第四十六話 より良き未来のために
ニッグが死亡したその晩。
当然ながらシュメールの社員は皆一様に沈んでいた。しかしそれでも会話は始めなければならないのだ。
このような時口を開くのはやはり、年長のラバサルだった。
「王子候補は全員死亡。これで裏の任務は失敗。エタ。どうする。ここで撤退するか?」
アラッタの防備はいまだ底が知れず、攻略できるめどは立たない。そしてもはや護衛するべき王子はいない。
これ以上の損失を避けるためにウルクに帰還するのは現実的な選択だった。一部の聡い人間はすでに荷造りを始めていることだろう。例え何も得るものがなかったとしてもだらだらと損をするよりもよほど良い。
おそらくこの戦いが長期化すればするほど逃亡する冒険者たちは増えていく。それは同時に遠征が失敗する可能性もどんどん増えるということだ。
しかしエタは頷かなかった。
「いいえ。アラッタを攻略します。それがニッグの遺志です。多分、『荒野の鷲』はまだ撤退しませんから」
「ラトゥスね。カストラートじゃあ、ギルド長に逆らうなんてできないでしょうしね」
詳しい話は聞いていないが、ラトゥスはギルドに雇用されているが、なかば売り飛ばされた形だろうとミミエルは推測していた。
つまりエタたちとは違い、身の置き場所がギルド以外に存在しない。
アラッタの攻略が長引き、食うものもなくなれば蛮行に及ぶ悪漢がいないとは限らない。
「ニッグの最期の頼みを聞きたいと思います。ご協力願えませんか?」
「そう言われるとよう。断れねえな」
頭をがしがしとかきながらターハが首肯した。
ラバサルも重くうなずき、ミミエルはもとよりラトゥスを助けるつもりらしかった。
「ならやはりあの策を使うんだな?」
ラバサルでさえ、怯えるように声が震えていた。
「上手くいくかどうかはともかくよー……大丈夫なのか?」
普段快活で大雑把なターハも不安を隠せていない。
実際エタも不敬を咎められれば罰を免れられないとは覚悟していた。
「そのためにイシュタル神殿にわざわざ予言を偽ってもらいましたから」
「それが一番の不敬でしょうに……」
ミミエルの呆れの混じったため息が示す通り、イシュタル神殿から公布された予言は偽りだ。
エタの策を成し遂げるため、ラキアにエタが頼んだのだ。
さすがに神への侮辱ともとられかねない愚行だと自問していたが、ラキアはあっさり承諾した。
これにはミミエルが一番驚いていたし、ラキアに詰め寄るほどだったが、どうやら逆にラキアに説得されたらしい。
あくまでも王子を見つけ出すためだと、責任はすべて自分が持つと。
「そういえばラキア様にもご報告しないとね」
「うん。それは僕がやるよ」
「ああ。なら、わしが本営に献策しよう」
「よろしくお願いします。ミミエルとターハさんは少し予定に変更がるからニスキツルにそれを伝えてくれる?」
「あいよ」
「わかったわ」
三人が外に出てからエタはラキアに連絡を取る。
王子候補がすべて死亡したことを伝えると流石にラキアは落胆した様子だった。
『そうですか? アラッタの攻略はどうなりそうですか?』
「そのまま続けるようで、僕らもそれに加わります」
『わかりました。王子が逝去なされたのは残念ですが、ウルクが滅亡したわけではありません』
声音こそ悲しんでいるようだったが、きっぱりと大人らしい割り切りがあるように思えた。
だからこそ。エタも本題に入ることができた。
「ラキア様。お尋ねしたいことがあるのでよろしいでしょうか」
『何でしょうか』
「ラキア様の持つ、父親の名を解き明かす掟の詳細と、国王陛下が亡くなった時の御様子を教えていただけませんか?」
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