第三十二話 攻城戦
雨のように降ってくる石。
掟も何もない、ただの石であっても高所から落ちてくるだけで人は簡単に死んでしまう。これが籠城戦の強みの一つ。
重力という数千年を経ても何一つ変わらない法則は大いなるクサリクの味方なのだ。
「梯子をかけろ!」
小隊長が号令をかけ、石の雨をかいくぐって城壁までたどり着いた冒険者や兵士たちが梯子をかける。
梯子はかかった。
しかし。
「おい! 梯子が城壁まで届いてないぞ!?」
予想されていたよりも城壁が高かったことと、そもそも梯子を作るような作業が苦手だった冒険者が作ったこともあって正確さが足りていなかったのだ。
それでも中には身軽なものもおり、何とか城壁の上にたどり着いたものの。
「ぎゃあ!?」
そんな悲鳴をあげ、槍衾に突き刺された。
なんとか城壁まで登る兵士たちが増えると、今度は人の頭よりも大きい岩を落とし、梯子を人もろとも押しつぶす策に打って出た。
そんなことを繰り返し、すでに太陽は真上を過ぎていた。
エタを含むシュメールの面々はその様子を本営から見守っていた。
彼らはクサリクたちの奇襲に対する功績を評価され、一日目は休息する許可が与えられたのだ。
まだ働いていないのに休息というのも妙な話だが、制度上そうなるらしい。
「エタ。この攻城戦をどう見る?」
「戦況は芳しくないようですが……ラバサルさんはアラッタのような攻城戦に参加したことはあるんですか? どちらかと言うと人同士の戦争になると思いますが」
基本的に都市国家群は今のところ同盟関係にあるが、小競り合いが起こることはあるし、遠方から異民族が侵入することもあると聞く。
そういう経験をラバサルなら持っていてもおかしくはなかった。
「迷宮攻略で似たようなことならあるが……やはり違うな」
「あたしもねえよう」
根本的に冒険者としての経験には乏しいミミエルには聞く意味がないし、それに彼女にはより重要な仕事を託してある。
「それで、この攻城戦は上手くいくと思うか?」
ラバサルの質問に対して誰にも聞かれないように小声で返答する。
「……無理、だと思います」
「根拠は?」
あくまでも知識としてしか知りませんが。
そう前置きしてから話し始めた。
「まず攻城戦において重要なのは数の差と補給の差です」
「数の差なら……まだわかんねえよなあ?」
ターハが寝転がりながらも油断なく戦場を見つめる。
「ええ。わかりません。僕らはまだ、アラッタの全戦力を見てすらいません。だから兵力にどれくらい差があるかすらまだわかっていませんし、城に籠っている方が有利であるのはここから見ていても嫌というほどよくわかります」
「これでもしも兵力が五分なら……」
「勝ち目はありませんね。これも聞いた話ですが、城をまともに落としたければ三倍以上の戦力が必要だとも聞きます」
「三倍、ねえ?」
ちらりとターハが城壁の上を窺う。さすがに城壁にいるクサリクよりも遠征軍全体の方が多いことは間違いない。
しかしそれでも三倍いるかどうかは自信が持てそうにはなかった。
「やはり分が悪いか。補給とは何のことだ?」
「これも、アトラハシス様に伺ったことになりますが……」
「へえ。その話、私も聞かせてもらっていいかしら」
冷え切った声にエタがびくりと恐怖に身を震わせると、あくまでも笑顔のシャルラがそこに立っていた。
笑顔だったが、冥界の神、エレシュキガル神を前にしたようにエタは冷汗を吹き始めた。
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