EP2.バル・ガラクタは笑う

第5話 錬金の街・アタノール

 列車が襲撃されてから、三年の月日が経った。

 錬金の街・アタノールは、急速な発展を遂げている。

 新エネルギーである金爛石グムラン銅爛石コパランを使った沢山の技術製品が、技術者たちの手によって生まれた。

 道を通り過ぎていく蒸気を出しながら進む乗り物や、色々な店や家に置かれた便利な機械は、様々な産業を発展させていく。


 勿論ゴミ火山と言われた鉱山には採掘場が沢山出来ており、鉱石を加工や機械を制作する工場も多く乱立していた。その象徴とも言えるべき煙突が天に向けて伸び、その先からは濃灰の煙が絶え間なく排出されていた。

 硫黄の匂い、苦みのある薬品の匂い、何かが焼け焦げる匂い、どこかで漏れ出したオイルの匂い。色んな匂いが煙で混じり合って、酷い悪臭だと最初は誰もが思うが、慣れてしまえばそれまでだ。


 しかし、この成長に、ついていけないものがあった。

 治安である。


 窃盗、喧嘩、暴行、殺人すらも、民衆たちにとってはいつもの光景だ。

 なにせ、アタノールにはうっすらとした法律はあっても、取り締まる人たちが足りていない。各々の自己防衛と、一部の錬金に成功した強力な組織の暴力的な統治で成り立っていた。


 そんなアタノールの隅に、一際目立つ円柱型の建物があった。

 むき出しの鉄を継ぎ接ぎしたような壁は、鈍く銀鼠色に光っている。更にその建物の天辺からは、ネジ歯車パイプなどの貴金属のガラクタを積み上げたモニュメントが、天高く聳えていた。


 このデタラメのような建物には、街一番の店が二つ縦に並んでいる。

 一階には、庶民的レストラン『ガラガラ食堂』、三階には高級レストラン『バル・ガラクタ』。

 階層による客層理由を行ったことで、人気を手に入れることになった店だ。

 そして、二つのレストランのオーナーは、ソレイユ・ドンローザという女性だった。



「ちょっとぉ、料理長!」

 レストランの厨房で、一人の女性が金切り声を上げた。

 きりりと眉を釣り上げ、鬼の形相をしている女性。あからさまな厚化粧に、ミニ丈で際どいメイド服にも関わらず、どんどんっと大股で歩き一人の男に詰め寄った。


「い、いかがしましたか」

「この盛り付けは何!? この部分が他のとズレてるわよ! 貴方の目、ちゃんとついているの?」

 ローズブラウンの可愛らしいツインテールを振り乱しながら、料理長をひたすら言葉で詰める。彼女の美しく長く金細工のされた爪の先。示された皿をよく見ると、たしかにその皿だけ緑色のソースで引いた線が一部歪んでいた。



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