猛毒喰らいのダンジョン美食探求記~俺はただ趣味を楽しみつつ妹の大学費を稼ぎたいだけなのに、最強の狐耳美少女に懐かれたりする話~
第43話 約束守るって言ったよね? 言ってない? フーンそういうこと言っちゃうんだ
第43話 約束守るって言ったよね? 言ってない? フーンそういうこと言っちゃうんだ
「二匹目のクソクラゲがいるなんて聞いてねえぞ……!」
こいつダンジョンボスじゃねえのかよ!
ボスが複数はルールで禁止っスよね!?
ゆっくりとこちらへ移動を始める二匹目。
俺が切りかかった一匹目と異なりまだ臨戦態勢になっていないことだけは幸いだが、どちらにせよ迫る未来は変わりはしない。
アイツと接触するまで残り何秒だ?
五秒? いや、それ未満か?
「クソァッ! どうしろってんだよ!」
臆せば追いつかれる。
されど進み続けた先に道はない。
前門の
どうにかして後ろか前にいる奴を切り裂くか?
無理だ。
デカすぎる都合一撃で真っ二つは不可能、しかし接近戦はあまりにこちらの分が悪い。
だが俺の使える遠距離技は投石か水鉄砲じみた魔法だけ。魔法は言うまでもなく、投石だってあのプルプルボディには効果が薄いだろう。
死。
絶対的な死。
上手く部屋を回って衝突を避ける? いいや、そんなんんしたってちょっと生き延びる時間が増えるだけだ。
二匹に増えた追跡者に勝てるわけがない。
「――違う!」
違う、違うだろ。
諦める理由を探してんじゃねえ。俺は生き延びる手段を探してたんじゃねえか。
俺にはダチとの約束がある。
それに妹の学費もある。
ついでに何か月か滞納してる金もある。
刺胞動物如きに殺されてる余裕はねえ!
考えろ、今打てる最高の一手。あるだろ、なにか必ず……!
「――これだ」
瞬間、脳神経に電撃走る。
待て、俺に倒す手段はない。
だがいるじゃねえか。俺じゃなくとも、このデカブツを殺せる奴が。
一段階走る速度が上がる。進路をさらに調整、まっすぐに目前の怪物へと俺は駆け出した。
それを最後の抵抗と捉えたのか、後ろを付けるクソクラゲも一層速度を上がる。
チャンスは一度きり。限界まで近づいたその瞬間こそが最大のチャンスであり、逃せば挟みつぶされる。
いくぜ。
「う
お
お
お
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉっ、右に緊急回避ィっ!!?」
目前へ迫る怪物。
その皴の一辺すら見えるほどまで近づいた俺は、全身全霊をもって真横へととびぬけた!
地面を転がる俺の真横、爆風が吹き荒れる。
二つの膨大な体積、そして質量が見事な正面衝突をしたのだ。
もみくちゃに一つになった怪物が互いの衝撃に耐えきれず、その巨大な傘の一部が大きくはじけ飛び、周囲へと散らばった。
「――バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」
大成功、そう言っていいだろう。
様子を見てみれば連中、互いの触手が全身に絡んでしまっている。
刺胞は刺激に反応する。あそこまで絡んでしまえばおそらく、互いに己の意志では操れない刺胞の射出によって、動き出した瞬間全身を貫かれて絶命するはずだ。
「はぁ……っ! はぁ……っ!ふぃぃ~、助かったァ!」
気が飛びそうだ。
こんだけ走り続けたのは一体いつぶりだったか。少なくとも間違いなくいえることは、一日の推奨歩数程度ならはるかに上回っているということ。
こんな生活毎日してたら超健康体になっちまう、コーラとハンバーガーとフライドチキンでバランスを取りてえ気分だ。
冷え切った床に刀、そして四肢を投げだし荒ぶる息を必死に落ち着ける。
来た道は千切れた触手の痕跡がなかった。
おそらくもう一匹のクソクラゲは、反対側の通路からやってきたのだろう。
ならば他のモンスターもおそらく食い尽くしてきたはず、しばらくは休んでいても襲われる危険性はない。
「ぎ、ぃっ!?」
不意に、脇へ激烈な痛みが走った。
「うっ、そだろお前」
一本の触手を静かにこちらへ這い寄らせ、俺へと触れさせたのだ。
ばっくりと空いた傷口に一本の柔らかな棘が突き刺さっている。
刺胞。
本来の水母ならば目に見えぬほどの小さな棘が、モンスターになるとこうもおぞましいサイズになるというのか。
肉の裂けた鮮烈な痛みとはまた別の、神経をブチブチと侵食し潰される、おぞましい鈍痛が傷口から広がっていく。
飛び起きた先、更に巨大な触手が体へと襲い掛かる。
どうにか回避しようと逃げまどうも遅い、触れた指先や肩、足へと刺胞が突き刺さっていく。
痛みと混乱、恐怖に冷や汗が噴き出した。
「生きて、やがんのかよ」
蠢き、犇めき、揺蕩う。
衝突によって大きく吹き飛んだはずの肉体、しかし明らかに先ほどより傷口がふさがっている。
再生や再集合、ではない。
体積がずいぶんと減っているし、おそらく傷口回りを寄せ集めてふさいだ、といった方が正しい。
それでもなお、そう長い時間をかけずとも、再び俺を追うには十分の姿を取り戻すだろう。
「あ゛ぁー……くそっ」
そして何より、俺の一番の目論見が崩れてしまった。
触手が絡み合い全身に張り付くことで、互いの体を刺胞で貫いてくれると俺は予想していた。
だが現実はどうだ。確かに触手はまだ絡み合っている、けれども刺胞が射出された気配はどこにもない。
本来射出されているのなら周囲に刺胞の棘が散らばっているはずだし、互いの体を穴ぼこだらけにしているはず。
つまるところやつらの刺胞は、同じようなクラゲの体には反応しないのだ。
思えば当然だ。あれだけ長い触手、ふとした拍子に自分の体へ巻き付くこともあるだろう。
その際に自分自身を貫いてしまっては世話がない。
いったいどういう仕組みかまでは分からない。
しかしゴブリンや人間、あるいは蜘蛛の肌と、自分自身を判別する何らかの手段を持ち合わせている、というわけだ。
「……『水よ』」
口へ毒消しを二錠。
生み出した水を口元へ近づけ飲み込み、余った分を奴らへと打ち出す。
しかし所詮は大した速度のない魔法。柔らかな体にぶち当たったそれは、無残にしぶきを立てて一体へと広がり、乾ききった石造りの地面へと吸い込まれていった。
「効くわきゃ、ねえよな」
もう一発放ってやろうかと手を伸ばしかけるも、ため息をついて手を下す。
取り落としたリュックを開くも、中にいくつかある小瓶は全て空。
どれも何かしらのモンスターの毒を入れておいたのだが、ツムギを探す道で全部使い切ってしまった。
まああのクソデカイ体、しかも二匹もいる。こんな小瓶にほんのちょっとの毒など、全くもって効きはしないだろうが。
「くそっ、いってぇなぁ……」
傷口には敢えて視線を向けず呟く、
ちょっと油断したらこれだ。
ああ怖え、今俺の傷口どうなってんだ? 絶対グロいわ。
こうも怪我を負ってしまえば逃げるのも叶わない。
相手は万全な俺が全力疾走してようやくトントンといった速度だ。多少小さくなったからと言って、足や脇まで怪我した俺じゃどうしようもないだろう。
「――約束を反故にする気かい、シキミ君!」
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