第29話 あまりにモテすぎる男はつらいよ
ミヤ様、もといツムギと出会ってから一週間が経った。
彼もなんだかんだで話し相手を求めていたらしく、ダンジョンに潜る前や、戦った後の探協でちょいちょい見かけては立ち話程度はするようになった。
特に探協はツムギが他のメンバーを帰らして一人で換金しているらしく、俺からしてもかなり話しかけやすい場所となっている。
曰く、みな悪い人じゃないがどうにも疲れてしまうらしい。
最初に出会った時も思ったが、彼も彼なりの苦労がずいぶんとあるようだ。
「え、キミレベルもう15なのかい? ソロで?」
「ああ、そうだけど」
「す、凄まじいね……パーティの人数が少ない方がレベルの上りが早いとは聞いていたけど」
それは初耳だった。
とはいえ探訪者ならそう珍しい話ではない。
ダンジョンに関してはいまだに情報が錯綜しており、表立って公表される話はどれも確証が取れた物ばかり。
探訪者間でうわさされている話はその数十倍はあり、その中には真実に迫っているものから、とち狂った大ぼらまで玉石混淆だ。
「ソロはやっぱり危険だからさ、これも所詮噂に過ぎないけれどね。どうやら君の話を聞いていると本当らしい」
「へえ」
確かツムギは以前出会った時、レベル18だと言っていたはず。
二か月間順調に戦ってきた彼でそのレベルだと考えると、確かにこの地下迷宮に潜って一週間で15に到達した俺は、かなりハイスペースだ。
はたしてソロだからレベルの上昇が早いのか、それとも窒息気絶暗殺術という邪悪な戦術のおかげで早いのかはちょっとわからないが、まあともかくとしてソロでも今のところは順調であることは間違いない。
「そういやツムギは第二階層にいつ頃入ったんだ? レベルも上がってきたし一階層はやっぱり稼ぎが悪くてさ」
丁度話がいい流れになってきたので、実のところ今日一番聞きたかった話へと持っていく。
この一週間、明朝から俺はダンジョンに潜るようになった。
というのも、このサカウラ地下迷宮の一階層はトライしやすい分ゴブリンが狩りつくされていて、朝方人がいないタイミングで潜っても一日に一万とちょいしか稼げないからだ。
いきなり二階に潜ることはさすがに避けていたとはいえ、これではスズの大学費がたまらない。
訪れてからレベルが5上昇したこの節目で、そろそろ二階層に足を運ぶべきではないか、と俺は考えていた。
そして、かつてならとりあえず踏み込んで危険に直面していたかもしれないが、今の俺には頼れる友人兼、先に地下迷宮をしゃぶりつくしているツムギという先輩がいる。
これから情報を聞き出さない手はない、というわけ。
「ああ、ボクたちは君と同じレベル15になったあたりだったかな。確かに丁度いいレベルだよね」
俺の言葉に笑顔でツムギが頷いた。
彼からの上々な反応に俺も柏手を打つ。探訪者は先行きが見えない戦いの日々だが、こうやって先人からの保証が得られると中々に心強いものだ。
「やっぱりそう思うか! もし潜る場合、何か気を付けることとかあるか?」
「ふむ、気を付けることか……」
腕を組み、細く白い指先を顎へと当て考え込む彼。
「敵の強さはそう変わらないし、一階層で苦戦してないキミなら大丈夫じゃないかな。ちょっと数が増えるくらいだよ」
「そっかそっか! なら俺明日ちょっと二階層挑戦してみるわ!」
ほっと胸をなでおろす俺。
曰く二階層の敵の強さはそう変わらないらしい。
しいて言えば敵の種類が増えたりなどで戸惑うこともあったが、ツムギたちは二階層に上がってからというもの、稼ぎの悪い一階層に留まることはやめてしまったとのこと。
それを聞いて安堵した俺は、安心して明日二階層へ潜ることに決めた。
俺は、いや、俺とツムギはこの時まだ気づいていなかった。
あくまで戦った感想はパーティとしてのものであり、ソロの場合は前提が全く違うということを。
.
