第5話 俺がスライム界のキングだ!!!!
「なんでだ……?」
なぜスライムは死んだ?
何の攻撃も受けていないのになんで死んだ?
まさか心臓発作や脳梗塞を起こしたわけじゃあるまい。そもそもそんな臓器、この透明プルプルボディにしまわれているはずもないし。
今もなお迫りくる無数の粘液の中、片手で口を覆い立ち尽くす。
スライム。
世界各地の低レベルなダンジョンに現れ、見た目は透明な粘液におあつらえ向きの丸い物体がぷかぷか浮かんでいる。
斬撃などで核を傷つければ倒せる、探訪者なら一度は倒すちょっとだけ危険なモンスター。
俺の、いや、下手すれば世界中の人々のイメージはこれだろう。
でもよくよく考えれば不思議な話だ。
なぜ核を傷つければ倒れるんだ? なんで傷つけられると砂みたいになるんだ?
きっと俺以外にも考えた奴はいる、でも深堀はされなかった。
マッチを擦れば火が付くように、スイッチを押せば扇風機が回りだすように、一度定着した常識をわざわざ分析する必要なんて、大半の人間には必要がないから。
しかし、俺は既にその理由に見当がついていた。
「この砂、もしかしてっ、全部ハッピーパウダーか……?」
指の隙間から独り言が滑り落ちる。
確証はなかったが確信があった。
瞬く間に消えて行ってしまう粉へ俺は導かれるように手を伸ばし、つかみ上げ――一気に鼻から吸い込む!
「――お、おおおおおおおお!!!!」
瞬間、ビキビキと脳を流れていた血流の音すら聞こえるほどの集中力が沸き上がる。
風を切り裂く草葉のささやき、俺へと這い寄るスライムが押し潰した草の音すらもが実によく聞こえた。
おおおおおおいつもみたいにキマる! これは間違いなくハッピーパウダーだっ!
答えを明かすかのように、突然死したスライムの砂の下からガラス瓶が姿を現した。
そう、先ほどまで俺がスライムの核を入れていた、あのガラス瓶が。
しかしそこにため込んでいたスライム核の粉、そして拾ったばかりのスライムの核はすっかり消え去っている。
傷をつけられなかったため消滅しなかったスライム核、中身のないガラス瓶、そしていつもの魔石をゆっくり拾い上げる。
俺はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
スライムは核を傷つけられることで死んでいたのではない。
外殻に傷がつくことで体液と中心核が触れて連鎖的に反応し、全身がハッピーパウダーになることで、あの砂状の姿へと変わっていたのではないか?
これなら核に攻撃を与えることで倒せることも、そして今目の前でスライムが突然死したことにも理由が付く。
俺は本来内部から起こすべき反応を偶然ながらも、核の粉を表から触れさせたことで外部から起こしたというわけだ。
「おい、おいおい、おいおいおいオイマジかよ」
ガラス瓶の中で
傷一つない綺麗な中心核だ。
しかし蓋を閉め無慈悲にシャカシャカと振り回すと、脆いそれは哀れにも砕け散りいつもの青い粉へと姿を変えてしまった。
「さて、と。問題は……」
足元へとゆっくり粘液を伸ばすスライム。
当然気付いていた俺は、落ち着いて手にしていた瓶の粉を半分ばかり振りかけると――スライムはやはり、先ほどの様に砂粒へと姿を変えて溶けてしまった。
「よし!」
問題は一つだけあった。
もしスライムの核一つではスライムを倒すのに十分な量足りえないとしたら、問題がより複雑になっていただろう。
だが今、たった半分で十分倒せると分かったこの今、すべての問題は解決した。
1、完璧に残った中心核を砕いて粉にする
2、その粉をスライムにぶっかける
3、スライムの体液だけがハッピーパウダーになって死ぬ
4、核には傷がついていないので、完璧に残った核と魔石が残る
5、1に戻る
そう。
今までの地道に殴って倒すなんて行動がバカバカしくなるほどの、いや、それどころか剣で切ることすらくだらなく感じるほどの――
「――これ、もしかして無限ループ行けるんじゃねえの!?」
、超効率的なスライムの狩り方がここに成立した。
胸元から取り出した懐中時計はまだ午後の三時を示している。
スズと約束した門限まで残り三時間、ちょっとした思い付きを試す猶予は十分に残されていた。
◇
あれから何時間が経っただろう。
「あっお客様いらっしゃいませ! 頭ハッピーにしますねー!」
爆速で周囲に集まっていたスライムを殲滅した俺は、この西スライム丘のスライムを全滅させる勢いで粉を振りまいていた。
「お痒いところはございませんかァ!」
振りかける!
「こちら当店自慢のサービスとなっておりますゥ!」
振りかける!!
「皆様
振りかけるゥ!!!
次々にハッピーパウダーへと姿を変えていくスライムたち。
俺がどれだけこのスライムに煮え湯を飲まされてきたか。
最初は飛び散る体液に服を溶かされ、何枚ものシャツを無駄にしてきた。
思い出すも忌々しい探訪者になってから数日の出来事を思い出し、たまらず苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべてしまう。
本来ハッピーパウダーを集める分でもなければ、こんな効率の悪いダンジョンではなく『狂い鳥』などまともなモンスターがいる場所で、普通に木刀をふるって戦っていた。
だが今は違う!
俺は革命的なスライム殲滅方法によって、昨日までとは隔絶された圧倒的殲滅力を手に入れたのだ!
最高の気分だった。
倒したスライムの数が多すぎて、かなり大量のハッピーパウダーを吸い込んでいただけかもしれないが、こんなに気分が良かったのは店を開いて初めてのお客様が来た、あの時くらいだった。
俺は湧き上がる衝動のままに両手を空へと突き上げ声高らかに叫ぶ。
「俺が、俺こそがスライム界のキングだ!!!!」
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