第三十三話 魔物たちの食事
「どうしたのエタ。話を続けてもらえるかしら」
笑顔に青筋が見えるのはエタだけではなかったらしく、ターハもラバサルも怒りを買わないようにそっぽをむいた。
エタはもうこうなっては腹をくくって……そのまま話を続けることではぐらかすことにした。
「まず城攻めで重要なのはお互いの食料がどれくらいもつのか、ということ」
「それはもちろん、食事がなければ人は生きていけないもの。でも……」
「うん。シャルラ。クサリクの体を調べたんだよね?」
「ええ。お父さんが部下に命じていたけど、あれはあなたの提案?」
「うん。クサリクが何を食べているのか気になっていたんだけど……どうだった」
当然ながらターハとラバサルはまだらの森の攻略方法、食物連鎖を思い出していた。あれも迷宮の魔物が何を食べるかということから始まった発想だった。
「結論から言うわ。クサリクは何も食べてない。口はあるけど、内臓が人間と違って、胃腸みたいなものは何もないのよ」
「……」
「はあ!?」
「むう。石の戦士のようなもんか? 血はあるみてえだから生き物だと思ってたんだが……」
エタは予想していたのか納得し、ターハは驚き、ラバサルは冷静に分析していた。
「どうやってとか、そういうものはわからないけど、もしもクサリクが何も食べなくてよいのなら、兵糧攻めなんかは意味がないわね」
「そうだね。城攻めは真っ向勝負をせずに、内側の人間を動揺させたり干上がらせたりするべきなんだ。でも、魔物であるクサリクにそれが通用するとも思えない」
それに対してこちらはここで戦えば戦うほど食料は減るし、士気も下がるだろう。
持久戦では勝ち目がないのだ。
「でもよう。力押しがあの様子じゃあなあ」
ターハの視線の先には挑んでは跳ね返される味方の姿があった。その先は言わずともわかる。
このままでは負ける。
「シャルラ。ニッグさんの様子はどう?」
遠征そのものの成否は分が悪そうだが、本来の目的である王子の護衛……もちろんニッグが本物であるという前提だが……だけは失敗するわけにはいかない。
「『荒野の鷲』そのものに休息許可が出てるみたいだからしばらくは安全よ」
「……あの城壁に挑むよりは、だがな」
ラバサルの言う通り、味方の陣地でさえ必ずしも安全な場所とは限らないのが現状の辛いところだった。
「あら? お嬢様も来てたの?」
軽い皮肉とともに現れたのはミミエルだった。
「ええ。エタに用事があったから」
「あ、そう。用事は終わったの?」
「いいえ。あと一つ聞くことが残ってるわ」
(……ごまかせなかったみたいだ)
シャルラはエタをどうあっても糾弾するつもりらしい。
「ふうん。ま、いいわ。エタ。クサリクを見てて気になることがあったわ」
「え、ちょっと待ってここから見えたの?」
「そうだけど?」
ここから城壁まではかなりの距離があり、人の頭などけし粒のようにしか見えないが、ミミエルのすぐれた視力は楽に戦場を観察できていた。
「続けるわよ。まず城壁の上にいるクサリクたちには奇襲の時みたいに首飾りをつけていた奴はいないわ。そして、あいつらの死体から湯気みたいなものが出てるわね」
「湯気え? なんでそんなもんが出てんだよ」
「冬ならまだしも、今は夏だぞ?」
「私にもわからないわよ。エタ? 何か思いついた?」
「……少しだけなら。……できれば、アラッタを上から眺めたいな……」
「それなら、父さんが物見台のようなものを作っていたからできていると思うわよ。来る?」
シャルラの提案に、エタは頷いた。
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