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「うああああちくしょおおお騙されたああああああああああ!!!!!!」
無数の足音が俺の後ろをついて回る!
それはどれだけ走ろうとも決して消えず、それどころか移動するほどに俺やモンスターが生み出す音につられ、むしろどんどんと増えるばかり。
最悪のループが生まれていた。
「ツムギいいいいいIあんにゃろおおおお! スズぅ! 助けてえええええ!!!」
確かに敵の強さは変わらなかった!
ああそうさ! ゴブリンは相変わらず出てくるし、確かに俺でも十分対処できる程度だったさ!
でもそれは単体での話だ!
今現在俺は、ゴブリン七匹と人間の頭くらいあるデカい蜘蛛十数匹から鬼ごっこを繰り広げていた。
「めっちゃモンスターの数多いじゃねえか馬鹿野郎!」
なーにが『キミなら大丈夫』だよバカ野郎!
大丈夫じゃありません~~!!! 全然死ねるが!?
「おひょっほう!!?」
後ろから飛んできた粘液が俺の真横にぶち当たり、即座にもうもうと白煙を立てる。
厄介なのがこの粘液で、飛ばしているのはくだんのやたらデカい蜘蛛さんだ。
こいつゴブリンより素早いし壁とかも平然と上ってきては、この酸みたいなやつでスナイプしてくるので、正直めちゃくちゃ厄介この上ない。
クモさんが蜘蛛酸を飛ばしてきておあとがよろしいようで、全然よろしくねえよ馬鹿か?
「〇ァーック!!! 『水よ』ッ! 『水よ』ッ!」
天井へ上り俺へ飛び掛からんとしていた蜘蛛へ、水球をぶつけて叩き落す。
しかしさすがDランクのモンスターだ。そこそこの速度だったはずのそれを受けてもぴんぴんしており、地面に叩きつけられて、直ぐに起き上がりこちらへの追跡を再開した。
そう、一番最悪なのは魔法だ。
この水魔法、ただぶつけるだけだと大したダメージは出ない。
それ故に俺は、相手を窒息させるという最強戦術でモンスターを狩りまわっていたのだが、これには俺に気付かない欠点があった。
対複数においてこの戦術はあまりに無力である、ということだ。
この指輪が操れるのは一つの水球のみ、もう一つその場に出したいなら射出するなり、制御を放置するなりしなくてはならない。
そして二階層からモンスターの数は急激に増す。
正確にはこれが本来のダンジョンにいる量なのだろう、一階層は大概の探訪者が通るため排除されているが。
「なんだよもおおおおおおお!! またかよおおおおおおお!!!」
曲がり角を曲がった先で新たなゴブリンさんが現れた。
横を駆け抜けたと同時、彼が新たに後ろの集団へ加わったことを理解した俺は、たまらず絶叫を零してしまう。
最初は二匹だけだった。
ゴブリンと蜘蛛が共闘してきたので、驚きながらもちょっと距離を取りつつ倒すつもりだったのだ。
しかしそれが失敗だった。
距離を取る中で新たにゴブリンが二匹増え、逃走していたらこんな地獄になってしまった。
もし俺がパーティを組んでいたら、最初の二匹は容易く排除し、こんな大行列を作ることなどなく済んだだろう。
こんな状態で他人と出会ってしまったら最悪だ。
大量のモンスターを擦り付ける羽目になり、最悪俺のせいでその人が死にかねない。
走り続けた先、俺は一層細い路地を見つけた。
もしあの大軍を迎え撃つとしたら、おそらくチャンスはここしかない。
広い場所で迎えうてば瞬く間に取り囲まれて死にかねない、敵の移動に制限をかけられる細い路地を俺はずっと探していた。
「あーもう! もう! もおおお! かかってこいやオラァァッ!!!」
薄暗いダンジョン内で、俺が抜き取った黒鉄の刃がギラリと輝く。
これ以上膨れ上がる前にヤルしかねえ!
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