幕間 とある碑石の昔話

第4話 勇者は泣いた


 昔々、あるところに、勇敢で心優しい少年がいました。


 少年は平和な村で家族仲良く暮らしていました。

 しかし、ある日、魔王が現れ、瞬きの間に少年以外の村人を消してしまいました。


 少年はたまたま村はずれの森で、ご飯にする獣を狩っていたため、村に帰って呆然としてしまいます。

 家という家は焼け、家族も、友達も、何処にも見当たらなかったのです。


 大声で探す少年の視界に、一人の真っ黒い男の姿が見えました。顔色は悪く、眼光は鋭く、険しい顔は少年を震え上がらせるのには十二分でした。

 その恐ろしい姿から、彼が昔から恐れられている魔王だと少年は気づきました。


 少年は魔王に向かって、殴りかかりますが、魔王はひらりと躱し、少年の前から消えていきました。


 そうして、少年は一人ぼっちになってしまいました。悲しくて、辛くて、寂しくて。

 それは次第に怒りとなり、少年は魔王を倒すことを決意しました。


 しかし、勿論一人では魔王に勝つことはできません。

 仲間を探す旅に出ることにしました。

 旅の途中で、さまざまな困難に立ち向かいながらも、一人また、一人と仲間を見つけることができました。


 最初に出会ったのは、南の島で鍛錬していた強い騎士でした。

 騎士は少年に剣の使い方を教え、仲間として加わることになりました。


 次に出会ったのは、西の暗い森に住んでいた賢い魔法使いでした。

 魔法使いは少年に魔法の力を教え、仲間として加わることになりました。


 次に出会ったのは、北の神殿で祈りを捧げていた癒しの力を持つ聖女でした。

 聖女は少年の傷を瞬く間に癒やし、仲間に加わりました。


 最後に出会ったのは、東の遺跡に居た百戦錬磨の冒険者でした。

 冒険者は少年に戦うために必要な武器を与え、仲間に加わりました。



 少年は四人の仲間たちと共に、魔王の居場所を探し、国中を駆け巡りました。


 その時、中央の王が住む城に、一人の魔王が現れたというのです。

 少年は王が危ないと、急いで王都に向かいます。


 城には、まさにあの時少年が出会った魔王が待ち構えていました。

 しかし、少年たちは怯みません。

 彼らには、強さや賢さだけではなく、伝説の宝物があったのです。


 騎士の腕には、忍耐の盾。

 魔法使いの身体には、勤勉のローブ。

 聖女の頭には、純潔の髪飾り。

 冒険者の背中には、節制の鞄。


 少年の手には、慈善の剣が握られていました。


 勢いづいた少年たちは、困難な戦いを繰り広げながらも、仲間の力を信じて立ち向かいました。


 そして、少年は遂に魔王の心臓へと慈善の剣を突き刺すことが出来ました。

 魔王は、刺された胸を押さえながらこう言います。


「私を倒しても、それは魔王の一人にしか過ぎぬ」

 魔王はそう言って崩れ落ち、最後には塵一つ残さず、消えてしまいました。


 国中は魔王を倒したことに喜び、盛大に少年たちを称えました。


 そして、彼らのことを英雄と呼び、肩書の無かった少年は、勇ましい者こと「勇者」と呼ばれるようになりました。


 勇者は、こう言い残します。


「私達のような英雄がもっと居れば、残りの魔王も倒せる」と。


 そうして、勇者率いる英雄たちは願い込めて、とある大きな学園を各地に作ります。


『英雄学園』


 今も東西南北と少年の村の跡地にある学園には、英雄のそれぞれの宝物が眠り、卒業生たちには宝物のレプリカが渡されるのです。


 いつの日にか、魔王を滅ぼす。その日を願って。

 

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