第二十七話 夜襲
ごつごつとした岩の大地に、整然とした行進音が響く。
夜闇で黒に染まった大地に紛れた兵士の集団は明らかに人間ではなかった。
上半身に粗末なぼろ布を纏い、首飾りを纏っており、槍で武装してはいるが、その頭は人ではなく牛だった。
曰く。
創造と海の神、ティアマト神が産み落とした怪物の一種である、クサリク。迷宮都市アラッタの住人である。
だがそれは以前からわかっていたことだ。
ウルクからは遠く離れているが、この遠征軍は十分な下調べを行い、アラッタに生息する魔物がどのような種類なのかきちんと把握していた。
だからこそアラッタから十分な距離を取って野営場所を選んでいたのだ。
だがしかし。
クサリクたちは遠征軍に肉薄する距離まで迫っていた。
「エタ!? どうなってんだよう!?」
ターハは自分の得物である棍棒を振りかぶり、迫る槍を叩き落としながら叫んだ。放たれている投げ槍は当然、クサリクたちのものだ。
「わかりません! ここは間違いなく迷宮の外です!」
「じゃあなんでアラッタの魔物がうろついてんのよ!」
ミミエルもまた、自分の大槌で投げ槍を撃ち落とす。
「可能性として……うわあ!?」
投げ槍がエタの目の前に突き刺さる。それを見かねたラバサルが自分の盾を手渡した。
「ありがとうございます。ええと、戦士の岩山のように迷宮が広がったか、迷宮が予想よりも広かったか、あるいは……アラッタの掟が魔物は迷宮から離れても活動できるものだったのか……それとも」
「まだあるの!?」
「うん。可能性としては、アラッタの迷宮に魔人が誕生して、その魔人がクサリクたちを連れてきた、とか。魔人なら迷宮の外で活動できるし、能力次第では味方を引き連れたりできるのかもしれない」
四人はわずかに押し黙る。
全員、特にエタには魔人に対して苦い思い出がある。
言い淀むのも無理からぬことではあった。
やがて、雨のごとく降り注いだ投げ槍は収まった。
「これで終わり……なわけないわよね」
ミミエルの言う通り、投げ槍は収まったが、ざりざりと土を噛む音が近づいてくる。
今度は直接斬りかかってくるつもりだろう。
「エタ。わしらはどうする?」
アラッタから魔物が出てくるとは予想していなかったため、この野営地の防備はぜい弱だ。下手をすると一方的に蹂躙される可能性すらある。
その中で最も統率がとれ、なおかつエタが信用できる相手と言えば。
「ニスキツルと合流しましょう。あの人たちなら僕らとも協力してくれるはずです」
「それしかないよなあ。でも、王子の護衛はどうすんだよ」
奇襲によって混乱しているこの状況はことをおこすには最適の状況だ。
エタがもしも逆の立場ならこれ幸いとばかりに王子候補を暗殺しようとするだろう。
「今は自分たちの身を守るのが最優先です」
仕事上の義務はあるが、そもそも極秘の仕事なのだ。
最悪の場合失敗したとしてもシュメールという企業が受ける損失はそれほどなく、争いで仲間が命を失うことの方がエタには耐えられなかった。
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