第二十三話 謎々大会
エタの困惑をよそに父鳥は陽気な調子で語りだす。
「ででん! 第一問!」
「はあ……」
勢いのあるアンズー鳥にエタは押されっぱなしである。
「建物に入るとき、目を閉じている。そこから出ると目を開いている。そこはどこだ?」
面食らっていたエタだったが、これは今までの謎々の延長線上であると気づくとすぐに頭を切り替えた。つまりこのアンズー鳥たちは迷宮の法則に則ってエタを試そうとしているのだ。
ここにのぼるまでの謎は図形を組み合わせる者だったが、これは言葉遊びだ。
そのままの答えではない。
(……洞窟はどうだろうか)
目が慣れないまま入れば何も見えないが、出るとき、つまり暗闇に目が慣れれば見えるようになる。
(いや、もっとこう……目に見えるものが答えじゃない気がする。なら……)
「答えは……学びやですね?」
知識によって目が開かれると考えれば入学する時は目が見えず、出るときに目が開くというのはつじつまが合う。
「ぴんぽんぴんぽん! 正っ解っ!」
「では第二問!」
「この問題にはすぐに答えてや!」
「わかりました」
こうなるとエタも相手の勢いについていけるようになってきた。そもそもエタは体を動かすよりも頭を働かせるほうが得意なのだ。
この迷宮はエタに向いていると言えた。
「ウルクにウサギの子供。ニップルに亀の子供。ラガシュにオオカミの子。ラルサにカエルの子。子が入れなかったのはどの町?」
「ラルサです。カエルの子供はオタマジャクシですから」
「せーかーいー」
その後も謎々を矢継ぎ早に繰り出されたが、エタはよどみなく答え、そのたびにアンズー鳥は上機嫌になっていた。
「がっはっは! 兄ちゃんやるやないか!」
「あんた! 兄ちゃんやなんて失礼やで! あんたの名前は? 人間には名前があるんやろ?」
「エタリッツです。あなた方のことは何とお呼びすればよいですか?」
「ああん? わいらは人間とちごて名前なんぞいちいち呼ばんからな。まあ、父、母、子。それで十分や」
メソポタミアに住まう魔物、あるいは神獣は人とは違う論理で動いていると聞く。
名前についてどうとも思わないのも、それがアンズー鳥の性質なのだろう。
謎々好きなのはこの迷宮の掟を反映しており、この口調や語調も……いや、これは多分彼らのもともとの性格である気がする。
「では、父鳥さん。僕はあなた方に求めたいものがあります」
「ほう? なんや? 金銀財宝? それともドゥムジ神の攪拌器? イシュタル神の鎧?」
もしもアンズー鳥が本当にそれらの品々を持っているのなら、ウルクのすべての宝物と比べても余りあるほどの財だ。
今までの迷宮の傾向からして、謎々を正解すれば褒美があるというは正しいだろう。
だが。
もしもこの父鳥の問い自体が謎々だとするのならば?
この問いには慎重に答えなければならない。おそらくは自らの知恵を示さなければならないのだろう。
もっとも。
(こうやって自分の身を守るために打算を巡らすのが賢い人間のやることなのかはわからないけど)
エタの心の中の自嘲交じりの疑問こそが一番の謎かもしれなかった。
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