第6話 開店準備


「も、申し訳ありません……」

「盛りつけの粗で客に怒られるのはホール、そして、最終的に怒られるのはオーナーの私なの。しっかり目を光らせなさい!」

「はい、オーナー!」

「わかったら、さっさと動きなさい!」


 あまりにも激昂した女性ことオーナーに、熊のようにガタイの良い料理長は、ぴんっと背中を張った。厨房の人間のコックたちは、様々な銅爛石コパラン製の調理機械を使って料理を作りつつ、料理長へと憐れみの視線を向ける。


 オーナーは、今度は支給係たちの方を向いた。支給係の女性たちは小花柄の刺繍が施された露出度の高い服を着ている。胸はこぼれんばかり強調し、太もももほぼ剥き出しだ。

 また、男たちの服は裸サスペンダーの短パンに、首には赤いスカーフ。緑色のハットには、雄雉の羽が施されていた。


 男女関係なく皆しっかりと化粧をしており、それぞれの肉体美を思う存分アピールした服であった。


「うんうん、今日もパーペキな服装だわ! やっぱり、これ考えた私、天才じゃなぁい」

 先程のキーキー声とは違い、鼻にかかるような甘ったる声で、満足そうにニィッと笑いながら自画賛をする。支給係はいつものことなのか、そんなオーナーを微笑ましく見ていた。


「オーナー、直しました! 確認をお願いします!」

 料理長の声掛けにオーナーは、また皿のチェックをする。先程盛り付けを失敗したソースの線も、無事に綺麗に直されていた。

「良いわね!」

 今度こそ、迎える準備ができた。

 彼女としては、今日本当はの来店予定がないので、少しばかり残念な気持ちではあるが。


「ウェルカム用のガランジャシャンパンの準備もして、あと、うちのワインもしっかり宣伝してちょうだいね!」

「「はい! オーナー!」」

「では、開店よ! 二日間張り切っていくわよ〜!」

 ソレイユの言葉に合わせて、キッチンにいた下働きのコックが、天井からぶら下がった鎖を下に引っ張る。それがカチカチと歯車が回る音がして、天井の向こう側、大きなモニュメントの方から大きな蒸気音が聞こえる。


 それがこのバル・ガラクタがオープンする時の合図。三階へと続く道にかかっていた看板が、案内係によってクローズからオープンへと変わる。


「大変おまたせ致しました。これよりご案内します。ようこそ、バル・ガラクタへ!」

 案内係の男が待っていた客達に挨拶をする。遂にこの時が来たか。大勢の客がわくわくを胸に案内係によって、席へと案内されていく。


「今日も可愛いねーちゃんはいるんだろぅなぁ!」

「ちょっと邪魔よ! 私が先に行くんだから!」

「そっちこそ退きなさいよ! 私が先よ!」

「今日はどんな料理とショーなんだろう」

「初めてガラクタの料理を食べれる〜!」

「どんなショーがあるのかしら!」

 身なりだけは整えた客が、それぞれの思いを胸に順番に中へと通された。


「え、この服は駄目なのか」

「はい。なので、こちらへ」

 その中にもいる汚い作業着や普段着の人は、店の前にある貸衣装屋へと連れてかれていく。

 この街でドレスコードが唯一あるレストランとしても、このバル・ガラクタは有名なのだ。


 喧騒に溢れた客たちを、ソレイユは料理場にはある銅爛石コパラン製監視鏡を使って見ていた。監視鏡は複数枚貼られており、厨房からレストランの殆どを見れるようになっていた。


 うん、今日もいっぱいお客が居るわね。

 ソレイユはうきうきと頭の中で売上の皮算用をしながら、客の顔を一人一人見ていた。今日も儲かるぞと上機嫌だったが、とある一組の客が監視鏡に映った瞬間、機嫌がストンと地の底へと堕ちていく。


「なんで」

 ぽつりと溢れるように呟いた声は、まるで地を這うような低さ。

 一人はと常々思ってる人だったが、もう一人の姿は寧ろ最もである。

 彼女のたまたま後ろにいた熊のような料理長が、恐ろしさのあまり震え上がるほどであった。


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