が剥き出しなっている箇所があり、特に被害が大きいところは綺麗な円の形で残っている。

 何度見ても気分が悪い場所だ。実は襲撃された翌日に、ソレイユはラブリィちゃんとともにこの場所へと戻ってきていた。その時はまさに地獄のような光景だった。魔物の死骸は処理されていたが、英雄の魔法によってえぐり取られた部分は生々しく。残った車両には、幾多の死体や肉片が転がっていた。


 余りの光景に、ソレイユは思わず胃の中のものを地面へと吐き戻してしまった。

「大丈夫かい、お姫様」

 そんな彼女を優しく介抱してくれるラブリィちゃんに、またも惚れ直してしまったのを思い出す。


 しかし、それにしてもここからの眺めは相変わらず最悪だ。顔をぐっと歪めたソレイユは四駆車を走らせながら、ちらりと視線を右横へと向ける。その先には、国の中央にある英雄学園のシンボルである剣の形をした塔が見えた。


 あそこは、勇者の生まれ故郷に出来た英雄学園。主に勇者候補生が多く集まる場所だ。


 ソレイユにとっては、思い出すのも嫌な場所の一つで、いつか絶対にこの手で消し去ろうと思ってる場所でもある。

 どうやって、消そうか。そう考えていると、ふとソレイユの頭の中で一つの案が浮かんだ。


「それはいいわね、二つ・・も始末できるわ」

 ケッケッケッと笑いながら、四駆車を巧みに操り、アタノールへと一目散に帰っていく。



 日がすっかり落ちた頃、やっとアタノールに到着した。勿論、街の中では何人かやばいのに絡まれかけたが、ソレイユはアクセル全開で躊躇なくふっとばした。


 そして、店の隣のガレージに車を止めて、ドラゴンの箱を担ぎ上げると、そのまま店の通用口を通っていく。


「あっ、オーナーお帰りなさいませ!」

 お店に入ると、料理長であるアトラが、材料の残数を数える作業、いわゆる棚卸しを行っていた。帳簿を持ちながら丁寧に作業していたのか、少しばかりへとへとになりながらも、ソレイユの方へと向かってきた。


「ただいま。料理長、このドラゴンの処理お願い。あ、でも、ドラゴンの血はボトルのまま、私の部屋においておいて」

「ドラゴン! 獲れたんですね! 棚卸しもこの確認すれば終わりなので、やっておきます。革はいつも通り、服屋に?」

「まぁね。革はそうね、いつも通り」

「はい、わかりました」

「ありがとう、頼りにしてるわ」

 既に何度もドラゴンを調理しているため、アトラに任せておけば、綺麗にまるごと処理されるだろう。ソレイユは安心したのか、足取り軽く階段を駆け上がる。

 そして、三階のバル・ガラクタにあるあの席へと向かう。


「ただいま、ラブリィちゃん! 遅くなってごめんなさい!」

「お帰り、お姫ちゃま。俺お腹すいちゃった」

 ピンクのソファに座るラブリィちゃんに、ソレイユは一目散に謝った。


「すぐに作るわね! 牛のステーキと、マッシュポテトなら、すぐだと思うの!」

「スープもほしいな」

「レタスとコーンのトマトスープ。すぐに作るから!」

 わがままな要求も嬉しいのか、ソレイユは頭の中でメニューを組み立てる。

 しかし、彼女は忘れていたのだ。

 今から料理を作るのに食材を使ったら、アトラが棚卸しした結果がズレてしまうことを。

 と言っても、そんなことは二人に関係はない。料理を一緒に食べる二人は、楽しそうに未来について談笑していた。



 このニ日後、無事にバル・ガラクタ『吸血鬼の宴』が開催され、メインディッシュである『若き闇の眷属仔ドラゴンのステーキ〜滴る血潮のソースを添えて〜』は大好評。ラブリィちゃんも大満足したらしく、全て大成功で終わった。



 ちなみに、翌週にとある英雄学園にて、鳥人によって届けられた荷物が爆発する事件が起きた。爆発による被害者はいないが、爆発した中身がドラゴンの血だった為に、沢山の魔物たちが呼び寄せられてしまった。

 かなりの損害や死傷者が出たらしく、今英雄たちがその荷物の送り主を探しているそうだ。

 しかし、残念なことに、それを運んだ鳥人は魔物に食われてしまって、有力な手掛かりがない。捜査は困難を極めているそうだ。





「あーそうそう、お姫ちゃま。今度、銅爛石コパラン製音声通信機が出るんだよ。すごい新製品だよ。それに宅配組合も最近出来たんだ」

「それは、すごいわ!」

「でしょ。だから、あのも我々の伝言役から開放されるはずだってね」

「なんて喜ばしいの!」

「今度は俺と同業になってしまうのかな……ほら、彼は口だけは達者だから!そうしたら、俺が困っちゃぁうなぁ〜」

「実は私良いこと思いついたの、ラブリィちゃんのお耳を貸して」

「なんだい、なんだい……うん、うん、おっ!それは最高だよ、お姫ちゃま!」

「でしょ!じゃあ問題は解決ね!」

「じゃあ、笑うしかないね」



「「アハハハハハッ!」」

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