幕間 とある古びた日記

第21話 新入生は憤怒した

◯月◯日

 もう、英雄学園の入学試験間近だ。

 他の受験生たちが、勇者村の宿に到着してきた。自分が住む街にやってきた人達を見るたびに、「こいつらは魔王を倒す気があるのか」と本当に思ってしまう。

 案の定、勇者村は田舎だと笑っている貴族たちや、豪族の息子たちばかり。

 英雄学園を卒業という肩書だけが欲しい無能達め。

 こんなやつらと、魔王を倒すためのチームを組むなんて考えたくない。

 本当になんて、つまらない日々だ。

 以上、おやすみ。


◯月◯日

 あと少しで、英雄学園の入学試験だ。

 休みだからと学園から帰ってきた兄弟たちと手合わせした。勿論私が全て勝った。兄たちは、またかあとへらへらと笑っていた。

 魔王を倒す気があるのか! と怒れば、はいはいと流される。本当に腹ただしい。

 そんな兄たちが英雄学園では各学年の首席。全く信じられない。

 小さい頃は、自分より強い人に出会えると思っていたのに、今は少しも期待していない。


 それ以外は特になし、つまらない日々だ。以上、おやすみ。


◯月◯日

 明後日は、英雄学園の入学試験だ。

 試験問題を通しで確認し、模擬試合もした。

 特になし、つまらない日々だ。以上、おやすみ。


◯月◯日

 明日は、英雄学園の入学試験だ。

 試験は明日のため、確認と休息を取った。

 特になし、つまらない日々だ。以上、おやすみ。


◯月◯日

 今日は、勇者村にある英雄学園の入学試験だった。

 門まで着いてきた母上や父上は、「勇者の子孫であるお前は兄たちに似て、見た目が良いから入れるだろう」と皮肉げに言っていた。

 勇者を目指すのに容姿は要らないだろうと思うが、どうやら先祖の思う通りではないと、お祖父様や伯父上も嘆いていた。

 第一次試験も、試験担当の教員たちが「勇者の子孫か」「子供剣技大会の実績も」「見た目も華がある」などぐじぐじと言っていた。

 私は呆れて何も話さなかった。

「魔王を倒す理由は、それが使命だからですよね。だって、子孫ですし」

 そう言われて、たしかにそうだから頷いたくらい。


 それよりもだ、私は今日見つけたのだ。

 第二次試験である、模擬試合。


 私は、人生で初めて負けたのだ。

 勇者流の剣技を極めた私を、相手は姑息な手を使いつつも、完璧に私を地面に伏せさせたのだ。

 砂かけ、急所狙い、技名を言わずに攻撃。

 最悪だ、礼儀もない。

 ただ、どの動きも意表を突くような予想外な動きばかり。私は翻弄されっぱなしだった。

 しかも、容赦なく試合用の木剣を身体の柔らかい所に叩き込んでくる。

 お陰で、顔も体も痣だらけになってしまった。


 それでも見上げた彼女の鋭い目と、訓練を重ねた傷だらけの手が、頭に焼き付いて離れない。

 名前は「十三番・レアーレ」。

 彼女はあの有名な三位商人の養子。実際の身分としては四位だろう。十三番という名前は、まるで家畜や囚人のようだ。いや、実際にそういう扱いなのだろう。


 レアーレ家は地方の大商人であり、下手な貴族よりも金を持っていることで有名だ。

 しかし、それよりも二位に成るためには手段を選ばない、外道としてのほうが私達には馴染み深い。買ってきた子供たちを使い、英雄にすることで二位になろうとしている。これは英雄学園にいるものたちなら、全員知っている話だ。


 特に勇者村を守る我が家にとっては、毎年村に来るため、正直忌み嫌っている。

 正義感が強い兄たちも、以前にレアーレが今なお行っている所業を知り、「レアーレは子を攫う酷い奴だ」と怒り狂っていた。


 私が人生で初めて負けた相手が、そんなレアーレの養子だったのだ。


 床に伏して動けない私を蹴りで転がし、「起きて、終わったんだからそこにいたら邪魔でしょ」と吐き捨てたのだ。

 六時間以上試合をしていたのに、彼女は息が少し荒いくらいだ。


 屈辱だ、敗北だ、悔しい、悔しい、悔しい!

 けど、それ以上に嬉しさが増す。

 やっと、私が倒すべき人が魔王以外出てきたのだ。いつか彼女を倒すという夢ができた。

 そして、彼女とチームを組み、魔王を倒すという夢も。


 初めて、英雄学園に入ることが楽しみになった。

 私を倒した彼女は、素晴らしい勇者になるに違いない。

 チームを組んだ私達の名前は、勇者を倒した二人として未来永劫に残る。なんて、素晴らしいんだ。


 楽しみだ、彼女に会えるのが楽しみで、この感動を日記に記す。

 親から命令されただけで意味もない行為と思っていた日記だが、初めて役割を果たしたような気がする。


 ああ、早く彼女に会いたい。以上、夢の中で彼女を倒す方法を考える。

 おやすみ。





◯月◯日

 なんで、なんでいないんだ。

 入学式、全クラスを探したのに彼女はいない。

 教員に問い詰めたら、「彼女は不合格ですよ」とサラリと返された。

 なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ!

 なら、負けた私は何故ここにいる。

 勝った彼女がいないなんて、おかしいすぎる。

 校長まで聞きに行くと、校長からは「多分、面接が良くなかったのでしょう」と困り顔で言われた。


 面接?

 未だに全体数が把握できていない魔王を倒しに行くのが、学園の目的なのに。

 強さより面接のが大事なのか!?


 意味がわからない。どういうことだ。

 この学園は一体何がしたいんだ!

 そして、あの傷だらけの彼女は、一体どこにいるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る